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四人の織姫編② ラッキーアイテム(日本人形)



 十月十日、土曜日。

 今日は朝から葉室総合病院で骨が折れていた足の経過を見てもらって、ようやく俺は松葉杖から解放された。まだ走ったりは出来ないが、自分の足で歩いても問題ないぐらいには順調に治っている。でもひょんなことでまた折れないか不安だ。


 さて、松葉杖から解放された俺は貴重な休日を使って、誰にもバレぬようコソコソととある調査を進めていた。

 まぁ包み隠さず言うと、どうやって会長の別荘に侵入しようかと本気で悩んでいたのだが、断言しよう。どうあがいても無理だ。


 会長の別荘は月ノ宮海岸に近い小高い丘の上に建つ、緑豊かな森に囲まれたモダンな豪邸だ。何かハリウッドとかアメリカの金持ちが住んでいそうな邸宅で、琴ヶ岡邸のように門の前に警備員が常駐しているわけではないがチラホラと監視カメラが見えるから多分警備員が常にカメラで見張っていると思われる。

 邸宅の周囲を囲っている塀に関しては登れそうな高さではあるが、多分乗り越えた瞬間に警報とか鳴りそうだ。


 メタ◯ギアの世界観だったら塀を登って侵入して、監視カメラをマーキングしたらカメラが映している範囲を視認できて、段ボールでも被っていたら警備員は不思議そうにこっちを見てくるぐらいになるんだが、現実はそうもいかない。G◯Aの世界観だったら札付きのワルを何人か連れて銃持って押しかけるんだが、そんなことしたら世界観がぶっ壊れるしそもそも銃なんて持っていない。


 

 あまり現地で調査すると怪しまれると思ったので、写真も撮らずに俺は会長の別荘を離れて月ノ宮の駅前まで戻っていた。今日は夢那も友達と出かけているし、夜には久々に大星達と天体観測をする予定だ。

 骨折のせいで最近は月見山に登っていなかったから若干浮ついた気分で駅前を歩いていると、何やら若干ざわついていた。駅前を通りがかる人々がやけにある方向を二度見しているなぁと思っていると──駅前のロータリーに、黒いローブを羽織った怪しい雰囲気の魔女が佇んでいた。


 「あ、こんにちはテミスさん、キルケちゃん」


 その風貌から月ノ宮の魔女という異名を持つ凄腕占い師、テミスさんだ。そしてその横には彼女の弟子だというキルケの姿もあった。


 「あら奇遇ねボロー君」

 「ご無沙汰してます、烏夜先輩! 松葉杖取れたんですか?」

 「足も大分良くなってきてね。今から二人でお出かけですか?」

 「実はルケーちゃんに大人の世界というものを体験してもらおうと思うの、フフ」


 何その怖い響き。テミスさん、アンタこんなに幼気なキルケに一体何をしようってんだ。俺もついていっていいですか?

 いやいや、俺とてそんな暇じゃない。もうすぐ中間考査もあるからちょっと勉強の時間を増やしたいのだ。二人のこともちょっと気になるが、手短に挨拶を済ませてその場を去ろうとした時──俺と目を合わせたテミスさんが目の色を変えた。


 「ボロー君、ちょっと良い?」

 「どうかしましたか?」

 「ちょっとバンザイして」

 「こうですか?」

 「そして手首をクイッと下げて、右足を上げて」

 「こ、こうですか?」

 

 俺は一体人通りがまぁまぁ多い駅前で何をさせられてるんだ。これあれだろ、荒ぶる鷹のポーズだろ。なんで行き交う人々が二度見する風貌のテミスさんの前でこんなおかしなポーズを取らされてるんだ、俺は。

 このポーズで一体何がわかったのか全然俺には理解できないが、テミスさんは何やら納得した様子で何度も頷き、俺はこのポーズをやめることを許された。そしてテミスさんは呆れた様子で溜息をついた後に口を開く。


  

 「ボロー君、また死ぬ気なの?」

 「へ?」

 「また死相濃くなってるわよ」


 また死相濃くなってるって何?

 テミスさんの宣告に、俺だけでなくキルケも驚愕した様子だった。


 「えっ、烏夜先輩死んじゃうんですか!?」

 「ボロー君、何か死ぬ予定ある?」

 「あるわけないじゃないですかそんなの」

 「何か危ないことを考えたりとかは?」

 

 危ないこと、か。ついさっきまでメチャクチャ考えてたな。


 「確かに、ちょっと危険を冒すかもしれません」

 「や、やめましょうよそんなこと! 烏夜先輩死んじゃいますよ!?」

 「でもボロー君の様子を見るに、それはどうしても避けられないことなのね?」

 

 テミスさんの質問に俺は黙って頷いた。テミスさんは俺が謎の前世の記憶を持っていることを知っているから、俺が誰かのために何か行動を起こそうとしていると気づいたのだろう。

 それが、避けられぬ運命であることも。


 「わかったわ、ボロー君。なら私から貴方にラッキーアイテムを授けるわ」


 するとテミスさんはローブの中をゴソゴソと探り、中から取り出したのは──。


 「日本人形よ」


 妙に髪がぼうぼうに伸びた不気味な少女の日本人形だった。いや前にも貰ったよこれ。


 「あの、どう見てもアンラッキーアイテムなんですけどこれ」

 「何を言っているのボロー君。前にあげた日本人形は貴方を助けてくれたでしょ?」

 「いや確かにそうですけど……」


 俺もテミスさんのおかげで命を救われているから、呪われそうでとても受け取りたくないが恐る恐るその日本人形を受け取った。なんか絶対悪霊とか入ってそうなんだけど、こんなの持ってて大丈夫なのだろうか。

 どう見てもラッキーアイテムとは思えないラッキーアイテムを授かったが、キルケは不安そうな面持ちで口を開いた。


 「か、烏夜先輩。また轢かれちゃうんですか? 次は多分骨折どころじゃないと思いますよ」

 「いや轢かれるとは限らないけどね」

 「もし何かあれば、私に連絡してくれても大丈夫ですからね……?」


 いやキルケ、お前本当に良い奴だな。

 するとそういえば、とテミスさんは俺を連れてキルケから少し離れてコソコソ話を始める。


 「ルケーちゃんとルター君、付き合い始めたらしいじゃない」

 「そうですね」


 既にテミスさんの耳に入っていたか。いやルター君って呼び方だと宗教改革が真っ先に頭に思い浮かぶんだが。


 「しかもルケーちゃんの背中を押したのはボロー君って聞いたわ。あの二人が付き合うのもボロー君の計算通り?」

 「いえ、全然。あの二人が付き合うことで困ることはないんですけど、ちょっと今後の先読みが難しくなりましたね」

 「なるほどね……私もルター君の噂は前から聞いていたけれど、てっきりあの琴ヶ岡の娘さん達と付き合うものだと思っていたわ」


 第一部では順当と言うべきか、主人公の大星はメインヒロインである美空と付き合い始めて今も羨ましいぐらいにイチャイチャしているが、第二部主人公のアルタが原作ならモブに過ぎないキルケと付き合い始めたのはかなり驚きだ。

 まぁキルケも作中で結構露出が多かったからアペンドとかでヒロインに追加されるだろうとは思っていたが、第一部では余ったスピカ、ムギ、レギー先輩の三人を相手すればよかったのに今度は四人全員だからな。夢那は妹だからまだ良いとしても、第二部が終わるまでは油断ができない状況だ。

 

 

 俺はテミスさんとキルケと別れて帰宅した。夢那も出かけているため、自分の部屋で一人、テミスさんからもらったラッキーアイテムである不気味な日本人形を眺める。

 テミスさんがこうしてわざわざラッキーアイテムをくれたということは、カペラバッドエンドを迎えた時と同様に俺にかなり死の危険が近づいているということだろう。ってことは明日、会長の家に忍び込もうとした段階で俺は殺されてしまうということか? そんな状況に陥ってからこの日本人形がどう助けてくれるのか、その光景が全く思い浮かばないのだが……しかしそんな最悪の事態を恐れている場合ではない。

 俺は会長の家に忍び込むための策を一晩かけて練ることにした。なんとしてでも、ベガと接触するために──。



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