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モブとモブのお隣さん



 月研での打ち合わせを終え、その結果を携帯で一番先輩に伝えた後そのまま俺は直帰だったのだが、帰宅途中に突然の雨に襲われてしまった。毎日家を出る時に天気予報は確認しているのだが、今日はずっと晴れの予定だったのに!

 都会だったらそこら中にコンビニとかあるからすぐにビニール傘を買えるが、残念ながら田舎町である月ノ宮には数件程度しかコンビニが無く、俺は鞄を傘代わりにして大急ぎで帰宅した。


 「ふぅ……やれやれだぜ」


 ゲリラ豪雨かってぐらいの大雨に襲われ、俺や夢那が住んでいるマンションに到着する頃にはまぁまぁ制服がビショビショになってしまっていた。もう最悪の気分だが、事故で骨折した右足の痛みが結構走っても平気だったため、それだけは安心できた。第三部が始まる前に良い感じに治って良かったぜ。


 エレベーターを上がって部屋のある階に到着し、早くひとっ風呂浴びたいなぁと思っていたその時──エレベーターの扉の前で倒れ込んでいる少女を発見した。


 「ちょっ、えぇ!? だだだ、大丈夫ですか!?」


 倒れていたのは、紺色のジャージを着た長い赤毛の女の子だった。彼女の髪の毛やジャージは俺と同じように雨に濡れたのかビショビショで、マンションの廊下に水たまりが出来ているぐらいだった。


 「んぅ……だ、誰かいるの?」

 「どうかしましたか? 具合悪いんですか?」

 「もう、動けない……」


 どうやら突然の雨で体を冷やして体調を崩してしまったのかもしれない。管理人や近所の人に声をかけて救急車でも呼ぼうかと思っていた時、俺の後ろのエレベーターのドアが開いた。


 「あれ、兄さん何してるの……って、誰か倒れてる!? 兄さん何したの!?」

 「いや僕は何もしてないよ!?」


 現れたのは俺達と同じように突然の雨で制服を濡らした夢那だった。どうやら丁度帰ってきたようだが、即座に状況を理解して赤毛の女の子の額に手をやった。


 「兄さん、この人熱があるよ。ボク達の家も近いし、一旦そこに運ぼうよ」

 「わ、わかった」


 丁度俺達が住んでいる望さんの部屋が近かったこともあり、一旦そこに運んで応急処置をすることにした。

 にしても俺、この女の子見覚えあるかも……ていうか俺知ってるわ、この子。



 ---



 「だ、大分楽になりました……」


 ずぶ濡れだった体を拭いて着替えさせ、そして夢那の部屋のベッドで安静にさせていると女の子の容態も安定したようだ。一応病院にも相談してみたがただの風邪だろうとのことだ。

 しかし夢那がいてくれて良かった。まぁ俺しかいなかったら救急車を呼ぶことになっていただろうけど、夢那が彼女の体を拭いたり着替えさせてくれたり、そして夢那がここに住むことになって望さんの部屋がびっくりするぐらい片付いたから、こうしてベッドで寝かすことが出来ている。


 「おかゆ作ったんですけど、お腹空いてないですか?」

 「え、いや、そんなの悪いです……」

 「いや、こういう時は栄養を取るのも大事ですよ。お腹空いてるなら食べましょ!」


 なお俺は夢那が彼女の看病をしてくれている間におかゆを作っていた。俺や夢那には必要ないけど、たまに食べると美味いんだよな、おかゆって。


 「お、美味しい……美味しいです……」

 「泣くほど!?」

 「な、なんかすごく貧乏だったりします?」

 「い、いや、こんな親切にしてもらえたの、すごく嬉しくて……」


 おかゆを食べながらボロボロと涙を流し始めた彼女の姿を見て俺も夢那も驚愕していたが、何か複雑な事情があるのだろうか……いや、まぁ彼女の大まかな経歴は知ってるんだけどね、俺は。

 

 「あの、そこの方は確か……烏夜さんですよね? 月研の所長さんと一緒に暮らしてらっしゃる。そして貴方は……?」

 「あ、この人の妹の夢那って言います。月学に通ってる先輩ですか?」

 「う、うん、私はシャウラ・スコッピィ。あ、あまり学校にはいないかもですけど……」


 シャウラ・スコッピィ。月ノ宮学園三年生、つまり会長やレギー先輩達の同級生で俺や夢那の先輩であり、そしてネブスペ2第三部の登場人物でもある。しかし会長やロザリア先輩達とは違い、第一部における乙女や第二部におけるキルケやカペラ達と同じく攻略することの出来ないモブキャラだ。

 シャウラ先輩はあまり学校には出没しない。何故なら殆ど家に引き籠もっているからだ。何故彼女が中々学校に登校しないのか、それは……今、夢那がチラチラと見る程気になってしまっている、シャウラ先輩の顔の半分ぐらいに広がる大きな火傷痕が原因だ。


 「あ、これ気になります?」

 「あ、いや、その……気にされてたらすみません」

 「ううん、良いんですよ謝らなくて。これは……八年前のビッグバン事件の時に付いちゃって。重体になるぐらいの大やけどだったんですけど、どうにか生還できたんです」

 「へぇ……凄いですね」


 そう、シャウラ先輩は八年前のビッグバン事件で顔や身体に大やけどを負い、なんとか生き永らえたもののその火傷痕がコンプレックスとなり不登校気味となっている。一応時たま学校に出席して最低限の単位は取っているが、クラスに友達も殆どいない。一応レギー先輩とかは知っているはずだ。


 そんなシャウラ先輩の楽しみはゲーム配信である。そう、シャウラ先輩は同じくゲーム配信者として活動しているオライオン先輩のルートで登場するライバル配信者『スコーピオン』という裏の姿を持つ。ゲームの腕前はオライオン先輩より上で、破天荒キャラの配信者オリオンみたいに変なことを言わないから炎上もしないクールキャラで通している。

 だがただゲームが上手いだけでは成り立たないのが配信者という職業で、シャウラ先輩は表舞台に立つことは苦手だが結構喋りも上手いのだ。


 「まだ頭とか痛みます?」

 「頭痛は大分マシになってきたけど、まだ少ししんどいかもしれないです……」

 「じゃあ僕達の方で親御さんに連絡しときましょうか?」

 「そ、そうですね。すみませんがお願いします」


 そして俺にとって一番の驚きなのは、シャウラ先輩がお隣さんであるということ。確かに作中でもシャウラ先輩が住んでいるのは月ノ宮駅に近いマンションって言われてたけど、まさか朧のお隣さんだとは思わなかったよ。

 シャウラ先輩はビッグバン事件で両親を失っているから、今は祖父母と一緒に住んでいるはずだ。俺もこの世界に転生してから何度かマンションの廊下ですれ違って挨拶したことあるが、普通に気の良さそうなご夫婦である。しかし今は家に不在ということで、シャウラ先輩の祖父の方に連絡を入れておいた。電話口でメチャクチャ感謝されて少し照れくさくなったが、今回ばかりは夢那に感謝すべきだろう。


 「子守唄歌ってあげましょうか?」

 「え、子守唄……? じゃ、お言葉に甘えて……」

 

 何故か夢那はシャウラ先輩に子守唄を聞かせて寝かしつけようとしていたが、そんな二人の姿を微笑ましく思いながら俺は部屋を後にした。


 

 第二部の主人公であるアルタが本来のヒロインであるベガ達ではなくモブのキルケルートに入ったということは、第三部のモブキャラであるシャウラ先輩が主人公の一番先輩を射止める未来もあるということか?

 だが一番先輩とシャウラ先輩が直接接点を得るためにはまずオライオン先輩ルートに入らないといけないし、結構ハードルが高そうだ。しかも一番先輩がシャウラ先輩とかを選んでしまった場合、会長が俺の方へ来る可能性もあるから本当にそれだけは勘弁して欲しい。


 「あ、兄さん。スコッピィ先輩、寝かしつけたよ」

 「それは良かった」

 「ねぇ、あの人も兄さんが言っているゲームに出てくるの?」

 「そうだね。そんなに重要な役柄じゃないけど、面白い人だよ」


 配信者オリオンことオライオン先輩とバチバチにバトルすることになるのだが、最終的には二人共仲良くなっていたはずだ。それはあくまでオライオン先輩のルートのグッドエンドを迎えた場合の話だが。


 「あの火傷痕……可哀想だね。あんなに可愛い先輩なのに」

 「お隣さんだから仲良くしてあげなよ?」

 「勿論だよ。兄さんを捨ててスコッピィ先輩を姉さんにしてしまうかもね」

 「それは流石に寂しいけど!?」

 「ふふ、冗談だよ」


 火傷痕、か……。

 気にしない、と口にするのは簡単だが、やっぱり見慣れないとビビってしまうぐらいには中々の傷痕だ。だからこそシャウラ先輩のことも支えたいが……俺もゲーム配信者デビューする?

 いや、数々の恋愛ゲームには触れてきたが、アクション系は下手くそだから諦めるしかないだろう。でも夢那がシャウラ先輩に対して壁を作ることなく結構好意的に感じてくれているから、ここは協力してもらう他あるまい。

 やっぱりワキアと同じように大きなハンデを背負っているから、妙に気にかけてしまうんだよなぁ……。

 

 

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