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四人の織姫編① どうしても客人として招きたくない



 十月九日。

 前世の俺の学生時代なんて生徒会だの委員会だの、そういう活動には無縁だったと記憶している。だから不真面目な俺が生徒会のボランティアという謎の立場で星河祭実行委員に参加したところで何の役に立つのかと思っていたが──俺は烏夜朧に生まれ変わったのだ!


 「誰か、ディスコに使うミラーボールがどこにあるか知らなーい?」

 

 いくつかのグループに分かれて作業を分担し、星河祭に必要な物品の管理を担当していた時、オライオン先輩が資料とにらめっこしながら探しものをしていた。

 その時、俺がスッと手を挙げる。


 「ミラーボールなら特別棟の倉庫にありますよ。まだ使えるはずです」

 「あ、ほんと~? ありがと~」


 俺はまだ骨が折れた右足が完治してないから殆ど事務作業しかしていないが、学校の備品として残されている物品のリストを改めてまとめ直してわかりやすく作り直した。おかげで各クラスや各部活動の出し物に必要な物品の有無や個数をすぐに確認できるようになっている。どんだけ備品あるんだよって驚かされたが。


 「DJブースなんてある?」

 「これ音楽室にあるらしいですよ」

 「あ、そういえばカバーがかけられてたかも!」


 いやミラーボールとかDJブースがなんで備品として置いてあるんだよ。絶対前の星河祭でどっかのクラスがクラブになってただろ……あ、そういえば前作の初代ネブスペでそんなイベントあったかも。その名残か。



 「おい朧、ちょっと良いか?」

 「どうしたんだい大星?」

 「パンフに載っける良いキャッチフレーズみたいなのないか? お前ってクッサイポエム作るのうまそうだし」

 「それ褒め言葉になってないからね?」


 一方、星河祭のパンフレットの作成グループに入っている大星達は、デザイン自体は美術部に任せているのだが、中身の構成だとか星河祭のキャッチフレーズの考案に頭を悩ませているようだった。


 「キャッチフレーズか……若い子がたくさんいますよ感を出したいね」

 「そりゃ若い奴はたくさんいるだろうが、なんか言い方がいかがわしいな」

 「完全前金制とか予約なしOKとかどう?」

 「むしろ予約が必要な文化祭ってなんだよ」

 「全員が入学から三年で卒業!みたいな」

 「そりゃ大体は三年で卒業するだろうが」

 「癒やしのお風呂いかがですかって感じで」

 「お前文化祭っていう店名の風◯でも作ろうとしてるのか?」


 だって朧もネブスペ2原作で似たようなこと言ってるんだから言うしかないだろ。そう言うことを強いられているというよりか、最早自然と言ってしまっているが。月ノ宮って田舎だから森の中にお城みたいな謎のホテルがあるぐらいで、葉室に行ってもそういうお店は少ないはずなんだがな。


 俺はボランティアっていう立場だから事務作業ならなんでもお手伝いするスタンスで、他にも予算管理や資材発注の見積もりなんかも手伝った。その後は生徒会室での作業で、生徒会長であるエレオノラ・シャルロワを始めとした生徒会役員が揃っている部屋で俺も作業しているのだが中々の緊張感だ。


 「烏夜君」

 「はい、なんでしょうか会長」


 突然会長に話しかけられ、俺は若干緊張しながら会長の方を向いた。すると会長は素晴らしい笑顔で俺に向かって言う。


 「なんだか生徒会室の空気が張り詰めているから和ませなさい」


 いやそんな無茶振りある?


 「出た、会長の無茶振り」

 「今日は烏夜か……」


 オライオン先輩や一番先輩を始めとした生徒会役員達はまたいつものが始まったという様子でクスクスと笑っていた。

 原作でもそうだが、エレオノラ・シャルロワはこういう無茶振りとか無理難題を誰かにふっかけるというイタズラが好きなキャラなのだ。とうとう俺に降り掛かったか……ぶっちゃけ会長のその無茶振り発言だけでちょっと空気が和んだ気もするが、俺も本気を出さなくてはなるまい。


 「では一番先輩のスベらない話を」

 「え?」

 「僕が知り合った頃の一番先輩は中々にこじらせていて、夜空に広がる星々をモチーフにした神話を創造していたんです」

 「おい烏夜」

 「なんでも、それぞれの星を具現化した神々が存在し、聖書や賛美歌まで設定してましてね」

 「おいやめろ」

 「某有名少年漫画を完全に丸パクリした呪文の詠唱までありましたね。滲み出す混濁の紋s──」

 「やめるんだ烏夜ぁ!」


 一番先輩がぶん投げたファイルが俺の顔にクリーンヒット。とまぁ明星一番というキャラは今でこそ真面目な優等生キャラであるが、昔はかなり中二病をこじらせていたのである。今もその気質は若干残っているはずだが。

 そんな昔の黒歴史を発掘されてしまった一番先輩はもうキレッキレだが、会長やオライオン先輩は満足そうな笑顔を浮かべていた。


 「面白いお伽噺ね。聖地は存在するの?」

 「乗っかるんじゃない、会長」

 「ラ・ヨダソウ・スティアーナと似たような雰囲気を感じるねー」


 ラ・ヨダソウ・スティアーナとか懐かしいな。エル・プサイ・コングルゥとか意味分かんないのにすぐ思い出せてしまうのは、それだけ頭がミーム汚染されているということだろう。

 と、前世で中々にネット環境に触れてきた俺はオライオン先輩のセリフの意味を理解できたが、会長は不思議そうな顔をして彼女に聞く。


 「そのラ・ヨダソウ・スティアーナというのはどこの国の言葉?」

 「へ? あ、いや、これは何か、ね。そういうのなんだよ。ね、烏夜君」

 「そうですね」


 おそらくはネット上で通じるミームなんか知らないであろう会長にツッコまれたオライオン先輩はかなりキョドっていた。

 ちょっとイタズラしてみるか。


 「オライオン先輩」

 「ど、どうかした?」

 「……ぬるぽ」

 「ガッ」


 ……。

 ……古のインターネット世界を生きてきたインターネット老人に伝わる、最早古典のような言葉。俺かて存在は知っているというぐらいの認識なのだが、これに反応できるということはオライオン先輩も中々にどっぷりネットの世界にのめり込んでるな。


 「なんだその挨拶」

 「いや、違うんだよ皆。あ、それよりこの飾りだと予算オーバーになっちゃうと思うんだけど……」


 と、オライオン先輩が慌てて話を逸らしてその後は普通に委員会が進んでいった。

 ネブスペ2第三部では明星一番が主人公で、会長やオライオン先輩がヒロインとなるのだが……会長ルートとオライオン先輩ルートは同じ世界線に生きているとは思えないぐらいに生きている世界が違いすぎるからな。見た目はどちらも気品高そうなお嬢様なんだが。



 委員会が終わると生徒会役員や実行委員はそれぞれ帰宅していったが、俺は会長と大事な話をするため生徒会室に二人きりで残った。


 「それで、話って?」

 

 前にもこうして生徒会室で会長と二人きりで話をしたことがある。あの時は確か……月見山の展望台で芸術家の男が死んでいた事件について追及したんだっけか。結局はぐらかされてしまったが、前回がそれだっただけにさっきまで機嫌の良さそうだった会長も少しばかり怖いオーラを放っていた。


 「最近、会長はベガちゃんのヴァイオリンのレッスンをされてますよね?」

 「そうね」

 「ベガちゃんの様子はどうですか?」


 昔からベガと親交があり年上でもある会長が相手なら、ベガも何か相談をしているかもしれない。

 会長は一時難しそうな表情で考え込んだ後、何かに気づいたかのように頷いてから口を開いた。


 「なるほど。最近あの子の元気がないのは貴方の不貞な行為のせいってことね。合点がいったわ」

 「いや、違うんです。違うんですよ会長」

 「じゃあ一体何があったの? 正直に教えて」


 会長もベガの様子がおかしいことに気づいていたようで、気にかけていた彼女が気落ちしてしまったのは俺が原因だと中々にお怒りのようだ。会長には嘘が通用するとは思えず、俺はベガとの間に起きたことを正直に会長に説明し、会長の別荘でレッスンを受けるベガに会うことは出来ないかと提案した。


 

 「なるほど。貴方はレギーという素晴らしい相手がいるのに、他の子に手をかけるつもりなのね?」

 「いや、違うんです。違うんですよ会長」

 「冗談よ。レギーやベガのことを助けてくれた恩人を謗るつもりはないわ」


 会長はベガが俺のことを好きになってしまった件について意外そうな反応をしていたが、納得はしてくれたようだ。

 ならベガのためを思ってこちらの提案に乗ってくれると思ったのだが──


 「でも貴方を私の別荘に入れるつもりはないわ」


 いやダメなんかーい。

 だが俺もここで引き下がるわけにはいかない。


 「会長。僕もベガちゃんのことを大切に思っています。このままだと月末のコンクールにも影響が出るかもしれません。なのでベガちゃんとの関係を修復して、僕も側でベガちゃんを応援したいんです。

  僕も人様のお宅で粗相を見せるつもりはありません。どうか、お願いできませんか?」


 俺は会長に頭を下げた。この方法が全てとは思っていないが、俺はベガと会うためのきっかけがほしいのだ。ワキア、ルナ、夢那と第二部のヒロイン達のルートが順調に進んでいるというのに、ベガだけ置いてけぼりにするわけにはいかない。

 

 「どれだけ貴方が頭を下げても無駄よ。貴方の頭に一体何の価値があるというの」


 だが、それでも俺の思いは届かないようだ。

 俺が頭を下げながら、自分の不甲斐なさに歯を食いしばっている時、さらに会長は言った。


 「ただ、貴方が勝手に私の別荘に来るというなら邪魔はしない」

 「へ?」

 「私は貴方を客人として迎えるつもりはないけれど、何かをくすねるために侵入するのは貴方の勝手ということよ。もっとも、厳重な警備を突破できればの話だけど」


 ……。

 ……俺、今、相当無理難題言われてない?

 つまり、会長自身は俺を正式な客人としてもてなすつもりはないけれど、不法侵入はOKってこと? いや不法侵入だからOKじゃないはずだが、入れるもんなら入ってみろよって言ってんのか?

 会長の言葉の解釈に俺が頭を上げて戸惑っていると、不敵な笑みを浮かべながら会長は言う。


 「ちなみにあの子がレッスンをしているのは、海が一番良く見える部屋よ」


 いや部屋の場所まで教えてくれてるじゃん。何この人、もしかして乗り気なの? 


 「……僕は僕に出来ることを全力でやりきります。例え警察にしょっぴかれたとしても後悔しません」

 「貴方が警察に逮捕されることなんてないわ。その前に貴方を闇に葬るから」

 「ひ、ひぇ……」

 「冗談よ、フフ」


 俺は会長に別れの挨拶を告げた後、生徒会室を出て胸をなでおろした。

 会長からは全面的な協力こそ得られなかったが、多少の希望は見え始めた。ワンチャン俺が闇に葬り去られるという大きなリスクもあるが……いや、普通に考えて不法侵入はダメだろ。入れるもんなら入ってみろと会長は言ってるけど、多分いざ入ったら普通にアウト判定だろう。

 

 だが、俺はこの無理難題を超えなければならない。これはネブスペ2第三部でラスボスとも呼ばれる会長がふっかけてくる無理難題の一つだと考えれば良い。

 しかし一つ不安があるとすれば、会長に関わることでベガルートのエンディングがどう分岐するか、というところなのだ。第一部ではそれはそれはもうスピカとムギルートのシナリオをメチャクチャに破壊してくれたが、なんだかんだ上手くいったと思いたい。


 そんな記憶が頭をよぎるだけにかなりの問題が俺に降りかかりそうだが、せっかくこの世界に転生したのならラスボスと呼ばれる会長に抗ってみようじゃないか。

 ……いや、下手に会長に抗うと闇に葬られるか逆に惚れられるかもしれないという大きなリスクがあるのだが。


 

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[一言] 朧パイセン、バンバンフラグ立ててるね〜 四人の織姫編、最後に総決算的な章がキター! まとめてたらしこむのかな?(ワクワク)
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