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白鳥アルダナ編⑥ せーんせーに言ってやろー



 十月七日。星河祭でオープンするウチのクラスのメイド&執事喫茶を成功させるためいそいそと準備を進める中、俺は放課後にLIMEでルナに一年生の教室に呼び出された。

 空き教室なんかで出し物の準備を進める生徒もいたが、一方で他に誰もいない教室の一角に座る一人の生徒──ルナは心ここにあらずという様子でボケーッと天井を仰いでいた。


 「ルナちゃんったら、今日ずっとこんな調子なんだよねー」


 自分の席に座っているルナの頬をツンツンとつつきながらワキアがそう言うも、ルナは未だにボケーッとしている。


 「やっぱりアルタ君のことがそんなにショックだったってわけだね?」

 「ルナちゃんったらいつも否定してたけどさ、やっぱり心のどこかでアルちゃんのことがそんだけ大事だったってことだよねー」

 「ちなみにアルタ君はどんな感じだった?」

 「キルケちゃんのおじいちゃんとおばあちゃんから美味しい野菜とか貰えたって嬉しそうに話してたよ」

 

 ワキアも今は平静を装っているが、ルナ程ではないにしろ思うところはあるだろう。まぁネブスペ2原作でも他のヒロインがアルタと付き合い始めたと知ったルナの反応もこんな感じだったしそこまで驚きはない。

 

 「でもルナちゃんがこんな調子だと記事の続きも作れないし、何よりアルちゃん達にも悪いからさ。どーにかできないかなー?」

 「そうだね……」


 第一部でも最初はスピカ達だって大星のことが多少は好きだったはずだったのに様々なイベントが起きたが故にスピカとムギとレギー先輩が朧ハーレムとかいう謎のサークルを結成するに至ったが、彼女達三人が割とあっさりと大星のことを諦めたのに対し、第二部のヒロイン達はそうもいかない。

 ワキアは体調も良好そうなのでバッドエンドの心配はなさそうだが、特にルナはカメラ趣味やゴシップネタ好きが行き過ぎてアルタにストーカーのように付き纏うようになり、バッドエンドでは盗撮や盗聴を繰り返してアルタを自殺にまで追い込んでしまうほど狂ってしまう。


 ネブスペ2第二部は第一部と違い、主人公のアルタを巡るヒロイン達のバトルを多くの選択肢を慎重に選ぶことで回避しなければならないが……現実だと選択肢なんて見えないからわからん。最終的な全員がアルタ達の恋路を応援するという形で落ち着くのだが、こんな放心状態にあるルナにどう声をかければいいものか。

 俺が悩んでいると、ワキアがハッと何か閃いたように手をついて口を開いた。


 「ルナちゃんと烏夜先輩が付き合っちゃえば良いんだよ!」

  

 ……。

 ……いやなんでそうなった。


 「どうして私が朧パイセンと付き合わないといけないんですか!?」


 ワキアのその一言を聞いたルナもようやく我に返ったようだ。


 「ほら、こういうのよくあるじゃん。失恋して落ち込んでいるルナちゃんに烏夜先輩が優しく付け込んじゃえばルナちゃんもメロメロになっちゃうはずだよ」

 「それを本人の前で言う!?」

 「じゃあルナちゃんは烏夜先輩のこと好きじゃないの?」

 「べ、別に好きじゃないですよ!」

 「ふ~ん」


 するとワキアは急に俺の腕に抱きついてきて体を密着させてきた。薄手の夏服の向こうから、その柔らかい質感がダイレクトに伝わってくる。


 「じゃあさ、私が烏夜先輩と付き合っても問題ないよね?」

 「え」

 「え?」


 ワキアの突然の告白に、俺もルナも一瞬頭が追いつかなかった。

 ワキアが、俺と付き合う?

 それは第一部での経験を踏まえれば予想できた未来ではあったが、あまりにも唐突だった。


 「ねー、烏夜先輩は私のこと好き?」

 「いや、嫌いではないけど」

 「好きとは言ってくれないんだねー、ふ~ん」


 いや大好きって言いたいぐらいなんだけども。こんな銀髪美少女に抱きつかれてときめかない奴がいるだろうか? いやいない。

 ワキアらしいイタズラかとも思ったが、ワキアは俺の腕をさらに強く抱きしめて言う。


 「烏夜先輩の周りにはスピカ先輩達みたいな素敵な人達がいるけど、やっぱりね、自分の大好きな人がちょっとでも他の人の方を見ていると寂しいんだよ。

  だからさ、烏夜先輩。私だけの烏夜先輩になってよ」


 はい、なります。

 


 いやいやいやいや、ダメだダメだ。落ち着くんだ、俺。ワキアだけの烏夜先輩になりたいけど、もう俺の心臓バックバクで今にも弾けてしまいそうだけど、ダメなんだ。


 俺は常に死と隣り合わせにある。この第二部が終わる十一月一日まで、そして原作で烏夜朧が死んでしまう十二月二十四日まで生きているかもわからない。その時に誰かを悲しませてしまうなら、誰かと特別な関係を築きたくはない。

 ならば──。


 「ごめん、ワキアちゃん」


 そう、これは彼女達のためだ。

 俺は、俺の腕から離れたワキアから顔を背けた。彼女のショックを受けた表情を間近で見られない。


 「諸事情あってね、僕は誰とも付き合えないんだ」


 彼女達が俺に時間を割くよりも、俺じゃなくて新しい相手を見つけて欲しい。アルタという運命の相手が取られてしまったとしても、そんなに急く必要はないはずだ。

 その方が皆のためになると俺は考えたのだが──突然、俺の頬を衝撃が襲った。


 「ひどいじゃないですか、そんなの」


 俺の頬をぶったのは、ワキアではなくルナだった。俺が頬を擦りながらルナの方を見ると、ルナは目に涙を浮かべながら怒り狂った様子で言う。


 「か、烏夜先輩は退院した後も闘病生活を送っているわぁちゃんのために毎日病院にお見舞いに行ってあげて、わぁちゃんを元気づけてたじゃないですか。私も病気と闘っているわぁちゃんの悩みを色々聞きましたけど、わぁちゃんは私と会うといつも楽しそうに烏夜先輩のことを話してたのに、病院であんなに楽しそうなわぁちゃんなんて見たことがなかったのに、そんなわぁちゃんの告白を冷たくあしらうだなんて──烏夜先輩に夢中になってた私までバカみたいじゃないですか!」


 怒りからかルナはワナワナと体を震わせていた。

 親友であるワキアのことを大切に思う気持ちと、そしていつの間にかルナの心のなかに芽生えていた恋心を裏切ってしまった、ということか……。


 「やっぱりルナちゃんも烏夜先輩のこと、好きだったんだねー」

 「いや、私はアルちゃんのことも好きで……でも烏夜先輩のことも好きで……私、どっちの方が好きなんだろ?」


 するととうとうルナの目から涙が溢れ出し、決壊して止まらなくなった涙をルナは必死に拭っていた。


 「わからないよ、もう……」


 ……。

 ……メチャクチャ心が痛い。

 俺なりの誠意を見せたつもりだったのに見事に空回りというか大失敗だ。ネブスペ2原作で二人の攻略に必要なイベントをいくつか逃してるけど、確かにワキアとは病院で触れ合った期間も長かったからわかるが、ルナにそんな好かれるような要素あったかね。


 「わー、烏夜先輩がルナちゃんを泣かせちゃったー」


 そして俺が振ってしまったワキアは案外ケロッとした様子で俺をいじり始めた。


 「いーけないんだーいけないんだー。せーんせーに言ってやろー」


 昔よくあったなそういう言い回し。いやでもどう詫びたら良いんだろうと俺が悩んでいると、突然教室の扉が開いた。



 「誰か私のこと呼んだ?」


 入ってきたのは、このクラスの担任であり現国教師である紬ちゃんこと白鳥先生。今、俺の目の前で泣き続けているルナのお姉さんである。


 「あ、せんせー。烏夜先輩がルナちゃんを泣かせましたー」


 紬ちゃんは俺達の方までやって来ると、未だに溢れる涙が中々止まらないルナの背中を擦りながら俺のことをジッと見て言った。


 「昔ね、ウチの美術部の生徒が石抱の器具を製作したんだけど、せっかくだしそれの実験台にならない?」


 いや、石抱って何かギザギザした木の板の上に正座させられて、太ももの上に重い石を重ねられていく江戸時代の拷問だろ。誰だよそんなの作ったやつ。美術部の生徒ってまさかレギナさんだったりしないよな。

 だが完全に悪者なのは俺だし甘んじて受け入れよう。


 「はい、喜んで実験台になります」

 「烏夜先輩!? ちょっと待って紬ちゃん、烏夜先輩はね、うら若き乙女である私とルナちゃんに芽生えた恋心を傷つけただけなんだよ」

 「じゃあ市中引き回しね」

 「あ、はい。甘んじて受け入れます」

 「烏夜せんぱーい!?」


 俺も心が痛くて胸が潰れてしまいそうだから、いっそのことそんぐらいの刑罰を受けさせてくれたほうがまだ心がスッキリする。いや、そうしてスッキリさせない方が苦しめるから良いのかもしれないけど。

 流石に石抱だの市中引き回しだのは冗談のようだが、紬ちゃんはルナの頭をポンポンと叩きながら言った。


 「ほらルナ、振られたからっていつまでもクヨクヨしないの。大学にでも行ったらたくさんの男を捕まえられるわよ」

 「それ励ましになってる?」

 「成り行きに任せて恋をするのもいいものよ。酒に溺れて大して好きでもない男と過ごした夏の夜も、ムシャクシャして声をかけた女の子と迎えた冬の朝も今となっては良い思い出よ」

 「それ参考にしていいの?」


 ルナのお姉さんである紬ちゃん。ネブスペ2第二部でもちょいちょい登場する憂いを帯びた大人で、何かと生々しい恋の遍歴を語る人だ。あと何かと妄想癖もある。


 「んで、烏夜君は一体どうして私の可愛い妹を振ってくれたのかしら?」

 「まぁその、色々込み入った事情があるんです」

 「な、何か烏夜先輩に悪いことが起きるの?」

 「いや、逆にワキアちゃんやルナちゃん達を悲しませてしまうかもしれないから……」


 流石に年末に僕は死んじゃうんですとは言えない。ある程度の展開は原作になぞっているが、原作よりも早い段階で俺が死んでしまう可能性は十分にある。

 しかし、ワキアは再び俺の手を掴んで口を開いた。


 「だったら、そんなの私達が気にしなれければいいだけの話だよ。烏夜先輩のためなら、どんなことだって受け入れるからさ。そのぐらい、私達は烏夜先輩のこと好きなんだよ? ね、ルナちゃん」


 するとようやく落ち着いたルナが真っ赤になった目元を拭いながら口を開いた。


 「朧パイセン」

 「な、なに?」

 「わ、私達はショックを受けています。な、なので私達とデートしてください!」


 ここは、俺も覚悟を決めるしかない。俺はこんな未来を望んだわけではないが、これもまた誠意だろう。


 「うん、わかった。えっと、ワキアちゃんも?」

 「私はケーキ食べたいな~サザンクロスのケーキバイキングでたくさんケーキを食べたいな~」

 「ルナちゃんもそれでいい?」

 「勿論です」

 「私もよ」

 「紬ちゃんは別です」

 「それは残念」


 しれっと混ざろうとした紬ちゃんは置いといて、俺はワキアとルナとこれからデートへ向かうことになった。デートの相手が二人いるというのも不思議な話だが、二人がそれで良いなら……。



断りきれずズルズルと何股もしてしまう主人公……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ルナとワキアがかわいいです。 [一言] 個人的には第二部のヒロインの方が良いですね。
[一言] 思ったより、ワキアとルナの好感度高かったのね………… ベガと夢那はどうなるのやら………
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