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人類が初めて月に着陸した頃から理事長



 十一月五日。十月まで日中は結構暑さも感じられる気候だったが、最近は雨もあってか急に気温も下がり朝晩は特に冷え込むようになってきた。

 そんな冬の到来を感じる中、俺は放課後に月ノ宮駅前のケーキ店サザンクロスを訪れていた。


 「不味い」


 同じテーブルに座る一番先輩の一言で、店内の空気が急に凍りついた。同時にテーブルの側に立っていたサザクロの制服である白いエプロンを付けたロザリア先輩の表情が引きつった。


 「あ、明星……今なんて言ったの?」

 「不味い」

 「……ワンモア」

 「Yucky(クソ不味い)」

 「ぐ、ぐぐぐ……」


 クソ不味いと言われたロザリア先輩は、いつも結構強気なのに急に涙目になってしまったため、俺は慌ててフォローしようとした。


 「いや、僕は悪くないと思いますよ?」

 「悪くないってつまり美味しくはないってことでしょうが!」

 「まぁ、そうですね」


 ロザリア先輩はムキーッとハンカチを噛み締めて悔しがっていた。そんな悔しがり方する人、生で初めて見た。

 とまぁ、俺は今サザクロの店内の一角で、ロザリア先輩が考案した試作ケーキを食べさせてもらっていた。何でも和風フェアなるものを計画しているらしく、抹茶やあんこを使った様々なケーキを食べさせてもらったのだが……流石に俺は一番先輩ほどはっきりとは言いたくないが、ぶっちゃけると微妙な出来だ。


 「こっちのケーキはあんこが甘すぎるし、この抹茶ケーキは逆に抹茶の風味が薄すぎる。んでこの甘夏みかんのケーキは味が単調過ぎてすぐに飽きが来る。あとこっちの桜ケーキは、味は悪くないが時期を考えろ、もうすぐ真冬だぞ」

 「ぐぎぎ……」


 甘さがどうとかは人の好みもあるかもしれないが、俺も大体一番先輩と同意見だ。見た目は華やかで結構良いんだけどなぁ。


 「ロザリア。こういう風に前向きに成長を目指すお前の姿勢は尊敬するが、今あるものを少しでも良くしていくことも大切だと俺は思う。新しい風を吹かせる意味でどんどん新しいものを取り入れていくのも良いが、どうしてスタンダード的なケーキが今でも多く販売されているか考えてみると良い。あれはあれで完成されているからこそ多くの指示を得ているんだ。今一度学び直すのも大事だぞ。

  そう、温故知新(あんこちしん)というやつだ」


 ……。

 古きを訪ねて新しきを知るという感じか。それとあんこをかけたと。

 ふぅん。


 「ど、どうしたんだ二人共? なんだ、また呆れているのか?」

 「いえ、僕はアンコールが欲しいです」

 「アンタまた後輩に負けてるわよ」

 「なんだとー!?」


 なんで一番先輩はこんな面白くないギャグを言っているんだ。こんなに一番を目指しているはずなのにギャグセンスだけは壊滅的な人である。

 そんな一番先輩に呆れながらも、ロザリア先輩はハァと溜息をついて笑っていた。


 「まぁ、確かに明星の言う通りかもね。私も少し焦ってたのかもしれないわ。また何か思いついたら呼ぶから」

 「お前は俺を都合の良い試食要員だと思っていないか?」

 「だって無駄に舌が肥えてるじゃない」

 「無駄と言うんじゃない」


 ロザリア先輩は夏に始めたケーキバイキングが大盛況だったように、新しいプロジェクトを考案する能力は高いが、残念ながらケーキの新作を作る能力に恵まれていない。一方で一番先輩は中々舌が肥えているため、ロザリア先輩ルートでは二人で協力してサザクロを盛り上げていく、というのが一連の流れである。

 まぁ、一番先輩はローラ会長と交際しながらやってたけども。


 なお一方俺はというと、アメリカから遥々帰ってきた望さんにおつかいを頼まれてケーキを買いに来ただけだったのだが、何か巻き込まれて試食させてもらった。でも俺は大体のものは美味しいと思えるから全然役に立てない。

 これは一番先輩目線でロザリア先輩のイベントが起きたと捉えて良いのだろうか? 作中でも共通ルートでこんなイベントがあるから偶然見ることが出来て良かったが、もしかして第三部はちゃんと一番先輩がヒロインの誰かを攻略してくれるのか? いやしてくれないと困るんだけども。



 しかしこれ以上何か起きるわけでもないため、俺は望さんに頼まれていたケーキを買い終えて大きな紙袋を持って店を出ようとしたのだが──丁度その時、サザクロに新たな来客が。


 「あ、一番がいるのだ!」


 現れたのは、今流行りの女児向けアニメのキャラがプリントされた黄色のワンピースの上にブラウンのジャケットを羽織った、小学生ぐらいの女の子だった。彼女は青い髪のツインテールを揺らしながら一番先輩の元へ向かうと彼に抱きついていた。

 ……出た、化け物。


 「あれ? 一番ってこんなに可愛い妹いたの?」


 まぁはたから見るとちょっと年の離れた妹という風に見えるだろう。


 「あ、いやロザリア……この人はな」

 「じゃあここでシロちゃんク~イズ!」

 「え?」

 

 青い髪の女の子は一番先輩から離れると、突然三本指を立てて言った。


 「次の三つの選択肢の内、私の肩書はどれでしょ~?

  一、月ノ宮の町長。

  二、上場企業の社長。

  三、月ノ宮学園の理事長」


 ……どれもこの女の子の容姿からは想像できない役職だ。それはロザリア先輩も同意見のようで、女の子から提示された三択を聞いて信じられないという様子で首を傾げていた。


 「じゃ、じゃあ……この町の町長とか?」

 「なるほどなるほど。ちなみにそっちの男の子は何だと思う?」

 「月ノ宮学園の理事長さんですかね」

 「ピンポ~ン、大正解なのだ!」

 「……えぇ?」


 正解を聞いてもますます信じられないという様子でロザリア先輩は女の子のことを凝視していた。

 まぁ、俺は正解を知ってたけどね。


 「私は小金沢(こがねざわ)シロ! 君達が通う月ノ宮学園の理事長なのだ!」

 「えっと……年いくつ?」

 「ちっちっち。お嬢ちゃん、レディーに年齢を聞いちゃいけないのだよ」

 「ロザリア、あまりこの人の言うことを真に受けるんじゃない」

 「一番とはどういう関係なのよ」

 「俺の遠い親戚で、ビッグバン事故の後に俺を引き取ってくれたんだ」

 「アンタこんなロリっ娘に養ってもらってんの!?」

 

 小金沢シロ。もういかにも女児って感じの見た目だが俺達が通う月ノ宮学園の理事長なのである。背も低くて華奢でファッションもいかにもロリっ娘なのだが、年齢は不明だ。確か作中だと月学のOGである美雪さんが在学中の頃から理事長っていう風に言われてたし、何なら月学の開校時から理事長だったってトニーさんが言ってたような気もするから……え? 数十年前から理事長だったってこと?


 「烏夜、アンタ理事長のこと知ってたの?」

 「お会いするのは初めてですけど、学校にそっくりな理事長像あるじゃないですか」

 「あれ理事長像だったの!? 美術部のおふざけだと思ってたんだけど!?」

 

 なお月学にはこの理事長と全く同じ姿の銅像が立っている。殆どの生徒はロザリア先輩のように理事長像ではなく誰かのおふざけだと思っているが、何かクラーク博士みたいなポーズで立ってるロリっ娘が理事長像なのである。実はその隣にある髭面のおっさん像の方が美術部のおふざけで作られたものだったりする。

 それに月学に理事長室はあるものの全然理事長はいないし行事とか式典にも代理しか来ないから、誰も知らないんだよな理事長の容姿。俺も生で見るのは初めてだ。


 「一番先輩って今は理事長さんと生活されてるんですか?」

 「いや~そうなのだよ。実は一番はロリコンでねぇ」

 「おい風評被害だぞロリババア」

 「ちなみに理事長は何のご用でこちらに?」

 「あ、ケーキを買いに来たのだよ! イチゴのショートケーキを甘さ甘めスポンジ厚めイチゴ多めで」

 「ラーメン屋みたいに頼むんじゃないわよ」


 まぁこの理事長が女児にしか見えないのは完全に服装が悪いと思うのだが、確かサイズが合うのがこれしかないから諦めてるって作中で本人が言ってた気がする。

 ロザリア先輩からケーキが入った箱を貰って喜ぶ姿は完全に無邪気な子どもだが、多分中身は相当ババアなんだよなこの人。俺視点だともうUMAみたいな存在なんだよ括り的には。


 だがやはり長生きしているというのもあって、あの理事長も中々に重要な役割を持っている。そんなキャラとの出会いに怖さや感動を覚えつつ、俺はケーキを月研にいる望さんに届けに行った。



 少しでも面白い、続きが読みたいと思ってくださった方は是非ブックマークや評価で応援して頂けると、とても嬉しいです!

 何卒、よろしくお願いします!

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