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星河祭スタート



 ──もしも明日、地球が滅亡しますってなったら何をする?


 ──私はね、好きな人に告白するよ。


 ──でも結果は聞かない。むしろ嫌いって言われた方がすっきりするよ。


 ──だって、もし両思いだったらさ……そっちの方が、悲しいお別れになっちゃうから。


 一方的に好意を伝えるなんて、とてもわがままだけどね。



 ---



 十一月一日。月ノ宮の学園祭である星河祭の本番当日であり……ネブスペ2第二部の終わり、そして第三部の始まりの時である。

 

 昨夜は全く眠れなかった。星河祭のことが楽しみだったというわけではなく、不安と恐怖からだ。

 第一部の終わり、そして第二部の始まりだった七月七日の七夕、まさかの交通事故に遭い記憶を失ったことで第二部のシナリオは原作から大きく逸れたものとなってしまった。

 七夕のように変なことが起きなければ良いのだが……そんな不安を抱えつつも、俺は夢那と一緒に月学へと向かった。


 「烏夜先輩!」


 開場前に教室に荷物を運んでいる途中で、俺はベガに声をかけられた。ベガ達のクラスはコスプレ喫茶をやる予定で、彼女はまだ制服姿だが頭には犬耳を付けていた。


 「おはようベガちゃん。何かあったの?」

 「いえ、今日の待ち合わせ場所はどこにいたしましょう? 十二時過ぎには休憩を取れますので」

 「中庭とかどう? 校門前とかだと人混みが凄そうだし」

 「では丁度お昼から吹奏楽部の演奏が中庭でありますし、自販機の前で待ち合わせしませんか?」

 「そうだね、そうしようか」


 午前中は俺もベガもクラスでの仕事があるから会うことは出来ないが、予め調整して昼からは一緒に星河祭を周れるようにしていた。

 ……まぁプランはあまり考えてないけど。


 「楽しみにしてますね、烏夜先輩」


 そう言ってベガは俺に嬉しそうに笑顔を見せ、タッタッタと走り去っていった。

 ベガがあんなに楽しそうにしてくれているのは俺も嬉しいが……今日の星河祭をベガと楽しむことだけに集中できないのが辛い。夢那にも一応ネブスペ2原作での今日の流れを伝えてはいるのだが、夢那には同じ学年のアルタとキルケの動向を探ってもらうことにした。

 協力者が出来たことは幸いだが、今日は第二部の終わりであると同時に第三部の始まりでもある。だから俺は、会長が一番先輩に告白する場面を見届けなければならない。隠れて。


 そして体育館で星河祭の開会式が開かれた後、この運命の一日が始まる。



 「へい彼女、私とお茶してかない?」

 「え、ボクとですか?」


 ウチのクラスはメイド&執事喫茶をやっている。可愛いメイド達目当てにやって来る男子達だけでなく、選りすぐりのイケメンを集めた執事達の接客も女子達に好評で、それなりに盛況な客入りだ。

 なんか目の前でムギが俺の妹をナンパしてるけど。


 「ほらムギちゃん、オムレツを注文してくれたんだから魔法の呪文言わないと」

 「そうだったね。滲み出す混濁の紋章……」

 「やめろやめろ」

 「散在する獣の骨……」

 「そっちもダメだって」


 なんかムギが魔法の呪文じゃないものを詠唱しようとしているが、意外とウキウキでメイドさんをやっているようで何よりだ。


 「烏夜ー? またオムレツの注文来てるぞー」

 「メイドさん達の魔法の呪文目当てでしょ?」

 「ケチャップじゃなくてハバネロソースをかけてもワンチャンバレないんじゃね?」

 

 しかし繁忙期のノザクロのキッチンに比べれば次から次へと押し寄せる注文なんてなんのその、ていうかレシピは誰でも作れるように簡単なものばかりにしているし、なんならオムレツは冷凍食品をレンチンしているだけだ。手作りなのはケーキぐらいなのだが、やはりメイドさんが可愛くケチャップをかけてくれるオムレツの売れ行きが凄い。


 「では今からこのオムレツがとっても美味しくなる魔法をかけちゃいます♪」

 「お~」

 「皆さんも一緒に唱えましょう、私が『萌え♡萌え♡』と唱えたら一緒に『きゅ~ん☆』と唱えましょう。では……萌え♡萌え♡」

 「「「きゅ~ん☆」」」


 教室の一角で、メイドスピカが遊びに来たワキアとルナを接客している。何だか微笑ましい光景だが、スピカって意外とああいうの出来るんだ。

 スピカを見ながらそんなことを考えていると、一仕事終えたムギがしてやったりという表情で俺の方へとやって来た。


 「上手くいったみたいだね。朝、スピカのコーヒーを飲ませた甲斐があるよ」

 「コーヒー……え、それスピカちゃんのアストルギーじゃ?」

 「うん。だからあんなにテンション高いんだよ」


 コーヒーはスピカのアストルギーが出る飲み物で、性的興奮を覚えるようになるというネブスペ2独特のシステムなのだが……通りでスピカの様子が少しおかしいわけだ。これはこれで新鮮で面白い。


 「朧はどう? スカートを捲ったら凄く恥ずかしがるスピカの姿、見たくなかった?」

 「見たいけど僕はやらないよそんなこと」

 「スピカのドジっ娘属性があったら、運んでいた飲み物とかを落としてかがんだときのパンチラとかあったはずなのに……どうにか仕込めないかな」

 

 姉に対して一体何を企んでいるんだこいつは。メチャクチャそういうシーンは見たいけど、今日は俺にとって大事な一日だから集中を切らせるのはやめてくれ。俺達の命がかかってるかもしれないんだ。



 「おい! 水沢が倒れたぞ!」


 執事としてホールを担当していた水沢という男子が突然倒れ、教室内がざわつく。俺も慌ててキッチンから出て彼の元へ駆け寄った。


 「おいどうしたんだ!? 何か具合が悪いのか?」

 「は、腹が痛い……!」

 「お腹でも下したのか?」

 「もしかしたら、朝に食べた激辛四川料理のダメージが……」

 「朝からそんなもの食ってるんじゃないよ」


 彼がどうして激辛料理を朝食にするという最早ドMとしか思えない奇行に走ったのかわからないが、手の空いていた他のクラスの友人に支えられて保健室へと向かった。

 だがホール担当の執事が一人いなくなってしまっては結構大変だ。誰かを急遽ホール担当の執事にしなくては……と思って辺りをキョロキョロと見回した時、スピカやムギを含めたクラス全員が俺の方を見ていた。


 「え、僕なの?」


 幸いにも予備の執事服が余っていて、サイズも俺にピッタリときた。


 「さぁ、朧。今がキッチンから解き放たれる時だよ」


 と、ムギはニヤニヤしながら俺の背中を叩く。いや君、俺の執事姿を笑いたいだけだろ。

 だがこのメイド&執事喫茶の接客方法とかを考案したの俺だし、今はキッチン囚人となっているが昔ノザクロで接客経験もあるから、多少の心得はある。俺は更衣室へと向かって執事服に着替え、そして教室へと戻った。


 「良いね、朧」

 「とてもお似合いですよ、朧さん。少し練習されますか?」

 「お帰りなさいませ、お嬢様」

 「くるしゅうない、くるしゅうない」

 「どんなお嬢様なの」


 知り合いとかが相手なら多少のおふざけは出来るが、知らない女子相手に俺はどれだけ上手く接客出来るだろうか。ウチのクラスにやって来る客の殆どは男子だが、次に女子のお客さんが来たら俺が担当することになるだろう。

 すると丁度、月学の制服を着た女子の集団が教室の入口に現れた──。


 「あ、朧君だ~」

 「あらボロー君も執事なの?」

 

 やって来たのは、美空の母親である美雪さんと、スピカとムギの母親であるテミスさんだった。どういうわけかどちらも月学の制服を着ているが、なんでそんなに似合うぐらい若々しいんだこの二人は。


 「お母様……」

 「懲りないね……」


 そういえば七夕祭でも巫女コスしてたっけ、この人達。


 「お帰りなさいませ、お嬢様。こちらのお席へどうぞ」

 「よろしくてよ~」

 「本日はいかがなされますか?」

 「貴方のおすすめを頂戴」

 「本日のおすすめは『ア◯マゲドン2009』、『ア◯マゲドン2011』、『ア◯マゲドン2012』です」

 「ここは場末の映画館なの?」


 ちなみにこのメイド&コスプレ喫茶のメニュー名は全部SF映画のタイトルで統一されている。

 そして美雪さんとテミスさんは『ア◯マゲドン2009』ことチョコレートケーキを注文した。その後は執事として二人のお喋りに付き合っていたのだが、ケーキを届けて美雪さんがそっちに夢中になっている中、テミスさんは俺にこっそり耳打ちしてきた。


 「どう? ボロー君は順調?」


 テミスさんの質問の意図。

 それは、俺のこの世界での立場を知っていての質問だっただろう。テミスさんにもネブスペ2原作での星河祭で起きる一連のイベントについて予め説明してある。


 「はい、順調ですよ」

 「私達がこうやってコスプレしてやって来ることも?」

 「はい」

 「成程。前世のボロー君は私達のこんなあられもない姿を見て興奮していたと……」

 「テミスさん達がお綺麗だからですよ」

 「あらお上手ね、フフ」


 ネブスペ2原作でも七夕祭と同様にテミスさん達はコスプレをした上で襲来する。その度美空やスピカ達の死んだような目をした表情を見ることになるのだ。

 ただ、原作と違う点が一つある。


 「でも、本来なら望さんも来るはずなんですよ」

 「あら、そういえばゾミーちゃんは?」

 「急用でアメリカに行ってるんですよね……」


 ネブスペ2では今日、星河祭の夜にネブラ彗星が観測される。望さんによると今、天文学界隈はかなり慌ただしいようで、きっとそれはネブラ彗星絡みの話だろう。あんなズボラな性格でも一応世界的な学者である望さんはアメリカへと行ってしまった……その流れ自体は全然不自然ではないのだが、原作なら望さんも月学の制服を着てテミスさん達と行動していたはずだった。


 「それが何か影響するのかしら?」

 「さぁ……」


 望さんはネブスペ2のシナリオにちょいちょい関わってくるが、扱いはネタキャラと相違ないぐらいだ。便利な博士キャラって感じだったし。

 若干の胸騒ぎはあったが、俺も執事として接客に励んでいる内にあっという間にお昼を迎えていた。


 

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