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太陽と地球



 十二月五日、今日は現在の月研が再建されてから八年目に当たる記念日で、月研では普段は有料のプラネタリウムを無料で観覧出来たり、月研に勤める研究者達や宇宙飛行士の講演会が開かれたり、宇宙船やロケットの模型に試乗できたり出来るイベントが開催されている。

 勿論、月研の所長であり俺の叔母である望さんも講演するため大忙しで、期末考査を終えた俺と夢那もイベントに駆り出されることとなった。


 講演会の準備や会場整理の手伝いをしていた俺と夢那は、舞台袖から天文学者や本物の宇宙飛行士の講演を聞いていた。わざわざ月研へやって来た宇宙飛行士は今月の末にアメリカから発射されるロケットで宇宙へと旅立ち、月面基地の建設計画プロジェクトに携わる予定だという。すげぇ大物。


 「宇宙飛行士ってのも憧れるね……」


 そんな宇宙飛行士の講演が終わった後、夢那は感慨深そうにそんな感想を口にしていた。宇宙飛行士という職業はロマンに溢れているが、無重力下での生活に耐えうる体力とか専門的な知識も必要な職業で、最近は事故も減ってきたがやはり危険性を伴う過酷な職業だと思う。


 「夢那も宇宙飛行士になってみたい?」

 「もしボクが宇宙関係の仕事をするなら、エンジニアとか学者よりもそっちの方が性に合ってると思うんだ。もうスペースシャトルはないけど、いつかネブラ人と共同開発している宇宙船が完成したら、それに乗ってみたいよ」


 宇宙飛行士は新卒採用とか中途採用があるわけではなく、数年に一度候補者の募集があって、まず身体的な条件を満たしているか、そして様々な試験を乗り越えてようやくその夢を叶えることが出来る。定員も少なく人気だからかかなりの倍率で、狭き門であることに違いない。


 「兄さんも宇宙飛行士にならない? ほら、兄妹で宇宙飛行士とか面白そうでしょ?」

 「夢那がなりたいって言うなら頑張るよ」

 「でも兄さんって運悪そうだから、宇宙遊泳中に飛んできた宇宙ゴミが直撃して死にそうで怖い」

 「流石にそこまで悪くないよ僕の運は」


 俺もちょっとは憧れるが、普段慣れている世界から遠く離れた宇宙空間で、宇宙船や宇宙ステーションという狭い環境での娯楽のない生活に耐えられる気がしない。旧ソ連の宇宙飛行士は宇宙ステーションにゲームとかA◯を持っていっていたらしいけど。


 

 その後小休憩を挟んで俺と夢那はプラネタリウムの手伝いへ。本日限定で利用料が無料ということもあり多くのお客さんが長い列を成していて、俺は夢那と一緒に列の整理をしていた。

 すると、列に並んでいるお客さん達の中に知り合いを見つけた。


 「おわっ、烏夜先輩に夢那ちゃんだ」

 

 列に並んでいたワキア、ルナ、カペラの月学一年生三人組は職員に紛れて列を整理している俺達の存在に気づき、俺と夢那は彼女達の元へと向かう。


 「やぁ、三人でプラネタリウムを見に来たのかい?」

 「いやー、ホントはアルちゃんも誘ったんだけどさー。キルケちゃんとデートしに行くってさー」

 「ほ、本人は否定してたけどね」

 「私達はアルちゃん達を尾行しようと思ったんですけど、見事に撒かれてしまい……余り物三人で慰め合いに来たというわけです」

 「わ、私はそういうのじゃないですよ!?」


 そんな悲しい三人組だったんだこれ。いや多分その原因の大部分に俺が関わってると思うけど。

 原作には存在しないキルケルートで第二部は終わったからあの二人が上手くいくのか不安なところもあったが、まだまだ熱は冷めないようだ。残されたワキア達もあまり気にしていないというか、意外と元気そうで何よりだ。

 ……本来この集まりに存在したはずの少女が一人いないことは、残念でならないが。いや、下手に何かの事故や事件で命を落としたという事実すら残らないのであれば俺以外は誰も悲しむことは無いため、ワキア達にとってはまだ幸せな世界なのかもしれない。


 「朧パイセンは夢那ちゃんとデートしてるんですか?」

 「そうだよ」

 

 俺はルナの質問を否定しようとしたが、隣に立つ夢那が笑顔で即座に答えていた。


 「そうなの!?」

 「いや、僕達は望さんの手伝いに来ただけだよ」

 「それを口実に、烏夜先輩は夢那ちゃんとこっそり禁断の愛を……これ良いネタですね」

 「こらカペラちゃん、僕達をネタに漫画を描こうとしないで」

 「記事にしても良いですか?」

 「ガセネタだからやめなルナちゃん」


 夢那はあくまで冗談のつもりで言ったようだが、夢那とて第二部のヒロインの一人だったわけだし、原作だとアルタに対して中々の狂った愛を見せつけるから俺はちょっと怖かったよ。


 

 俺と夢那が与えられた職務を全うして忙しなく働いていると、プラネタリウムが設置されている月研の博物館の閉館時間を迎え、ようやく解放された。スピカやムギ、大星に美空等月学の知り合い達も月研のイベントに訪れていて、忙しさもあったが結構楽しかった。

 そして俺と夢那が椅子に座って一休みしていると、博物館と月研を結ぶ連絡通路の方から月研の所長である望さんと、副所長のトニーさんがやってきた。


 「やーやー、二人共おつおつー」


 望さんは相変わらず髪もボサボサで目の下にクマを作っていてかなり健康面で不安なのだが、最早これが平常運転になりつつある。

 一方で真面目な老紳士風のおじさんであるトニーさんは苦笑しながら口を開いた。


 「二人共、今日はお手伝いありがとう。お礼にのぞみん所長がなんでも言う事聞いてくれるって」

 「へ?」

 「ボクは焼肉食べたいです」

 「銀座で」

 「だそうですよ、のぞみん所長」

 「え、マジで言ってんの? いやいや、別にお肉は自由に買っていいからせめて家でやって頂戴」


 望さんから許諾を取れて、俺と夢那はお互いにニヤッと笑った。最初に法外というかかなりハードルの高い提案をして、その後一気にハードルを下げるのだ。そうすれば多少無理なお願いも聞いてもらえる。

 というわけで今夜は焼肉だー! せっかくだし誰か呼ぼうぜ。


 「それにしても今日は大盛況でしたね。望さんもウハウハなんじゃないですか?」

 「別に私達にお金が入ってくるわけじゃないのよ。むしろ準備費用とか講演者のギャラでマイナスよ。ま、そういうのは国が払ってくれるから知らないけど」

 「準備したのは大体私ですがね……」

 「私はネブラ彗星の研究で忙しかっただけだしー」


 なんて話しながら俺達が博物館の外に出ると、側にある噴水前に黒のトレンチコートを着た、長い銀髪の麗しい少女が佇んでいた。彼女は俺達の存在に気づくと、ニコッと微笑んでこちらへやってきて口を開いた。


 「ごきげんよう。テスト明け早々に精が出るわね」


 ローラ会長ことエレオノラ・シャルロワは俺と夢那を労うようにそう言った。


 「こ、こんにちはローラ会長。今日のイベントにいらっしゃってたんですか?」

 「えぇ、そうよ。貴方の帰りを待っていたの?」

 「どうして?」

 「恋人と一緒に帰りたいと思うのがそんなに不自然?」


 え、何その理由。ちょっとときめきそうになっちゃったけど、ローラ会長の場合は何か裏がありそうで素直に喜べない。ローラ会長と一緒に帰るイベントを手放しに喜べないぐらいには俺はネブスペ2のキャラとしてローラ会長のことを知り過ぎているし、やっぱり何を考えているのか未だに全然わからない。

 俺がローラ会長と恋人という関係になって一ヶ月も経ったが、やはりまだローラ会長との間には見えない壁が立っているように思えた。


 「シャルロワ会長。今夜は焼肉の予定なんですが一緒にどうですか?」

 「せっかくのお誘いだけど、夜は予定があるからごめんなさい。鉄板の上で焼かれて踊り狂う彼を見るのが楽しみだったけど残念だわ」

 「僕を焼く気ですか!?」

 「特大サイズの鉄板が必要ですね」

 「夢那!?」


 なんかローラ会長と夢那がとんでもないこと言ってるんだけど、そっちで仲良くするのやめろ。望さんもトニーさんも他人事だと思って笑ってるんじゃないよ。

 まぁ流石に冗談だと思うが、ローラ会長は彼女の叔父であるトニーさんの方を向いて言った。


 「叔父様、本日はご苦労さまです。今夜の会食にはいらっしゃらないのですか?」

 「あ、あぁ……すまない、ローラ。私の方も外せない予定があってね」

 「それは残念です。クリスマスイヴのパーティーは楽しみにしています」


 実の父親であるティルザ爺さんのことを嫌っているローラ会長は、ティルザ爺さんの弟であるトニーさんのことはかなり信頼している。トニーさんもシャルロワ家の人間とはいえ財閥の意向にはあまり関わっていないから家のことに全然口出ししないため、後継者として苦労しているローラ会長の良き相談相手だ。

 老紳士風でいかにも善人っぽいトニーさんだが……やっぱりこの人が黒幕というか、ネブラ人の過激派のリーダーとは思えないよなぁ。まだ尻尾は掴めそうにない。



 なんて談笑していると、月研の本棟から俺達の方へ近づいてくる白衣姿の二人組の男女の姿が見えた。一方は黒髪短髪のいかにも好青年っぽい雰囲気を漂わせる若く背の高い男性で、もう一方は長く艷やかな青い髪で、隣に背の高い男が立っているからか相対的にかなり小さく見える青い瞳の女性だった。


 「あれは……!?」

 

 この世界で始めて出会うはずなのに、俺はその二人の男女に見覚えがあった。

 そう、あの二人もこの世界に存在しているはずなのだ。ネブスペ2と世界観を共有する前作、初代ネブスペの登場人物が。


 「どうも烏夜さん。今日は研究室を貸してくださってありがとうございます」

 「いーよいーよそんなの。いくらでも好きに使いなよ」

 「のぞみん所長のご厚意に甘えます」

 「その呼び方はやめんかい」


 白衣を着ていていかにも学者っぽい雰囲気で月研の所長である望さんと挨拶しているが、この月研に勤めている学者や研究員ではない。

 確か……今はロケットを開発する企業に勤めているはずだ。


 「あの、望さん。その方達は?」

 「あぁ、紹介するわ。ロケットの開発エンジニアの天野君とブルーちゃん。私の大学の後輩で、月学の卒業生よ」

 「どうもどうも、天野太陽です。君が烏夜さんが言っていた甥っ子君かな?」

 「よろしくね。私は天野ブルーよ」

 「は、はい……」


 天野(あまの)太陽(たいよう)とブルー・マーブル……いや、今は天野ブルーか。この世界に存在することは予想していたが、やっと会うことが出来た。

 初代ネブスペの主人公と、メインヒロインのご登場だ。



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