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嫌いだけど……



 十一月八日、日曜日。今日はなんとロザリア先輩からのお呼び出しだ。やはり予想通りと言うべきか、第三部のイベントが立て続けに起きるような予感がする。

 まぁ本人から直接連絡が来たわけではなく一番先輩経由で連絡があり、俺はお昼過ぎに駅前のケーキ店サザンクロスへと向かった。


 「悔しいけど明星のおかげで大盛況よ」


 以前ロザリア先輩が言っていた和風フェアが今日から開催されており、ケーキバイキングと合わせてさらに客足が増えている。一番先輩に味をダメ出しされたからか、抹茶やあんこを使用したケーキも改良が加えられていて、より食べやすい風味になっていた。


 「一番先輩が作ったんですか?」

 「俺は分量とか味付けに口出ししただけだ。サンプルは作ったが」

 「一番先輩ってケーキ作れるんですか?」

 「あのロリババアが作れ作れとやかましいのでな。一通りは作れる」


 ロリババアというのは月学の理事長で、親戚である一番先輩を引き取ったシロちゃんのことだろう。勉強も運動も出来て家事もこなせるとか、やっぱ一番先輩ってなかなかハイスペックだよな。


 「いやーうめぇうめぇ」


 そして俺の目の前で抹茶ケーキを頬張るレギー先輩の姿が。


 「どう、レギー。疲れも撮れるいい甘さじゃない?」

 「そうだな、オレはあまり抹茶とか好きじゃないけど、これなら全然食べられるぜ!」


 レギー先輩はローラ会長の数少ない親友だが、レギー先輩自身はロザリア先輩やクロエ先輩とも仲が良いというかなり珍しい人だ。三人の中だと一番顔が広いのはロザリア先輩だろうが、大体の人はシャルロワ家への畏怖からそもそも彼女達に話しかけづらいのだ。

 そして今回の和風フェアに一役買った一番先輩もケーキを食べながらレギー先輩に言う。


 「そういえばレギュラス、前に言っていたオーディションとやらはどうなったんだ?」

 「あぁ、実は今度映画に出ることになったんだ」


 レギー先輩は笑顔でさらっと言ったが、その事実を知らされた俺達は目をひんむいて驚かされた。


 「え、映画に出るの!?」

 「いや映画って言ってもセリフが五個ぐらいしかない端役だよ」

 「でも凄いじゃないですか。それってもう女優ですよ」

 

 第一部のシナリオで披露したレギー先輩の舞台がとある映画監督の目に留まり、夢だった女優の道へ順調に進んでいくというのはネブスペ2第三部でもチラッと描かれることだ。いずれ憧れの先輩であるコガネさんとも共演できるようになるのかな。


 「レギー、もし撮影とかに差し入れを持っていくならウチのお菓子を持っていきなさい。絶対喜ばれるわ」

 「でもオレ、ノザクロのスイーツも好きだからな……」

 「じゃあ両方持っていって比べてもらったらいいんじゃないですか?」

 「良いわね、あのにっくきノザクロに勝負よ!」


 なんでこんなにロザリア先輩はノザクロに対して対抗心を煮えたぎらせているのだろう。ノザクロは喫茶店だけどスイーツがメインってわけじゃないからなぁ。でも不思議とあのスイーツとは縁が遠そうなマスターが作るスイーツも美味しいのだ。



 この後も舞台の練習があるというレギー先輩と、受験が間近に迫る一番先輩は先に帰っていった。俺も二人と一緒に帰ろうと思ったのだがロザリア先輩に呼び止められ、何故か人気のない店の裏へと連れて行かれた。


 「はぁ、最近急に冷えてきたわね。温かいお菓子でも売ろうかしら」

 「いやこういう時こそ逆にアイスとか美味しいんですよ」

 「何だか妙に納得できるわね」


 なんて冬空の下、ロザリア先輩はハァと溜息をついてから、腕を組みながら口を開いた。


 「アンタって、ローラのこと好きなの?」


 まさかロザリア先輩からローラ会長の話題が出てくるとは思わず俺は少し驚いたが、ロザリア先輩に笑って見せて言う。


 「はい、好きですよ」


 それは確かに俺の正直な気持ちだ。まぁ、あくまで前世で画面越しに見ていたエレオノラ・シャルロワというキャラが好きだったってだけなんだけど。

 リアルにローラ会長とお付き合いしたいとは思っていない。だって今の状況を見てくれ、俺にどうしろって言うんだよ。いや俺が一番先輩の代わりにローラ会長と付き合うことになったおかげで、もしかしたらバタフライエフェクトで十二月二十四日の死亡イベントを回避できる可能性もわずかながらに存在している。

 とはいえ俺はロザリア先輩の質問に正直に答えたつもりだったが、ロザリア先輩はすぐに不機嫌そうな表情に変わった。


 「アンタ、本当にそんな立場で良いの? アイツに良いように利用されてるだけよ」


 なんかロザリア先輩のセリフに聞き覚えがある。そうか、これ一番先輩も同じことをロザリア先輩に言われるのか。さっき一番先輩やレギー先輩と一緒に和風フェアを楽しむというイベントは原作でも起きるが、もしかして一番先輩視点と俺視点の第三部のイベントが同時に起きてるのか?

 それはさておき、やはりロザリア先輩はローラ会長のことをあまり良く思っていないようだ。あの人が本当に誰かのことを好きになったとは信じられず、お見合いや政略結婚をのらりくらりと躱すだけの口実作りだと考えているのだろう。まぁ現時点では俺もそうだと思う。


 「ロザリア先輩。何事にもきっかけというものが重要なんですよ。僕は今までに何度もローラ会長にアプローチしてきましたが、僕はようやくスタートラインに立てたんです。今はどんなにぞんざいな扱いを受けたって良いんです、これでローラ会長との交流が増えるなら」


 と、もし原作の烏夜朧が今と同じ状況におかれていたらこう答えていただろう。俺の本心を言うなれば「まぁ都合の良い駒なんでしょうね」と答えていただろうが。

 俺の答えを聞いたロザリア先輩は呆れたような表情をしていたが、俺のことを気遣って忠告してくれたのだろう。そして俺は、原作で本来俺の代わりにこの場にいるはずの一番先輩のセリフを言う。


 「ロザリア先輩は、ローラ会長のことが嫌いなんですか?」


 一番先輩は自分からあらゆる一番という地位を奪っていったローラ会長を恨んでこそいないが激しくライバル視している。まだシャルロワ四姉妹の歪な関係を理解できず、そこに踏み込もうとした一番先輩のセリフだったのだが──。


 「嫌い」


 と、原作通りの答えが返ってきた。ただロザリア先輩はそう答えた後、少しうつむいてから再び口を開く。


 「でも……ローラは私達のために大変な立場にわざわざ買って出てるのよ。だから……私だって少しぐらいローラには感謝してるけど、今更よね……」


 ……。

 ……え~何~推せる~超推せるんだけどこの子~。

 いやいかんいかん、何かつい限界化してしまった。何かいつもツンツンしている子が素直な気持ちを語る所、なんだか好きなんだ。


 ロザリア先輩は母方の実家であるケーキ店サザンクロスを、そしてクロエ先輩は自分の趣味であるオカルトに傾倒しているが、二人が好き勝手自分の好きなことに取り組むことが出来ているのは、ローラ会長が姉妹の先頭に立ってシャルロワ家の代表としての覚悟を持っているからだ。ロザリア先輩達にもシャルロワ財閥系の他の企業を引き継ぐという道もあっただろうに、ロザリア先輩とクロエ先輩はシャルロワ家から離れようとしている。

 ローラ会長はロザリア先輩達に冷たいところもあるが、ロザリア先輩達もローラ会長が大変な立場にあって、そのため心が荒んでいったことも理解しているのである。


 「いえ、僕はロザリア先輩からその言葉を聞けて安心しました」


 今のシャルロワ四姉妹の関係は歪だが、改善の余地はある。そこを上手く懐柔していけば、彼女達の関係は今よりずっと良くなるだろう。

 ただ……一番取り扱いが難しいのがローラ会長なんだけども。あの人がそれを望んでいるとも思えないし。


 「ありがとうございます、ロザリア先輩。僕もローラ会長とお付き合いするための覚悟が出来ました。いずれロザリア先輩やクロエ先輩を僕の妹にするために頑張ります!」

 「……あ、確かにそうじゃない!?」

 「僕のことをお義兄さんと呼んでも良いんですよ!」

 「絶対に呼ばないわよ!」


 まぁ俺がロザリア先輩達の義兄になるという未来は全く想像できないし来てほしくもないが、ロザリア先輩の素直な気持ちを確かめることが出来て良かった。

 ただ、それでも一番の悩みのタネがローラ会長というのは、やはり彼女がネブスペ2のラスボスと呼ばれる所以かもしれない。



 少しでも面白い、続きが読みたいと思ってくださった方は是非ブックマークや評価で応援して頂けると、とても嬉しいです!

 何卒、よろしくお願いします!

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