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理事長像にポスターを貼ってはいけません


 

 俺がローラ会長の偽りの恋人として彼女を制御しつつ、一番先輩がロザリア先輩とクロエ先輩とオライオン先輩の三人を一人で攻略してもらうよう差し向けつつ、もう十二月を迎えて俺は期末考査を受けていた。

 まだ俺達は二年次だし、受験勉強なんて夏に部活を辞めてから始めて普通に成績が伸びるやつもいるからあまり真剣に取り組んでいない奴もいるが、一応ローラ会長の恋人として恥のない成績を残せるよう俺はちょっとだけやる気を出していた。

 やっぱり運命って日頃の行いでちょっとは変わってくると思うんだ。そう信じたい。


 さて、期末考査も最終日を迎えてようやく緊張から解放されクラスの雰囲気も穏やかになった中、俺の緊張はまだまだ解けていなかった。

 

 「な、なんだか緊張しますね」

 「スピカ、何か悪いことしたの?」

 「そ、そういうわけじゃないけど」


 放課後、俺はスピカとムギと一緒に生徒会室を訪れていた。扉をノックして中に入ると、現生徒会長であるローラ会長、そして副会長である一番先輩やオライオン先輩を始めとした生徒会役員の面々が勢揃いしていた。

 何だこの人達の風格。何か裁判で証言台に立たされている気分なんだけど。

 そんな中、(一番先輩より)一番風格があるローラ会長が笑顔で口を開いた。


 「ようこそ。どういったご用件で?」

 「あの、私達は次の生徒会選挙に立候補したいんです」


 そう、もうすぐ月学の生徒会の代替わりの時期であり、新しい生徒会長を決めなければならない。一応クラスで生徒会長だとか役員に立候補したい希望者はいないか確認され、そして希望者は生徒会室に行くよう言われたのだ。


 「立候補者は三人?」

 「あ、僕はただの付き添いです」


 立候補するのはスピカとムギの二人。今の生徒会に所属する二年生は誰も立候補せず、まさかの一騎打ちという形に。


 「成程、今年も一騎打ちね。生徒会長を引き継いでくれる有望な子達がいてくれて私も嬉しいです。

  では……明星君。選挙における注意事項を」

 

 学校で行われる選挙とはいえ、投票箱は月ノ宮町の選管から借りた本物だし、勿論不正が許されるものではない。

 選管って何だかかっこいいなぁと学生時代の俺はしょうもないことを考えていたが、一番先輩はメガネをクイッと上げてからスピカとムギに説明を始める。


 「来たる十二月十一日、立候補者は体育館に集まった全校生徒の前で演説を行い、その後に投票が行われ翌週に結果が発表される。

  明日には立候補者が掲示されるが、自作の選挙ポスターを製作して校内に貼ったりビラを配ったり、常識的な場所で演説を行うのは選管や学校職員に許可を取れば良しとする。

  ただいくつか注意事項がある」


 そう言って一番先輩は分厚いプリントの束を取り出して、そのプリントを睨むように見ながら話し始めた。


 「まず選挙ポスターを貼ってはいけない場所がルールとして定められている。各更衣室、部室、職員の車の外側及び車内、音楽室の音楽家の肖像画の上、校長室の歴代校長の写真の上、自販機の正面側、学食のメニューの看板の上、視聴覚室のデスクトップ画面への設定、理事長像……」


 いやどんだけあるんだよ貼っちゃいけない場所。ていうか普通貼らない場所ばっかりなんだけど、それがルールとして禁止されているってことは前にそこにポスターを貼った奴がいるということか? どうなってんだよこの学校の生徒のモラルは。

 ……いや待て。確か初代ネブスペのヒロインであるコガネさんやレギナさん達が生徒会選挙の時にやりたい放題やってたって小話があったような気がするし、もしかしてあの人達の仕業なのか? 今でこそ大人になったから結構落ち着いているけど、月学に在籍してた時のあの人達、中々ぶっ飛んでたからな。


 「……ホームベース、生徒の背中、学校職員の背中及び頭皮。

  以上が選挙ポスターを貼ってはいけないと定められた場所だ。質問はあるか?」

 「女子生徒のスカートの裏側はダメですか?」

 「……それも貼ってはいけない場所に追加しておこう。スピカさんの方は、質問ないか?」

 「ドローンで選挙ポスターを飛ばしても良いですか?」

 「それは確認してみないとわからんが、出来るものならやってみてくれ」


 スピカもムギも中々ぶっ飛んだ発想してるけど、選挙大丈夫かな。ムギは女子生徒のスカートの裏にポスターを貼ってどうするつもりだったんだよ。


 「じゃあ次は演説してはいけない場所についてだが……ベラトリックス、すまないが頼む」

 「は~い。えっと、選挙当日まで昼休みとか放課後に演説することは許可されているけど、いくつか演説しちゃいけない場所が決まってるから説明しますね。

  トイレ、給湯室、職員室、校長室、理事長室、部室、体育倉庫、他人の家、体育館の屋上、理事長像の上……」


 いやこっちも禁止事項もりもりか。誰か前にあのロリっ娘理事長像の上によじ登って演説した奴いるだろ、ホントどうなってんだこの学校のモラル。俺はもうちょっと真面目な学校だと思ってたよ。


 「あと、演説する時に使ってはいけないものと方法について。

  まずチェーンメールを生徒や学校職員に送りつけて自分の主張を伝えてはいけません。ウグイス嬢を雇ってはいけません、せめて校内の知り合いにしてください。あと演説会場でお菓子を配ったり飲み物を振る舞ってもいけません。それと地元のFMラジオをジャックするのもダメです」


 もう禁止事項どれだけあるんだって感じだが、その後もずっと様々な禁止事項を延々と聞かされ続けていた。



 「懐かしいわね。私も去年、先代の生徒会役員からあんな説明を聞かされたものよ」


 スピカやムギへの説明が一通り終わり、他の生徒会役員が帰って俺とローラ会長、一番先輩、オライオン先輩の四人が残った生徒会室でローラ会長はかつての思い出を懐かしんでいるようだった。じゃあ来年生徒会長に立候補する奴は同じこと聞かされるのか。


 「しかし意外だな。俺は烏夜も生徒会長に立候補すると思っていたのだが」

 「へ? そう見えます?」

 「あぁ。どうせこの学校を自分のハーレムにしますとか言い出すかと思っていた」

 「何をおっしゃいますか一番先輩。やはり生徒会長という肩書を持つ方を侍らかすのも楽しいものですよ」

 「そうか、お前はそういう奴だったな」


 俺が立候補しなかったのはただ面倒くさかったってのが理由だけどね。多分俺はガヤとして外からあーだこーだ好きに言うポジションの方が合っている。


 「でも、烏夜君は実際に生徒会長という肩書を持っている人を恋人に持ってるわけだよね……」


 そう、一番先輩もオライオン先輩も、俺とローラ会長が交際関係にあることを知っている。だがこの関係が偽物であるということには気づいていないだろう、もしかしたら一番先輩は何か察しているかもしれないがオライオン先輩は信じ切っているようだ。

 一番先輩は溜息をついてオライオン先輩は苦笑いしていたが、ローラ会長は涼しい顔で言う。


 「でも私もいずれ生徒会長という肩書を失うのよ。ようやくこの重圧から解放されるわ」

 「重圧とか感じてたの?」

 「当たり前でしょ。おっちょこちょいなベラが何か変な失敗しないか、いつも肝を冷やしていたわ」

 「も~私の凡ミスも少しはマシになったでしょ~」

 「星河祭の資材の発注の時に桁を間違えそうになってただろ」

 「それはそれ~」


 この結構仲の良い三人のコンビもあまり見られなくなってしまうということか。もう年末の時期だしかなり受験に向けて追い込みをかける時期だ。まぁこの人達は余裕で受かってそうだけど。

 そんな四方山話の後、帰り支度を済ませたオライオン先輩が先に立ち上がって一番先輩に言う。


 「さて……あ、明星君。今日もまた後で集まろうね」

 「あぁ」

 「おや? さては一番先輩とオライオン先輩、この後密会するんですか?」

 「う、ううん、ちょっと一緒の予定があって」

 「息抜きにゲームでもしようという話になってな」


 一番先輩、ちゃんとイベントこなしてるじゃん。俺に協力してくれている夢那からたまに一番先輩の動向を聞くが、ゲーム中で描写されるイベント以外でも一番先輩はロザリア先輩、クロエ先輩、オライオン先輩の三人と仲良くやっているようだ。


 「へぇ、明星君がゲームをするなんて意外ね。ベラは得意なの?」

 「へ? う、うーん、いや、そういうわけじゃないよ」

 「いやいや、何を言うんだ。前に銃を撃ち合うゲームでかなりの敵を倒して優勝してただろう」

 「あ、あれはたまたまだよ、ほら、ビギナーズラックてやつだよあはは~」


 あぁ、オライオン先輩の目が泳いでる。自分がゲーム配信者『オリオン』という裏の顔を持つことを必死で隠したいのだろう。


 「……そういえば前にメルシナの買い物に付き合った時、ゲーム配信者のグッズの中にオリオンという女性を見かけたわ。かなりゲームが上手いけれどかなりの破天荒だって聞いたわね」

 「へ、へ~そういう人もいるんだね~」

 「声もベラに似てたわね」

 「す、すごい偶然だね~」

 

 いやローラ会長、絶対正体知っててやってるでしょ。もうオライオン先輩の目が泳ぎに泳ぎまくって冷や汗もダラダラ流してるし、もう見てて可哀想なんだけど。


 「烏夜、配信者って何だ?」

 「ゲームとかをプレイしている様子を動画サイトで配信したりする人がいるんですよ。ストリーマーって言ったりもしますけど」

 「そういう仕事もあるんだな」


 一方で一番先輩は全然気づいていないようだ。良かったねオライオン先輩、俺とローラ会長にはバレバレだけど。

 まぁあまりにいじるのも可哀想だと思ったのかローラ会長もそれ以上追求せず、先にオライオン先輩と一番先輩が帰って俺とローラ会長が生徒会室に残された。


 「ローラ会長も僕と一緒にゲームなんていかがですか?」

 「私が普段からそういうものに触れていると思う?」

 「いえ全然」


 ローラ会長がゲームをしてる姿、全然想像つかない。多分ゲームと言ってもせいぜいトランプぐらいじゃないかなこの人が遊ぶのは。配信者オリオンみたいにコントローラーをぶん投げたりモニターをぶっ壊してたら面白いけど。

 そんなことを考えていると、ローラ会長は椅子から立ち上がって、夕日が差し込む窓際に立って口を開いた。


 「そういえば貴方、クリスマスイブとクリスマスの日は空いているかしら? まぁ空いてなくても無理矢理空けさせるけど」

 「ご安心を、僕はローラ会長に誘われると予見して予め予定を空けております」

 「そう。じゃあクラスマスは一人寂しく薄暗い家でみじめに過ごすと良いわ」

 「そんなー!?」

 「フフ、冗談よ」


 ローラ会長もこういう冗談を言ってくれるぐらいには俺に心を開いてくれるのだろうか。少なくとも半年前よりかはかなり関係性は良くなってるが……まだこの人が何を考えているのか掴めないところはある。

 まぁクリスマスといえばカップルにとって特別な日であるが、このネブスペ2の世界でも重要なイベントがある。


 「実はクリスマスイブ、十二月二十四日の夜に葉室市内のホテルでシャルロワ家主催のパーティーが開かれるんだけど、貴方も来なさい」


 あ、強制なんだ。行くかどうかも選ばせてもらえないんですね。まぁ俺は行くつもり満々だったし行かないといけないんだけど。やっぱりパーティーを中止させることは無理だよなぁ。


 「はい、喜んで行かせてもらいますよ」

 「そう。じゃあその時に私と貴方の婚約を発表しましょう」

 「えぇ!?」

 「冗談よ、フフ」


 やべぇどこまでが冗談かわからないし、そこは有耶無耶にされたままローラ会長は帰ってしまった。

 

 もう十二月……恐ろしいクリスマスイブの日まで一ヶ月を切ってしまった。第三部主人公の一番先輩は結構上手くいっているようで何よりだが、着々と俺に死が迫ってきているような気がしていた。

 


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