スコーピオンVSオリオン
十一月六日。
最近は憂鬱な日々が続いていたが、今日の俺にはちょっとした楽しみがある。
そう、それは……新作FPSバトルロワイヤルゲーム『Cosmos Legends』の発売日なのだ。
いや何か前世で似たようなバトロワゲームをやったような気もするけど気のせいだろう。気のせいだよ気のせい、舞台も宇宙だし。システムは殆ど一緒に感じるけど気のせい気のせい、バトルロワイヤルゲームなんて大体こんなものだ。前世の俺はそういうFPSとかアクションゲームは得意でこそなかったが、普通にゲーマーとして楽しむぐらいには嗜んでいたし、この世界の烏夜朧も趣味程度のゲームの腕は持っている。
明日から土日だし、期末考査が迫っている時期ではあるが最近は色々あったしちょっとした息抜きに俺は久々にゲームにのめり込もうと思って、放課後に葉室市の駅前にある大型商業施設内の家電量販店へと向かった。
今日が発売日とはいえレジ前に行列が出来ているわけでもなく、普通に在庫も残っていたから早期購入特典付きのものを購入することが出来た。今ならダウンロード販売もあるし、パッケージ版も通販サイトで予約すれば当日に届いたりもするから、ぶっちゃけこうしてわざわざ販売店まで赴く手間は必要ない。
でも……ゲームの発売日にパッケージ版を買いに行くちょっとした楽しみを味わいたいのだ。エロゲを予約特典付きで買っていた頃が懐かしいぜ。
そしてレジでゲームを購入後、俺はエレベーターでこの建物の出口へと戻ろうとしたのだが、同じエレベーターにグレーのパーカーのフードを深く被って顔を隠した少々不審な人物が乗り込んできた。
何かちょっと怪しいなぁと思いつつ、もしかしてネブラ人の過激派のメンバーかともちょっと疑っていると、華奢な彼女は俺の方を見て言った。
「あれ……もしかしてお隣さん?」
「え?」
そして彼女は被っていたフードを外し、その赤く長い髪と、前髪の間から見える大きな火傷痕を顕にした。
「あ、シャウラ先輩じゃないですか」
シャウラ・スコッピィ。ネブスペ2第三部に登場するキャラで、ヒロインの一人であるオライオン先輩とはゲーム配信者としてライバル関係にある。まぁ俺がそれを知っているのは前世の知識があるからで、現時点で烏夜朧がそれを知っていてはいけない。
「か、烏夜君ですよね? 烏夜君もこれを買いに来たんですか?」
シャウラ先輩が家電量販店の袋から取り出したのは、俺が購入したのと同じCosmos Legendsだ。しかも俺が購入したのは早期購入特典付のものだが、シャウラ先輩のは予約特典付の方じゃないか。
「そうなんですよ、ちょっと興味がありまして。シャウラ先輩もこういうゲーム遊ぶんですね」
「う、うん……烏夜君、これからちょっと時間あります?」
「はい、これから遊ぼうと思ってたところです」
「じゃ、じゃあもしよかったら、私と一緒に練習しません?」
……。
……え? 俺が、シャウラ先輩と?
何か全然知らないイベントに遭遇しちゃったんだけど。
最近は色々と忙しかったからあまりゲームをする時間を取れていなかったが、前世でも少しはFPSゲームを嗜んだこともあったし、烏夜朧というキャラもゲームはまあまあやる程だ。上手いって程じゃないが。
だが同じ類のゲームを触ったことがあるかないかではゲーム慣れというものが全く違う。基本的な移動等の操作方法自体には困らないが、やはりエイムとか咄嗟の判断とか、そういった感覚はすぐには養われないはず──。
『オーケー、クリア。丘の上は制圧しました』
いやなんか一人で四、五人の敵を掃討しちゃったプレイヤーがいるんですけど。光線銃が飛び交う戦場を駆け抜けて瞬く間に敵をビ◯ムサーベルみたいな武器でなぎ倒していった化け物が目の前にいるんですけど、これ本当に味方か?
「あの、シャウラ先輩?」
『どうかしました?』
「ゲーム上手いですね」
『そ、そうですか?』
「いやホント上手いですよ」
シャウラ先輩もついさっきこのゲーム買ったばっかりだよな? なのになんでこんな玄人みたいな動きしてるの? やっぱFPS慣れってこんなに違うってこと?
もうシャウラ先輩と一緒にチームを組んでバトロワに参加して五戦目だが、俺達は五戦全て勝利している。いや俺達って言っても、敵を倒してるのシャウラ先輩だけなんだけどね。俺はマシンガンを撃ったりボムを投げて威嚇してるだけで、びっくりするぐらいのスピードで敵地を駆け抜けていくシャウラ先輩を追いかけるのと敵の攻撃から逃げることに必死だ。
『烏夜君はどうですか? コツとか掴めそうです?』
「弾が当たらないです」
『相手の脳天をぶち抜かなければ、自分が死んでしまうという覚悟で撃ってください』
ここは戦場なのか? いや戦場だったか。
さて、俺は帰宅してから携帯で通話を繋ぎながらシャウラ先輩とCosmos Legends、通称コスモを一緒に遊んでいるわけなのだが、シャウラ先輩が上手すぎて心が挫けそうな自分がいる。
コスモはバトロワゲームであるため、時間経過で縮小していくフィールド内で最後のプレイヤー、あるいはチームとなるまで他のプレイヤー達と戦うわけだ。宇宙を舞台としているだけあって空にはドローンとか飛び交ってるし、武器もド派手な光線銃とかビ◯ムサーベルとか新鮮みもあるし爽快感もある。他にも色々アクションがあるのだが、その操作方法を俺がイマイチ理解していないのにシャウラ先輩は普通に使いこなしている。
俺、完全にお荷物。
『あそこに墜落している宇宙船へ行きましょうか』
「さっき結構な人数があの宇宙船に入りましたし別のところ行きません?」
『大丈夫、全部私が倒しますので』
いやシャウラ先輩だけ無双ゲーしてない?
半信半疑でそのままシャウラ先輩についていくと、宇宙船の中で他チーム同士の戦いが起きており無数の光線が飛び交っていたのだが、シャウラ先輩はその中に突っ込んでいって他チームを全滅させた上で無事に帰還した。
……無双ゲーどころかチーターだと疑われるレベル。
まぁ、シャウラ先輩のゲームの腕前はかなりのものだ。シャウラ先輩が操作しているキャラクターのアカウント名は『Scorpion1216』。これは有名ゲーム配信者『スコーピオン』のものと全く一緒だ。
第三部のヒロインの一人、配信者『オリオン』として活動するオライオン先輩の最大のライバル、スコーピオン。俺はその腕前を目の当たりにしたわけなのだが……俺なんかと遊んでて良いのかな。
なんて思いながらシャウラ先輩の金魚のフンとして荒野の惑星を舞台にした戦場を駆け回っていると、遠くの岩陰から突然無数の光線が飛んできた!
「おわああっ!?」
『あっちですね』
俺はびっくりして慌てて逃げることしか出来ないのにシャウラ先輩は敵に向かって反撃していたが、いつもはそんな不意打ちもものともしないシャウラ先輩が深追いせずに俺と同じように墜落した宇宙船の瓦礫の影に隠れていた。
「あれ? 今は攻め込まないんですか?」
『……何だか嫌な予感がして』
しかしそうこうしている内にフィールドがどんどん縮小していく。こういうバトロワ系のFPSアクションゲームは時間経過でフィールドが縮小していき、範囲外に出るとダメージを受けてしまう。終盤まで生き残った猛者達との戦いを強制されるわけで、勿論それまでに優位なポジションを取っていることが重要だ。
縮小していくフィールドの境界は俺達の背後まで迫っている。一方で俺達を狙っている敵は安全圏にいる。だから俺達は、この障害物という盾から離れて敵の方へ向かわなければいけないのだ。
「ど、どうします先輩?」
『私について来てください。あの岩の手前で二手に別れて両サイドから攻めましょう』
「僕にそんなの任せちゃって良いんですか!?」
俺はもうシャウラ先輩から離れるのが怖くてしょうがなかったが、シャウラ先輩の作戦ならと思って俺はまず彼女の後ろをついていき、敵が隠れているであろう大きな岩の手前で二手に別れようとしたのだが──。
『う、上!?』
敵は岩陰の向こうで待ち伏せしているものかと思っていたが、なんとわざわざ向こうから飛び出してきた。俺達は完全に不意を突かれた形となったが、それでもシャウラ先輩は即座に光線銃を構えて乱戦に突入した。
飛び交う光線やボムを華麗に躱しながらシャウラ先輩は敵に着実にダメージを与えていたが、やはり最終盤まで残っているだけあって相手の腕も中々だ。そんな中、俺はただただ逃げ惑いながら奇跡的に当たることを信じて光線銃を乱射していたが、チラッと相手のプレイヤー名を見ると──。
「お、オリオン!?」
『Orion0612』、それはスコーピオンと同じくゲーム配信者である『オリオン』がゲーム中でよく使うハンドルネームのはずだ。
そしてオリオンと組んでいるもう一方のプレイヤー名は『Cassiopeia_chan』、こっちはオリオンのチームメイトである配信者『カシオペア』だ。
……どっちもかなりの腕前のFPSゲーマーじゃねーか!?
『フフ、やっぱりオリオンもやってるよねそりゃ』
しかし相手がオリオンとカシオペアと気付いたシャウラ先輩は急に雰囲気が変わって、ほぼ二対一という状況で相手と互角に渡り合っていた。
「ひいいいいいいいいっ!?」
俺はもう無我夢中に光線銃を撃っていただけで弾切れになり、今度は必死にビ◯ムサーベルを振り回していた。
『一方は倒せる、でも……!』
しかしシャウラ先輩の奮闘むなしく、カシオペアを倒せたもののシャウラ先輩もやられてしまった。残された俺はオリオンと一騎打ちになったわけだが、俺がプロ級の腕前を持つオリオンに勝てるわけがなく──俺がサーベルを振り回しながら逃げ惑っていると運良くオリオンが見失ってくれたようで、俺も気づかぬ間にオリオンの背後から偶然サーベルを振り下ろす形となり──。
「あ」
オリオンを倒せてしまった。
そしてフィールドに残っていたプレイヤーは俺達のみだったため、俺とシャウラ先輩の勝利となった。
『やった、やりましたよ烏夜君!』
「え、あ、やったー!?」
俺も勝利を自覚するのに時間はかかったが、運良く俺が最後まで生き残ったプレイヤーとなった。見事にキル数1。もう恥ずかしいからそこのスコアは表示しないでほしい。ずっと逃げ惑っていたのがバレるじゃん。
「シャウラ先輩がオリオンのHPを削ってくれていたおかげですよ、ありがとうございます」
『ううん、良い一撃でしたよ。今頃オリオンはもうかなり不機嫌かもしれないですね』
「キーボードやモニターを破壊しているかもしれないですね」
配信者オリオンことオライオン先輩は普段こそおしとやかな優等生キャラなのだが、ゲーム中は人が変わるというかそっちが本性と言うべきか、かなり感情の起伏が激しいのだ。
まぁ完全にビギナーズラックだ。次は絶対にないだろう、こんなことは。
『烏夜君、どうですか? 自信出てきました?』
「いや、まだまだ精進が必要ですね。シャウラ先輩についていくので精一杯です」
『もしよければ、また時間があった時に一緒にやりませんか?』
「はい、またやりましょう!」
まさかシャウラ先輩と一緒にゲームをするイベントが起きるとは思わなかった。配信者スコーピオンとシャウラ先輩の存在こそ第三部の共通ルートでもちょこちょこ出てくるが、本格的に出てくるのはオライオン先輩ルートに入ってからだ。
第二部だと本来原作の攻略可能ヒロインではないキルケがアルタを射止めたから、同じくモブキャラであるシャウラ先輩にも明星先輩を射止めるチャンスが来るかもしれない……いや二人の接点全然無いんだけど。
ローラ会長と付き合っていれば自然とロザリア先輩やクロエ先輩と交流できそうだが、オライオン先輩の動向を伺うためにもシャウラ先輩とは是非とも親睦を深めておきたい。今後少し時間を見つけてゲームの練習するか……。
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