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何度繰り返しても



 俺はローラ会長ことエレオノラ・シャルロワのことが好きでもあり嫌いでもある。ネブスペ2のキャラとして、だ。

 まさに高嶺の花という存在で普段はツンツンしているローラ会長が、イベントを重ねると段々と無邪気な姿を見せてくれるというギャップはたまらないが、その境遇故に激しく愛を求めてしまう性のせいか、第三部の主人公である一番先輩がロザリア先輩、クロエ先輩、オライオン先輩達他のヒロインと仲良くしてくると嫉妬のあまり殺しに来るとかいうシリアルキラーっぷりも見せてくる。


 俺が夢に思い描いていた第三部のプランとしては、メインヒロインであるローラ会長のことは主人公である一番先輩に任せて、他三人のイベントをローラ会長の干渉に怯えながら頑張ろうというものだった。そもそもネブスペ2原作でローラ会長が一番先輩だったり他のヒロインを襲撃するのは嫉妬しているというだけで、別に一番先輩がローラ会長と交際していれば俺が何をやっても問題なかったはずだ。

 まぁ、こんな絵に描いた餅のようなプランは第二部で俺が記憶喪失になってしまった時点で全て崩壊してしまったわけだ。今思えば第一部の頃も色々あったが、あの頃が一番平和だったように感じられる。


 俺もローラ会長というキャラは好きだが、やはり当事者として攻略したくはない。そもそも第三部のどのヒロインを攻略してもローラ会長がラスボスとして立ちはだかるだけで嫌なのに、ローラ会長ルートとなるとますます死の危険が迫りそうで恐ろしいのだ。

 迫る十二月二十四日、シャルロワ家主催のパーティーには絶対に行かないといけないし……しかしここまで来てしまっては、目の前のことに真摯に向き合わなければなるまい。



 ローラ会長を後ろから抱きしめると、その艷やかな長い銀髪から心地よい香水の香りが鼻をくすぐり、彼女のすすり泣く声が聞こえてきた。


 「……叔父様はティルザと違って、とても頼れる人だった。私にとってはいわば父親代わりみたいなものだった。

  学業面や私生活での悩みだとか、今後のシャルロワ家についても、色々相談に乗ってくれて……そんな叔父様が、私達の敵だなんて未だに信じられない」


 怖い。

 画面越しで見ているのと、こうやって当事者として直面するのでは全然緊張感が違う。

 俺は、このローラ会長の闇を受け入れることが出来るだろうか? そんな不安も頭に過ったが、それを悟られないように俺はローラ会長をさらに強く抱きしめた。


 「私はあの人を、一体どこで止めることが出来たのだろうって、私に何が出来たのだろうって、今まで何度も考えたわ。

  でも……私には無理だった。叔父様は何度も私を救ってくれたのに、私は叔父様を救うことは出来ない……そして、遠くに行ってしまうの」


 幼い頃に母親を失い、実の父親を憎んでいたローラ会長にとって、トニーさんはどれだけ頼れる存在だっただろう。いわば後見人のようなものだっただろうに、シャルロワ家の当主としての船出はかなり険しいものになってしまった。

 いや、俺にとっても想定外も想定外な事態なんだけど。



 「……バカみたいだわ。貴方に対してこんな姿を見せるなんて」


 俺は黙ってローラ会長の体を抱きしめながら話を聞いていたが、ローラ会長も俺を振りほどこうとしなかった。今、ローラ会長がどんな表情をしているかは伺えないが、きっと泣き腫らした顔を俺に見せたくはないだろう。


 「良いんですよ、ローラ会長。僕相手に強がらなくても」

 「別に強がっているわけじゃないわ。貴方をからかうのが面白いだけよ」

 「それは随分と高尚な趣味をお持ちのことで」


 色々と吐き出して少しはすっきり出来たのか、いつものローラ会長の調子が戻ってきたように感じたため、俺はそっと彼女の体を離した。それでもまだ俺の方を向いてはくれなかったが、俺がホッと胸を撫で下ろしていると彼女が言う。


 「貴方も叔父様とは結構親しかった?」

 「はい。僕の叔母の望さんに振り回されていたのをよく見かけましたよ」


 トニーさんが捕まったことに衝撃を受けているのはローラ会長だけでない。トニーさんを部下に持つ望さんの良く出来た補佐役だったが、望さんも今後どうするのだろう。余計に月研が散らかるぞ。

 なんて考えていると、突然ローラ会長が俺の方を振り向いた。思ったほど目元は赤くなっていない、というかそんなに明るくないからよく見えないが、俺に不気味な笑顔を向けながら彼女は口を開いた。


 「じゃあ、貴方は叔父様が過激派のリーダーだということは知っていたの?」

 「……へ? いや、知っているわけがないじゃないですか」


 予想外の質問に俺は動揺して少し驚いてしまったが、現時点の烏夜朧がそんなことを知っているはずがないため、知らない体で俺は答えた。どうしていきなりそんな質問をされたのかわからないが、ローラ会長は不気味な笑顔を俺に向けたまま話を続ける。

 

 「別に貴方がその事実を知っていたとしても責めるつもりはないわ。ただ……貴方が何かを知っているような気がしてならないの。時折、貴方はまるで想像もつかないような使命感を持って、まるで未来を予知しているかのように行動しているように思えて」


 ……。

 ……やはりローラ会長は薄々勘づいているのか? いくら聡明なローラ会長と言えども、何のヒントも無しに答えに辿り着かれるのは怖いんだが。確かに今までに何回か聞かれたし俺も答えをはぐらかしてたけど、ローラ会長は何かに気づいているのかもしれない。


 「そんなに僕の行動が不思議ですか?」

 「えぇ。貴方が探していた琴ヶ岡ベガという幻だってそう。気になって私も調べてみたけれど、どれだけ調査させてもどこにもそんな名前は出てこない。貴方が夢や幻覚を見て勘違いしているのかと思っているけれど、それにしては貴方の記憶がはっきりしているから、私にとってはホラー体験よ」


 俺にとっても大概ホラー体験だが、まさかベガのことについて調べてくれていたなんて思わなかった。シャルロワ家の力を持ってしても見つけられなかったのなら、もう完全に消えてしまっているのだろう。

 どうやらローラ会長は俺のことを結構怪しんでいるようだが、俺が何者かまではわからないだろう。ローラ会長にネブスペ2というエロゲについて教えるのもアリではあるが、ローラ会長自身が第三部のメインヒロインという重要なポジションにいるため、変な行動に出られるともう展開が滅茶苦茶になりそうで怖いし、そもそもこの世界がエロゲの中なんですよと教えても信じてくれそうにない。

 この話の流れで、シャルロワ家が主催するクリスマスパーティーで僕は死ぬんですよとは言えないし……。


 「それに、貴方は……私が八年前に出会った、()()()のことを知っているのよね?」


 ローラ会長の方からそれを話題に出したのは意外だった。ローラ会長は八年前、ビッグバン事件の直前に月ノ宮海岸でとある少年と出会って恋に落ちたのだが、本来烏夜朧はそれを知らないはずだ。最初に彼を引き合いに出した時はびっくりするぐらいブチギレられたが、俺は前世でネブスペ2をプレイした記憶を思い出しながら答える。


 「はい。そんなに意外ですか?」

 「あの人と直接話したというわけね?」

 「はい。ローラ会長が持っている金イルカのペンダントも、その人から貰ったものじゃないんですか?」

 「……えぇ、そうよ」


 ローラ会長は首から下げていたペンダントを服の中から出して、それをギュッと握りしめた。原作でも名前は明らかになっていないが、ローラ会長にとっては特別な存在のはずだ。


 「あの人は私に名前も教えてくれなかったから、探そうにも見つけられなかったの。おそらくは、あの事件で死んでしまっているのかもしれないけれど……でも、私は僅かな希望を信じてみたい」


 するとローラ会長は俺の手を取ると両手でギュッと握り、そしてすがるように俺に言う。


 「貴方は、私の初恋の人じゃないの?」


 ……。

 ……違う。

 残念ながら違うんだよ、ローラ会長。それはあり得ない。ネブスペ2のキャラは皆、ビッグバン事件の直前の記憶はあやふやになっているのだが、烏夜朧であるはずがないんだ。あの時、ローラ会長と烏夜朧が出会っていてはいけないんだ。せめて第三部主人公の一番先輩とかじゃないと。


 「それは、ローラ会長のご想像にお任せします」


 俺はあえて答えを曖昧にした。トニーさんを失ったローラ会長は今、わらにもすがりたい思いで俺にそんな質問をしてきたのだろう。正直に違うと答えると彼女は元気を失ってしまうだろうし、嘘をついてもいつかはバレて彼女を傷つけるだけだ。

 ……もっとも、ローラ会長は俺のこの答えの裏に隠された意図に気づいているかもしれないが。


 「いじらしい答えね」


 そう言ってちょっと不満そうな表情だったが、その後も少しの間俺はローラ会長と星空を眺めて、そして一緒に登山道を下って月研へと戻った。月研では何故かコガネさんとブルーさんとナーリアさんによる謎のラップバトルが繰り広げられていて大盛り上がりだったが、それはまた別のお話。

 


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