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白鳥アルダナ編② 怪しい自撮り



 俺はルナが所属する新聞部の部室へと連れられ、ノートパソコンが置かれていた長机の前に座る。他の部員の姿はなく、ルナはノートパソコンの前に座って電源を点けた。


 「実は星河祭に出展する記事が中々まとまりそうになくてですね。少しお手伝いしていただきたいんです」


 新聞部は毎月学校新聞を発行しているが、星河祭では各部員が記事を書いて出展するという。ネブスペ2原作のルナルートでも第三部のヒロインであるベラトリックス・オライオンの隠された秘密を追うとかいう危なっかしいことをやるのだが……。


 「結局ルナちゃんはどういう記事を出展するの?」

 「朧パイセンの記憶喪失が治る過程をドキュメンタリーのようにして書きたいんですけど、部長に見せたら私の感情が入りすぎててエッセイみたいになってると言われたので、一度読んでみてください」


 ネブスペ2原作でも第二部主人公のアルタが記憶喪失になるのだが、作中でルナが彼の記憶喪失を記事にするという流れはなかったはずだ。やっぱ俺が事故って記憶喪失になったから色々と狂ってしまったようだが、じゃあかのオライオン先輩の秘密が明かされるのはいつになるのやら。

 俺はルナにパソコンの画面を見せられ、彼女が書いた記事に目を通していく。


 

 『記憶喪失になったO先輩は無節操に女性を口説いては長続きもしない恋を繰り返すことで学校の内外を問わず有名な方でしたが、事故で記憶喪失になってしまったO先輩はそういった汚れた部分が全て浄化されてしまったような──例えるならきこりの泉から出てきたきれいなジャ◯アンのような──純朴な青年へ変わってしまったことに私だけでなく多くの人が困惑したものです』


 いや何がきれいなジャ◯アンだ。まるで烏夜朧の中に転生した俺という存在が汚れてるみたいじゃないか。いや多分泥水ぐらいには濁ってるかもしれないけど。

 記事には参考画像として病室のベッドでピースしている純粋な朧の写真があるが、顔にモザイクがかけられていて何故か俺の周囲がピカピカと輝いているような加工が施されていた。そして念の為個人情報を伏せるためか俺のことはO先輩として書かれていたが、多分月学の生徒だったら誰のことかわかるだろう。


 『私は記憶喪失になったO先輩がどのようにして記憶を取り戻していくのか、その姿を追うために取材を重ねました。かつての妙に腹立たしいのに憎めない笑顔を見せてくるO先輩の姿はなく、私の知らないきれいなO先輩の存在が信じられないぐらいでしたが、私が取材のためO先輩と葉室市へ出かけていた時、別れ際にO先輩は私に言ったんです。

  「なんだかデートみたいだね」

  私はかつてのO先輩を思い出し背中がゾッとしました』


 ……。

 ……俺、そんなこと言ったっけ? いや言ってないな。言ってないぞぉ!?


 「ねぇルナちゃん」

 「どうかしました?」

 「このセリフ、僕じゃなくてルナちゃんが言ったんだよ?」

 「え、そうでしたっけ? どうして私が朧パイセンとのお出かけをデートだと思わないといけないんですか?」

 「いやそれはその時のルナちゃんに聞いてみないとわかんないけど」

 「それに私が言ったという証拠はあるんですか?」

 「多分二、三ヶ月分ぐらい記憶を辿れば残ってるよ」


 夏休みに俺への取材という名目でルナと出かけたことがあったが、ルナと一緒にご飯を食べたり何故かルナの水着を選んだり葉室駅前をブラブラしたり……俺への取材という部分がなければ原作でもアルタ視点で起きるお出かけイベントではあるのだが。

 しかし原作ならルナを彼女の実家である月ノ宮神社まで送り、そして境内でルナがネブラスパイダーに襲われるというちょっとウフフなイベントが起きるはずなのだが、俺が境内まで行かなかったからそのイベントは起きていない。

 ネブラスパイダーが作った蜘蛛の巣に捕らわれたルナの服が溶けていくイベントも見たかった気もするが、それはおいといて記事を読み進める。


 『夏休みの間、私はきれいなO先輩の取材を続けていましたが、知人との交流でO先輩が記憶を取り戻していく一方で、どうしてこの人は私達との思い出が殆ど残っていないのに、ここまで私達のことを気にかけているのだろうと疑問に思いました。

  事故で頭部に強い衝撃を受けて記憶を失っただけでなく性格すら変わってしまったのかとも考えましたが、今思えば私達に対する執拗なナンパも裏を返せば私達への気遣いという側面もあったのかもしれません』


 いや絶対そういう側面は無かったと思うよ。


 『O先輩は病弱な後輩が入院するとなると約束通り毎日隣町の病院まで足げくお見舞いに通い、大事なヴァイオリンのコンクールが控える後輩のレッスンに付き合ってあげたりと、忙しい夏休みを過ごしていました。

  O先輩が気にかけていた後輩達に取材をしてみると、「まるでお兄ちゃんが出来たみたいだよね~」ととても頼りにしているそうです』


 いや取材受けたの絶対ワキアだろ。いつの間にルナから取材されてたんだよ。


 『O先輩は夏休みの間に大分記憶を取り戻し、かつての性格も少しずつ戻ってきたように思われましたが、O先輩本人は何か大事なことを忘れているとずっと悩んでいて、そのまま夏休みが明けてしまいました。

  しかし夏休みが明けてすぐ、ちょうど私達の林間学校が始まる直前にO先輩はとある後輩を庇って再び事故に遭うのです。今回ばかりは打ちどころも悪く重傷こそ負いましたが、なんと再び頭部に強い衝撃を受けたことでO先輩は記憶を取り戻したのです!

  やっぱりM先輩に頼んでO先輩を殴ってもらったほうが早いのではという私達の推測通りの結果でした』


 M先輩って多分美空のことだろ。いや、俺の周りの皆があの怪力自慢の美空に俺を殴らせようとしてたの? 美空に本気で頭を握られたら破裂しそうで怖いんだけど。


 『O先輩は記憶喪失が治った後も右足の骨折という重傷を負いながら精力的に活動し、生き別れの妹のために知り合いの芸能人を呼んでサプライズをするなど、その気遣いが変わることはありませんでした。

  今までは巫女服を着た女性を見るやいなや発情する性魔獣だと思っていたのですが、もしかしたら事故に遭ったことでそういった汚れた部分がどこかへ飛んでいってしまったのでしょうか』


 いや巫女コスを見ても別に発情してるわけじゃないよ。テンションは確かに上がってるけども。

 それに──。


 「ねぇルナちゃん。このサプライズの件、誰から聞いたの?」

 「とある情報筋ですね」

 「僕を含めて四人しか知らないはずなんだけど?」

 「じゃあその中にいらっしゃるんじゃないですかね」


 都心を離れる夢那へのサプライズを知っているのは俺と夢那とコガネさんとナーリアさんだけだ。一番口が軽そうなのはコガネさんだけど、もしかして夢那がルナに言ったのかな。


 『O先輩を取材して二ヶ月、様々な場面でO先輩の姿を見てきましたが、私はO先輩自身の変化よりもO先輩の周囲の方々の変化を見ることが多かったような気がします。

  もしかしたら私もその一人なのかもしれません。私の夏休みが全体を通して楽しい思い出として残っているのは、その中心にO先輩の姿があったからでしょう。O先輩は既に記憶を取り戻して普段のO先輩に戻ってしまいましたが、O先輩は今後も多くの人達の人生を変えていくのかもしれません。

  というわけで、これからもずっと取材させてくださいね、O先輩』


 ……。

 ……いや、何その終わり方。

 ちょっとドキッとしちゃったけど、ルナは俺のことを良いゴシップネタ製造機だと思ってる?


 「いかがでしたか、朧パイセン」

 「なんか部長さんの言う、ルナちゃんの感情が入りすぎってのはよくわかるよ。ルナちゃんの個人的な感想みたいなのを削っていけばいい感じになるんじゃないかな」

 「あ、いや部長からはもうOK出てるんで書き直すつもりはないですよ」

 「OK出てるの!?」


 確かにこの記事は記憶喪失になった俺が記憶を取り戻していくまでの過程が描かれているが、なんかルナの心境の変化みたいなのもひしひしと感じるんだけど大丈夫かこれ。


 「じゃあ、僕に手伝ってほしいことってなんなの?」

 「もうちょっとボリュームが欲しいので、何か面白いエピソードとかありません?」

 「夜中にナンパした女性がろくろ首だった話とか?」

 「朧パイセンは江戸時代に生きてるんですか?」


 原作のルナルートだと記事の作成が難航して、主人公のアルタがルナと一緒に取材や記事の作成に励んで、そしてとうとう第三部のヒロインであるオライオン先輩の秘密を暴くのだが……俺はもう知ってるしなぁ、あの人の正体。


 「あと、これまでに撮った朧パイセンの写真があるんですけど、どれを記事に出そうか悩んでるんですよ。どれが良いと思います?」


 ルナはそう言って、パソコンのデスクトップにある複数のフォルダの一つをクリックした。

 すると画像フォルダが開かれ、ルナと一緒に葉室に出かけた時の写真や、海や遊園地での写真が大量に保存されていた。いやどんだけ俺の写真撮ってんだよ。


 「た、たくさんあるね」

 「結構楽しかったですよ」


 そして下へ下へとスクロールしていくと、俺の笑顔だったり横顔が映された写真の中に一つだけ趣が違う写真があった。


 「え、何これ」

 「あ」


 それは黒い下着を着た女の子の自撮り画像で……顔こそ映っていなかったが黒髪のツインテールと俺の知り合いが使っている携帯が映っていた。

 うん、これルナの自撮りだな。え、なんで?


 「ふーんっ!」

 「ぐぼぉっ!?」


 それがルナの自撮り写真だと俺が理解した瞬間、俺は横から顔を思いっきり殴られた。


 「ち、違うんですよ朧パイセン! 良いですか、貴方は何も見ませんでした、これで良いですね!?」

 「えっと、あれってルナちゃんなの?」

 「違います! 違うって言ったら違うんです! さぁ早く出ていってください! ほらほら早く!」

 「なんで僕が出て行かされるの!?」


 俺があの写真を見てしまったのは完全に不可抗力だし、それにあの自撮り写真は一体何なんだ? なんでルナは自分の下着姿をわざわざ自撮りして……もしかして誰かに送ったのか!?

 


 少しでも面白い、続きが読みたいと思ってくださった方は是非ブックマークや評価で応援して頂けると、とても嬉しいです!

 何卒、よろしくお願いします!

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