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十六夜夢那編⑬ 夜空に輝く思い出



 ペンション『それい湯』での大星の誕生日パーティを終えた後、俺はスピカ、ムギ、レギー先輩、そして夢那と一緒に夜の月ノ宮海岸を歩いていた。日中はまだ日差しがキツく感じられることもあるが、日が沈んだ後は大分涼しく感じられるようになってきた今日このごろ、海岸には波のさざめきが響き渡っていた。


 「さて、御三方。ボクの兄さんへの愛を語っていただきましょうか」


 あ、本当にやるんだそれ。スピカ、ムギ、レギー先輩の三人と対峙する夢那、そして当事者であるはずなのに蚊帳の外の俺。

 これ一体何が始まるの? と俺が困惑していると、先にムギが口を開いた。


 「そんなの語る必要もないね」


 するとムギは俺の方へズカズカと歩いてくると、いきなり俺の両肩を掴んできてグイッと自分の方へ寄せて──力強く唇と唇を合わせた。


 「むぐぅっ!?」

 「む、ムギっ!?」

 「中々大胆ですね」

 

 スピカやレギー先輩は驚いた様子だったが、夢那は意外にもそこまで驚いていないようでただ笑っていた。

 一方でムギに深い口づけを交わされている俺は、久々のキスというものに激しい胸の高鳴りを感じていたが──唇が離れる終わりの切なさすらも忘れて、キスを終えて満足そうな表情を浮かべるムギに言った。


 「ムギ。さっきのパーティでドリアンでも食べたのかい?」

 「うん。ネブラドリアン味だよ」

 「ネブラドリアン!?」


 地球で穫れるドリアンよりも匂いが強烈と言われているアイオーン星系原産のネブラドリアン。ネブラドリアンの味自体はカスタードのようにクリーミーなのだが、ムギとキスを交わしたと同時に青春の甘酸っぱさなんて台無しのドリアンの匂いがムワッと鼻腔を抜けていき、思わず吐きそうになった。どうしてくれる。

 なんかせっかくキス出来たのに同時に罰ゲームを食らったような気分だ。混乱する俺を見てムギは満足げに言う。


 「キスの味が甘酸っぱいだなんて幻想だよ、朧。気分はどう?」

 「最高と最悪が拮抗してるね」

 「こんな仕打ちに遭っても拮抗してるんですね」

 「ち、ちなみに朧はどういう味が良いんだ? カマンベールチーズとか?」

 「いや口の中から発酵食品の匂いがするのはヤバいでしょう」


 初めてムギとキスした時はすんごいドキドキしたけど、まぁこういういたずら好きなところがムギらしいと言えばムギらしい。


 「ムギ先輩の兄さんへの愛はよくわかりました。スピカ先輩やレギー先輩も兄さんとキスしたことあるんですか?」

 「ある」

 「ありますね」

 「え、お二人の方から?」


 スピカもレギー先輩もうんと頷いた。まさか二人も口の中に何か仕込んだりしてないよな? 俺がそんな不安にかられていると、夢那が怪訝そうな表情で俺の方を向いた。


 「もしかして、ボクは多くの女性を誑かす兄さんをこの海に沈めたほうが良いんですか?」

 「いやなんでだよ」

 「いいね、これ以上被害が広がらないように沈めよう」

 「なんでムギも乗り気なの?」

 「重しをつけて見つかりにくいようにするか」

 「完全犯罪にしようとしないでくださいよレギー先輩」

 「むしろ私達の管理下におけるように密室を用意すれば良いのでは?」

 「なんでそんな怖いことを平然と言えるのスピカちゃん?」


 でもわかってくれ夢那、俺もハーレムを作りたくて作ったわけじゃない。自分が少しでも長生きできるように三人のイベントを必死で回収してたら自然にこうなってただけなんだ。むしろ少しぐらいご褒美だってほしいよ俺も。


 

 「ボクも兄さんから色々と話を聞いて変な人に惑わされているんじゃないかと心配だったんですけど、先輩方が変な人じゃなくて安心しました。これからも兄さんが色々とご迷惑をおかけするかもしれませんがよろしくお願いします」

 

 夢那はそう言ってスピカ達にペコリと頭を下げた。

 いや夢那、しれっと俺を海に沈めようとしたり監禁しようとしたりした連中は変人にカウントされないのか? 少なくとも口の中にドリアンの匂いが充満しているときにキスする奴は変人だと俺は思うんだが?


 「朧の妹ってことは、つまり私達の妹と言っても差し支えないからね」

 「これからも朧さんのお家に遊びに行っても良いですか?」

 「はい。ボクも空気を読んで用事を作るので先輩方でお楽しみください」

 「いや読まなくてもいいんだよ夢那」

 「全員で風呂に入って背中の洗いっこやろうぜ」

 「流石に五人は入らないですよ?」


 ともかく夢那がスピカ達のことを受け入れてくれたようで良かった。なんか若干ヤンデレブラコンみも感じたけど、俺が悪い女に捕まっていないか不安なだけだったようだ。


 夢那によるスピカ達の品定めが終わると三人は帰宅したが、俺と夢那は海岸に残って満天の星空を眺めていた。


 「兄さんって意外とモテるんだね。先輩達と一体何があったの?」

 「まぁ色々としか言えないけど、あんなに好かれると僕も戸惑っちゃうね」


 確かにスピカ達のことも大切に思っているが、今はネブスペ2第二部のヒロイン達のイベントも注視しなければならない。目の前にいる夢那のことも含めて、だ。

 第一部のヒロインであるスピカ、ムギ、レギー先輩ルートでは複雑な過去を抱えていてそれに関連するトラブルを解決していくというシナリオだったが、第二部では主人公であるアルタを中心とした愛憎劇が描かれており、ヒロイン達個人が抱えるトラブルも解決しなければならないが、他のヒロインとの間に発生するギクシャクした人間関係の修復というような側面が強い。


 「でも先輩達が良い人そうで良かったよ。兄さんは誰が一番好きなの?」

 「随分と難しい質問だね。誰かを選ばないととは思ってるんだけど……」

 「ははーん、兄さんったら迷ってるんだね。確かに兄さんには勿体ないぐらいの優良物件だもんね」

 

 むしろ個人的な事情で年内は今ぐらいの中途半端な関係を続けていたいとも考えている。いい加減誠意を見せたいという気持ちもあるのだが、最近の俺は死にかけてばかりだしネブスペ2原作で烏夜朧が死んでしまうイベントが起きる十二月二十四日、その日が命日になる可能性も高まってきた。

 こんなにこの世界のシナリオは原作から変わっているのに、ますます俺は死へと近づいているらしい。


 「ちなみにさ、兄さんはボクに恋人が出来たらどうする?」

 「いや、祝福すると思うけど」

 「どんな人が相手でも?」

 「夢那なら変な人は選ばないって、僕は信頼しているよ」


 大星やアルタ、一番先輩達ネブスペ2の主人公勢なら全然嬉しいぐらいだし、ノザクロの先輩であるレオさんならギリセーフ。もし夢那が恋人としてマスターとか連れてきたらちょっと頭を抱えるかもしれないが、夢那の決断には極力寄り添ってあげたい。

 夢那は俺の答えを聞くと嬉しそうに笑い、俺の隣から正面へと移動すると俺の方を見ながら言った。


 「ねぇ、兄さん。どうしてお星様は輝いてると思う?」


 それは、ネブスペ2のヒロイン達が主人公に投げかける問い。

 そして夢那の答えを俺は知っている。


 「それはこの時間を、この思い出を特別なものにするためだと思うよ。

  ボクは父さんと母さんを失くしてしまったけど、どんな経緯であれ今のボクはこうして兄さん達と過ごせる時間が、とても幸せなんだ。今みたいに一緒に星空を眺めているだけでも」


 南の空には、ペガススの大四辺形を中心としてアンドロメダ座やカシオペヤ座などがよく見えた。月ノ宮は不思議と綺麗に星空を見ることが出来るが、そういった星座以外にも宇宙には無数の星達が光り輝いている。


 「もしかしたら、この星空のどこかで夢那のご両親も光ってるかもしれないね」

 「いや流石に死んでもお星様にはならないと思うよ」

 「そこ現実的なの!?」

 「ふふ、冗談だよ。月ノ宮に住んでる兄さん達にとっては見慣れた夜空かもしれないけど、この空もボクにとっては特別なんだ。都心だと殆ど星が見えないってのもあるけど、昔兄さん達と一緒に見た夜空と変わらないんだよ、今のこの空も」


 すると夢那は照れくさくなったのか恥ずかしそうに笑うと、急に靴を脱いで海の中に足を踏み入れた。そして、未だに松葉杖をついていて身動きをとるのが難しい俺に向かって海水をバシャバシャとかけ始めた!


 「ちょっ、ちょっと夢那!? 急にどしたの!?」

 「なんか寂しい空気になっちゃったから、久々に海で遊ぼうと思って!」

 「僕、足にギプス巻いてるんだけど!? 濡れちゃいけないんだよこれ!」

 「えいっ、えーいっ!」

 「こ、こらっ、夢那ぁ!」


 俺に対して容赦なく海水をかけてくる夢那に対し、俺も負けじと右足のギプスなんて気にせずに海の中へと足を踏み入れて夢那に海水をかける。しかしやはり夢那の攻撃の方が強い!


 「あはっ、あははっ」

 「こんにゃろー!」


 その後も星灯の下で、俺と夢那は気が済むまで海岸で水遊びをしていた。

 後々になってびしょびしょになった服やギプスに気づいて我に返るかもしれないが、こんなバカみたいな出来事もきっと、夢那にとって輝かしい思い出になるだろう──。



 少しでも面白い、続きが読みたいと思ってくださった方は是非ブックマークや評価で応援して頂けると、とても嬉しいです!

 何卒、よろしくお願いします!

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