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我々は地球生まれ地球育ちの宇宙人だ



 次の日曜から修学旅行が始まるというのもありクラスの友人達が浮かれる中、俺はいつも一緒に昼食をとっている大星達と別れ、夢那と一緒にこっそり一番先輩達の動向を伺っていた。

 ネブスペ2第三部のシナリオが大きく動き始めるのは、クリスマス当日。一番先輩と四人のヒロイン達は前日に烏夜朧が事故死しているなんて知らずにイベントを起こし、各ヒロインのルートへ分岐していく。


 その分岐ルートへ入るために回収する必要があるイベントは十一月の末から段々と始まる。作中でもそんな重要な選択肢が出てくる時期でもないが、一番先輩がどんな学校生活を送っているか調べる必要がある。


 「ありえんな、今どき口裂け女だなんて」

 「でも最近出たらしんだよ、この月ノ宮で。帽子を被ってサングラスをかけてマスクをつけた小学生ぐらいの女の子が、道行く人達に『ねぇ、私可愛い?』って尋ねるんだって」

 「……それで、可愛いって答えたらどうなるんだ?」

 「照れるんだって」

 「すまん、それ俺が知ってる奴だ」


 何か教室で参考書を片手に購買のパンを食べてる一番先輩と弁当をつついているクロエ先輩が口裂け女について話していた。そのロリっ娘、この前会ったあの理事長ことシロちゃんだろ。何してんだあの人。


 

 本来、第三部では主人公である一番先輩がローラ会長に告白されて無理矢理付き合わされるところから始まるのだが、今は俺がその立場になってしまっている。第二部のように主人公のアルタに代わって俺が記憶喪失になったのと似たような状況だが、その時とは違いちゃんと一番先輩と他三人のイベントが普通に起きているように見える。

 だから俺が修学旅行で月ノ宮を離れている間も夢那に観察を頼めばそこまで問題なさそうなのだが、やはり一番先輩がロザリア先輩、クロエ先輩、オライオン先輩の三人を同時に攻略するという未来が全然見えないのだ。


 修学旅行の計画も順調に進んでいき、あっという間に放課後を迎えた。教室で大星やスピカ達と話しながら帰り支度をしていると、俺達の教室に一番先輩がやって来た。


 「烏夜、すまないがちょっと付き合ってくれないか」


 こ、これはまさか朧✕一番ルート……!?

 なんてわけはなく、俺が一番先輩に連れて行かれたのは人気のない校舎の片隅にあるオカルト研究部の部室だった。中に入るとカーテンが閉め切られ照明も消された部室内で、怪しげな赤い光を放つランプが置かれた机が置かれ、その向かいには銀髪ゆるふわな雰囲気のクロエ先輩が座っていた。何だかテミスさんの占い部屋に似た雰囲気だが、俺と一番先輩はクロエ先輩の正面の椅子に座らせられた。


 「ようこそ、オカルト研究部へ」

 「あの、どうして僕をここに?」

 「受験勉強で疲れてそうな明星君にとびきりのオカルトで心を癒やしてもらおうと思って」

 「誰か連れがいないと落ち着かなかったのでな。丁度都合の良さそうな奴がいたから捕まえた」

 

 成程。俺は都合の良い男だったと。

 まぁ一番先輩はオカルトなんて全然信じない人でクロエ先輩の話も半信半疑で聞いているぐらいだ。一応友達だから話を聞いているだけで、知り合いじゃなかったら一番先輩はわざわざ聞こうともしないだろう。

 ていうかオカルト話を聞いても心は癒やされないと思うが、いつもはクールというか物静かな感じのクロエ先輩が少しだけ興奮した様子で口を開いた。


 「二人は宇宙人って信じる?」


 いや目の前にいるんですけど。これツッコミ待ち?


 「宇宙人をどう定義するかにもよるが、俺の目の前にいる」


 と、先に一番先輩が言った。たまに忘れそうになるが、クロエ先輩を始めとしたネブラ人は遥か彼方の宇宙からやって来た宇宙人の末裔なのである。でも見た目は完全に人間と一緒だし、強いて言えば違うのって瞳の色がカラフルってことぐらいだ。クロエ先輩も瞳は赤めだし。

 すると一番先輩の答えが気に食わなかったのか、クロエ先輩はちょっとだけ不機嫌そうな表情で言う。


 「成程、バレてしまってはしょうがないね。我々が地球を侵略しに来たと知ってしまった二人には死んでもらうしかないよ」

 「いや僕は何も言ってないんですけど?」


 まぁこの世界にはネブラ人が地球に辿り着いてしまったから、宇宙人なんていう本来オカルト的な存在が実在することが証明されてしまったため、あまりオカルトで語られる話題ではなくなってしまっている。

 しかし俺の前世でもそうだったように、何か変な触手を持っていて一人称は我々とかいう随分と尊厳な態度の宇宙人がまだどこかにいるのではという説も残っており、いつか地球に侵略してくる、あるいは既に地球に辿り着いているのではと色々噂されることもある。クロエ先輩が言いたいのはそういう類の宇宙人なのだろう。この世界にも宇宙人が侵略してくる映画はSFとして鉄板だし。


 「正直な話ね。私達にももう自分達が宇宙人っていう自覚はないの。だって生まれも育ちも地球だし、もうれっきとした日本人だよ私」

 「なのに宇宙人のことが気になるのか?」

 「だからこそだよ。この広い宇宙のどこかには地球人やネブラ人以外にも高い知能を持った生物が存在するかもしれないんだよ。そして私達ネブラ人が地球に順応している裏で、他の宇宙人がもう浸透しているかもしれないんだ」

 「その証拠は?」

 「実はね、かのビッグバン事故を起こしたのはネブラ人とは違う宇宙人なんじゃないかという説がまことしやかに噂されてるんだよ」


 何、またビッグバン事件の真犯人が出てきたのか? いや、六月頃に月ノ宮で流布していたビッグバン事件の真犯人の噂は乙女の父親である秀畝さんがそうだと言われていたが、秀畝さんは真相は知っているが犯人ではなかった。だが乙女と同様にこの世界から消失してしまった為、最早その噂自体がなかったことにされてしまっているのか。


 「なんでそんな変な噂が流れているんだ?」

 「それを今日は二人に考えてもらいたいんだよ。ビッグバン事故の真犯人について」

 「いや全然知らないですけどね僕は」


 まぁ俺は知ってるけどね、ビッグバン事件の真相。何ならクロエ先輩、貴方が可愛がっている妹のメルシナが全部知ってますよ。クロエ先輩が知らないだけでメルシナはあの日、爆心地となった宇宙船の中にいたんですからね。

 だがこんなところでポロッと真相を話してしまうと、ネブラ人の過激派のこともあるし少し危ないかもしれない。隣に座る一番先輩の様子を伺ってみると、やはり彼も真相は知らないようで腕を組んで考え込んでいた。

 まぁ、一番先輩を養っているシロちゃんも真相を知ってるはずだけどね。


 「あの事故に何かの陰謀が絡んでいるというのか?」

 「実はネブラ人と他の宇宙人との諍いがあったとかね。最近はネブラ人の過激派の動きも活発だから、やっぱり何かあったのかも」

 「過激派? そんなテロリストみたいな連中がいるのか?」


 あ、そうか。世間には公表されてないから一番先輩は知らないんだそれ。

 ネブラ人の過激派とかいう光線銃を持ったヤバい集団について説明すると、意外と一番先輩は納得した様子で口を開く。


 「あぁ、だから最近校内で見かけない生徒だとか教師だとか用務員を見かけるようになったのか。あの連中がシャルロワ家の私兵部隊ということだな」


 あの連中がシャルロワ家の私兵部隊ということか、じゃないんですよ一番先輩。なんでシャルロワ家が私兵部隊を持っているという事実をそんなスッと受け入れちゃうんだよ。

 ていうか校内にまで潜んでたんだ、護衛の人達。俺は全然そんなの気づいてないんだけど、一番先輩ってそんなに勘とか鋭い人なの? いつの間にか知らない生徒や教師が増えてるって怖すぎない?


 「なんだかビッグバン事故の真相を知ってる人達を始末したいらしくてね。何か隠したい秘密があるのかも」

 「でもどうせあの大爆発で爆散してるだろうに、証拠隠滅もクソもないだろう」

 「……確かにそうだね」


 ネブラ人の過激派はあのビッグバン事故に何か隠したい事実があるってわけじゃなくて、ただただネブラ人の地位向上のためにクーデターを起こそうとしてただけなんだけども。


 「で、でもね、実は月見山にそのビッグバン事故の謎が眠っているんじゃないかって言われてるんだ」

 「月見山に? どうしてまたそんなところに謎があるんですか?」

 「あの爆発で飛び散った破片がまだ残ってるって噂されてるんだ。エンジンとかの主要パーツの一部がまだ発見されてないから、実は月見山のどこかにあるかもしれないね……」


 ビッグバン事件の真相を追いかけるというのがクロエ先輩のイベントの要ではあるのだが、ちょっとしたヒントが見つかるぐらいで全ての真相が明かされるわけではない。だがこの月見山でのイベントを回収しないとローラ会長のグッドエンドのフラグを立てることは出来ないのだ。


 「まさかそれを探しに行こうとは言わないよな? もうすぐ期末考査もあるし受験もあるぞ」

 「あまり試験とか受験とか言って家でじっとしてると運動不足になっちゃうよ」

 「一番先輩が家の中で女の子とイチャイチャしてるなら話は別ですけどね」

 「明星君、そんなことしてるの……?」

 「待て、そんな事実はない」

 「こ、これはベッドをギシギシと軋ませながらアンアンしてる明星君を調査するしか……」

 「やめろやめろ」


 と、俺はクロエ先輩と一番先輩のイベントを第三者として見守っていた。

 うん、何だか原作通り過ぎて怖い。このイベントがフラグになって実際に一番先輩はクロエ先輩に月見山の調査へ無理矢理連れて行かれることになるのだが、それはまた先の話。

 

 何か順調に各ヒロイン達のイベントを回収できているような気がするが、第一部や第二部とは全く違う点が一つある。

 それは、このイベントに主人公である一番先輩がちゃんと居合わせていることだ。これはつまり主人公である一番先輩視点でちゃんとイベントフラグを回収できているという認識で大丈夫だよな? 逆に今までこんな順調に進んだことがないからわからないんだけど。

 ただ、ロザリア先輩、クロエ先輩、オライオン先輩の三人をまとめて攻略するのと、それともラスボスと呼ばれるローラ会長一人を攻略するのとどっちが楽か……こればかりはやはりローラ会長が高難易度のように思えた。



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