十六夜夢那編⑫ やんないじゃない
さて、夕方からは美空と大星達が住んでいるペンション『それい湯』にて帚木大星のn回目の誕生日パーティである。
その誕生日パーティだが、主役である大星よりも注目を集める人物が一人。
「ええええええええええええええええええええええええっ!?」
大星、美空、晴、美月、スピカ、ムギ、レギー先輩達参加者全員が目玉が飛び出そうなほど驚愕していた。皆の視線の先では、俺の妹である夢那が頭をかきながら照れくさそうに笑っていた。
「朧っちに妹いたの!?」
「全然似てないじゃん!?」
「まさか夢那さんが朧さんの妹だったなんて……」
朧に生き別れの妹がいたという衝撃と、夢那みたいな可愛い子が朧の妹という二重の衝撃が全員に襲いかかったことだろう。俺も前世でネブスペ2をプレイしてた時にちょっと驚いたけど、恋愛ゲームに出てくる友人ポジの奴の姉とか妹が攻略キャラになっているのってあまり珍しくないからな(某と◯メモとかメ◯オフとか)。
「何かあったらオレ達を頼るんだぞ~オレも朧には大分世話になったからな」
「よろしくお願いします、レギュラス先輩」
「ちなみにこの人、朧の彼女だから」
「え、そうなんですか?」
「む、ムギッ! まだオレ達は正式に付き合ってはないだろっ!」
いや正式ではないけれど彼女(仮)でも無いんですよレギー先輩。もうスピカもムギもレギー先輩も俺への好意を全然隠さなくなってきたけど、これどういう状態? 俺も忙しくて三人にあまり時間を割けてないから一方的に愛を注がれてるだけなんだけどこれ。
とまぁムギはレギー先輩をいじるように言ったが、レギー先輩の反応を見た夢那は色々と察しただろう。夢那は笑顔のままレギー先輩に向かって言う。
「先輩は兄さんのどんなところを好きになったんですか?」
「えっ、そ、それはだな……」
「詳しく説明してくださいますか?」
夢那はレギー先輩にズイッと迫り、笑顔を浮かべながらレギー先輩の返答を待っている。レギー先輩は夢那の圧の強さに戸惑ってアワアワしていた。
あれ? なんか様子がおかしいぞ。
「ゆ、夢那……?」
「もしかして朧の妹、朧に対して激重感情持ってる?」
「いえいえ。ボクもやはり一人の人間を愛するための覚悟というものを後学のために聞いておきたかったので」
あ、これもしかして兄と離れ離れになった数年間もの歳月が夢那に歪んだ感情を育んでしまったやつですか? フィクションの世界で見る分にはいいけど、もしかして夢那ってヤンデレブラコンの素質ある?
俺がそんな夢那に怯えていると、そんな彼女に負けじとスピカとムギが口を開く。
「良いでしょう、夢那さん。私も朧さんを愛する一人の人間として一緒に語り合いましょう」
「よし、今夜は寝かさないよ。勿論レギー先輩も」
「わかりました。三人まとめてかかってきてください」
いや夢那のセリフ、完全にボスじゃねぇか。しかも朝まで語り合うつもりかよ。
「こ、こわ……」
ほら、夢那達のあまりの圧に大星の妹である晴がまるで子猫みたいに怯えてんじゃねぇか。第一部の美空ルートだと晴だって中々の独占欲を見せてくるのに、ちょっとベクトルが違うよな。俺もこんなことになるとは思ってなかったけど。
黒髪のおさげを揺らしてガタガタと体を震わせる晴の体を美空の妹の美月が支えながら、割と彼女は平気そうに口を開いた。
「朧さん、夢那さんに愛されてるんですね。長い間離れ離れだったのに、こうして大切に思い合うことが出来るのは凄いと思います」
「僕も意外だったけどね」
「ドスケベお兄さんの妹ってことは、あの人はドスケベお姉さんってこと……?」
「いや僕がドスケベって呼ばれるのは良いけど、夢那はドスケベじゃないから」
いや俺がドスケベって呼ばれるのもおかしい話だけど。
ともかく皆が夢那を明るく迎え入れてくれてよかった。なんか夢那が原作でアルタに向けていた独占欲が何故か俺に向かってきている気がするけど、今後大丈夫かなこれ。
夢那の紹介を軽く済ませた後、本日の主役である大星はとんがった帽子だの鼻メガネだのタスキだのあらゆるパーティグッズを美空や晴達にデコレーションされ、部屋の真ん中に置かれた椅子に座らされていた。
テーブルの上にはペンション『それい湯』の管理人であり美空の両親でもある美雪さんと霧人さんによる豪勢な料理が用意されている。毎度ご馳走食ってるなこいつら。
そんなご馳走をいただきながら、主役である大星に誕生日プレゼントが贈られる。
「誕生日おめでとう、大星。僕からのプレゼントだよ」
俺が大星のために用意したプレゼントはスマートなデザインのボールペンだ。
「お前にしては随分と普通だな」
「僕だって実用性ぐらい気にするよ。このボールペン、僕も使ってるんだけど結構書き心地が良いんだ。試しに何か書いてみてよ」
俺がボールペンとメモ用紙を渡すと、大星は早速ボールペンを握って芯を出そうとしたのだが──。
「アオオオオオオッ!?」
大星に襲ったのは電流だ。そう、芯を出そうとすると激しい電流が流れるビリビリグッズである。
「なんか古典的なドッキリをすることもあるんだね、朧っち」
「効果は絶大だね」
「お前が普通のものをプレゼントするわけがなかったんだ……!」
「あ、ちなみに本当のプレゼントはこっちだから」
俺はちゃんとしたプレゼントとして大星に男性用化粧水を渡した。
「ほら、月学OGのコガネさんっているでしょ? あの人がプロデュースした化粧品に男性用のもあってね。本人から押し売りしろって頼まれたから」
「へー、そういうのもあるんだな」
そして大星は何も疑わずに化粧水をシュッとかけようとしたのだが──。
「アオオオオオオッ!?」
またしても大星に電流が襲う。二番煎じである。
「大星さんって結構純粋なんですね……」
「結構は余計だ……」
「ちなみにガムもあるけど」
「絶対食わねぇよ!」
なお俺はちゃんとした誕プレとして大星が好きなロックバンドのグッズをあげた。ただのトートバッグでどこにも仕掛けはないのに大星はビリビリグッズなのではとビビリまくっていた。
「これ、オレからのプレゼントだ」
レギー先輩が大星にプレゼントしたのは映画のBDだ。タイトルは『バババ馬券師』。なんかどっかで聞いたことのある響きでパッケージもどこか見覚えのあるデザインだが、
「これどういう映画なんすか?」
「これは妹の病気の治療費を稼ぐために競馬に命をかけた男の話でな……」
「いやギャンブルで稼ぐの?」
「しかしある日競馬場で出会った一人の女馬券師に一目惚れしてしまい、男の運命は大きく変わっていくんだ。同じ監督が作った『パパパパチプロ』も中々面白いぞ」
「なんで全部ギャンブルなんです?」
レギー先輩の映画のチョイスどうなってるんだ。今度感想聞いてみよ。
「大星さん。これが私からのプレゼントです」
スピカが大星に渡したのは真っ赤なドライフラワーだ。
「これは大星さんの誕生花であるサルビアのドライフラワーです。サルビアの花言葉は『知恵』や『家族愛』です。是非美空さんと幸せな家庭を築いてくださいね」
「いや気が早くないか?」
「大星と美空は月学を卒業したら結婚するんじゃないの?」
「いや俺も初耳なんだが? どっから流れてきたそんな情報」
「新聞部が前に出してた記事にそんなのあったね」
「学校新聞に載ってんの!?」
だって月学だと大星と美空が付き合ってるの殆どの生徒が知ってるからな。可哀想だが月学の学校新聞ってエンタメ極振りだから。
「大星、これが私からのプレゼントだよ」
そしてムギが大星に渡したのは、なんと薄さ0.01ミリの──。
「ふんっ!」
ムギからそのプレゼントを渡された大星は、プレゼントを掴んだ瞬間に晴や美月達に見えないように隠した。
うん、あれは完全にコ◯ドームでしたな。誕プレで渡すもんじゃないわ絶対。
「ムギちゃん、中々攻めたね」
「結構使ってんのかなぁと思って」
「ちょっと薄すぎないかなぁ」
「やめろ、生々しい話をするんじゃないお前達」
なお、ちゃんとした誕プレとしてムギは大星に彼の肖像画をあげていた。今もムギが毎日絵を描いてくれていることは嬉しいのだが、なんか肖像画の股間部によくわからんものがそそり立ってる気がする。あれってなんかのメタファーなのかな。
「ねぇ、兄さん達っていつもこんな感じなの?」
「そうだね。こんな感じでバカやってるよ」
「ふふ、なんだか面白いね」
同級生にコ◯ドームをプレゼントする奴を見てよく笑えるな、夢那。流石の俺でも思いつかないし思いついたとしてもやらん。まぁ彼女が楽しんでくれたのなら俺も連れてきた甲斐がある。
「でも昔は、もっと盛り上がってたんだよ」
「朽野先輩がいたから?」
「うん。今よりも何倍にも盛り上がるからね……」
ゲストとしてパーティに来ている身として今でも十分楽しいが、やはり乙女のことが恋しくなる時がある。
しかしそんな水を差すようなことを言うわけにもいかないため、その後は美空の両親である美雪さんや霧人さんも加わって大量のご馳走を頂いていた。
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