白鳥アルダナ編⑤ 二人の心にビッグバン
ワキアに代わってルナが俺と一緒に写真に映ることになり、早速ワキアがカメラを構えて俺はルナと一緒に公園のベンチに腰掛けたのだが……。
「きょ、今日はいい天気ですね朧パイセン」
「そうだね」
「あ、明日には大雪かもしれませんね、アハハ」
「そうだね」
俺の隣に座るルナは緊張しているのか半ばカタコトになっているしずっと俺の隣でモジモジしている。いつもはハキハキと元気が良いのにすっかりしおらしくなってしまっているが、ワキアがそんなルナを見てニヤニヤしている一方で、ここは俺が動かねばなるまい。
「ルナちゃんって、将来は写真家を目指してるんだっけ?」
「は、はい。写真を撮るのが好きなので」
「モデルさんとかのカメラマンじゃダメなの?」
「いや、その……モデルさんと上手くコミュニケーションをとれる自信がないんですよね」
なるへそ。確かにプロのカメラマンってモデルとかの写真を取るときに色々声をかけているイメージがあるし、やはり被写体の魅力を引き出すにはコミュニケーションが重要になってくるだろう。同じカメラというものを扱う職業でもカメラマンと写真家じゃ全然違うかもしれない。
「じゃあさ、ルナちゃんは星河祭に出す僕の記事にどんな写真を付けたいの?」
「それは……お、朧パイセンはどういうのが良いんですか?」
「僕はやっぱりかっこいい写真が良いかなぁ」
「それはちょっとあの記事の趣向に合わないと思うんですよ。もっとこう、なんていうか……演技で作られた格好良さじゃなくて、朧パイセンそのものの性格っていうか、優しさみたいなのを撮りたいんです」
優しさ、か。優しさがテーマってのもまた難しいなぁ。俺もカメラなんてスマホでぐらいしか触らないから腕前こそルナに劣るだろうが、俺なりのアドバイスは出来るはずだ。
「ルナちゃんは僕のどういうところが優しいと思うの?」
「なんだかこう、朧パイセンの寄り添ってくれる時の雰囲気というか、困っている時にいつも声をかけてくれるのでついつい頼っちゃうし甘えたくなっちゃうんですよ。しかも朧パイセンはどんなワガママも受け入れてくれますし……」
うん。俺がふっかけた話だけど聞いてるこっちの方が恥ずかしくなってきたわ。やめようこの話。
しかし俺が止めようにもルナはさらに話を続ける。
「昔の朧パイセンが私達に優しいのはやっぱり下心ありきだとずっと思っていたんですけど、記憶喪失になった朧パイセンと接していると、もしかして朧パイセンの素の性格ってこんな感じなのかなぁって思って……今までは嫌気が差してたんですけど、段々と朧パイセンと話すのが楽しくなってきちゃったんです。
この取材っていう形だけじゃなくて、プライベートでももっとお出かけできたら──」
と、赤裸々に語るルナの横で俺は固まってしまっていたが、ルナは突然ハッとした表情で急に立ち上がり、顔を真っ赤にして俺の方を指差しながら言った。
「──って、どうして私が朧パイセンに告白してるみたいになってるんですか!?」
「いやルナちゃんが自分で語りだしたんじゃん!?」
俺このまま告白される流れなんじゃないかってすげぇドキドキしてたんだけど、ルナはようやく我に返ってくれたらしい。もし我に返ってなかったら本当に告白されてたのか?
するとずっと俺達にカメラを向けていたワキアが笑顔で口を開いた。
「え~もうやめちゃうのー? もっと色んな写真撮りたかったのに~」
「良いの撮れた?」
「うん、可愛いルナちゃんがたくさん」
カメラには俺と楽しそうに話す笑顔のルナが収められていた。これ俺じゃなくてルナがメインになってない?
「……って、これだとまるで私が朧パイセンの彼女みたいじゃないですか!?」
「今更!?」
「これはボツにしましょう! わぁちゃんの写真を使います!」
「それだと僕とワキアちゃんが付き合ってるみたいにならない?」
「私は別にいーよ~」
とまぁ、なんだか趣向は変わってしまったが公園で撮りたかった写真は一応揃ったとのことで俺達は場所を変えて写真撮影を続けることにした。
続いて向かったのは葉室駅前。葉室駅前の広場には月学OGである世界的芸術家のレギナさんが製作した、白と黒のコントラストが特徴的な巨大な宇宙のウォールアートが展示されている。
そこで写真を撮ろうとセッティングしようとしていたのだが、俺達の前を通りがかった二人組を見てワキアが反応した。
「あ、キルケちゃんとアルちゃんだ」
「え?」
俺達の前を通りがかった、月学の制服を着た二人組が足を止めた。一方は両手に紙袋を持つアルタ、そしてもう一方はキルケ。
キルケは俺達の存在に気づくと、いつもと変わらない笑顔で口を開いた。
「こんなところでお会いするなんて奇遇ですね。何されてたんですか?」
「ルナちゃんの星河祭に出展する記事のお手伝いをしてたんだ」
そういえば今日、キルケはアルタの買い物に付いていくとか言ってたっけ。アルタが持っている荷物を見るにロケットの製作に使う機材っぽいな。
すると、アルタとキルケの姿を見ながらニヤニヤしていたワキアは、アルタの元へソソソと近づいてわっるい笑顔を浮かべながら言う。
「ねーねーアルちゃ~ん? もしかしてキルケちゃんとデートしてたのー?」
アルタとキルケが交際を始めたことをワキアやルナは知らない。こうして二人で出かけていればデートだといじられることもあるかもしれないが、アルタは明らかに狼狽した様子で口を開いた。
「いや、違う。僕、買い物してただけ」
「キルケちゃんと?」
「そうだよ。そ、それが何か?」
いやどうしたよアルタ。お前どうして幼馴染を相手にそんな狼狽えてるんだよ。どうやらアルタもこれをデートだと思っていたらしいな。
そんなアルタの珍しい狼狽え方を見たワキアとルナはさらに攻勢を強める。
「アルちゃんが買い物に誰かを連れてくなんて珍しーな~私がついていこうとしたら露骨に嫌そうな顔するのに~」
「どうしてお二人でお出かけを? 一体どちらが誘ったんです?」
アルタの隣でキルケはアワアワとしていたが、二人の攻勢を受けたアルタはとうとう決心したような表情で口を開く。
「僕は今、キルケと付き合ってるんだ」
おそらくネブスペ2原作では絶対にアルタの口から放たれることのないセリフ。ワキアとルナにいじられながらもその事実はひた隠しにするかと想像していたが、どうやらアルタもキルケのことを特別だと思ってくれているらしい。
アルタの隣にいたキルケも驚いたような様子を見せたが、どこか嬉しそうでもあった。
「ごめん、二人共。いつかは説明しようと思っていたんだけどね。烏夜先輩はご存知で?」
「うん、キルケちゃんから聞いてたよ。この後はキルケちゃんの家に行くのかい?」
「いや行かないよ」
「私のおじいちゃんとおばあちゃんがいますよ?」
「だから行かないって」
「多分アルタさんを見かけたら美味しい野菜や果物をくれますよ?」
「あ、それは普通に欲しいかも」
何故かキルケのおじいちゃんとおばあちゃんが丹精込めて作った野菜や果物に釣られてアルタがキルケの家に寄っていくことが決まり、俺は改札の方へ向かう二人を見送った。
そして、残されたワキアとルナはと言うと──。
「あの、二人共?」
俺が話しかけても、口をあんぐりと開いて呆然としているワキアとルナは、まるで魂が抜けたかのように反応を失ってしまった。
「おーい、ワキアちゃん?」
「はっ!? なんだかアルちゃんが童◯を卒業した夢を見た気がするよ」
「それはまだ夢のはずだから大丈夫」
あとこんな公衆の面前で童◯って言ってやるんじゃない。早急に卒業するよあいつなら。
「ルナちゃーん、生きてるかーい?」
「はっ!? アルちゃんとキルケさんの結婚式を祝福する裏で、行かず後家になる自分の姿が見えたような気が……」
「そんな生々しい夢を見なくていいんだよ」
二人共アルタに彼女が出来たことがショックだったのか、予定していた撮影は中止になって帰ることになった。帰りの電車の中ではワキアもルナも平気そうに振る舞っていたが、笑顔がぎこちなくなっていたし口数も減ってしまい、もう見るからにショックを受けているというか落ち込んでいるように見えた。
やはり、二人にとって大切な存在であるアルタに彼女が出来たというのはかなりの衝撃だったのだろう。明らかに気落ちしてしまっていたが、これは先に勇気を出したキルケに軍配が上がったと言うべきか、このメチャクチャなエロゲ世界の犠牲になってしまったというべきなのか……。
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