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十六夜夢那編⑪ もしかして俺の妹、ヒロインじゃないってこと?



 十月四日、日曜日。

 今日はネブスペ2第一部の主人公である帚木大星の誕生日である。はて、彼は何歳になったのだろうね。


 そんな大星の誕生日を盛大に祝うため彼が居候しているペンション『それい湯』で誕生日パーティが開催される予定だ。夢那の両親が最近亡くなったばかりでお祝いごとには参加しづらい部分もあるが、ぶっちゃけ知り合いに忌引きとかを気にする面子もいないため普通に参加することにした。たまには第二部のヒロイン達のことなんて忘れて友人達とワイワイしたい気分の時もある。


 パーティが開催される夕方まで時間の余裕があるため、俺は自分の部屋の机に向かってあるものを眺めていた。


 『この手紙を最初に誰が読むのかわからないけれど、私は朧だと信じてる』


 それは、ローズダイヤモンドが咲いていた花壇に残されていた乙女の手紙だ。前世の記憶を失っていた夏休みの間に俺は偶然この手紙を読むことになり、そして家に持ち帰って禁断のバイブルの間に挟んでいた。


 「なんかあったっけな、あの場所って」


 乙女は朧が、つまり俺がこの手紙を最初に見つけると期待していたようだが、俺と乙女があの花壇にゆかりがあっただろうか? 俺の中に残る烏夜朧としての思い出の中にも残っていないし、勿論ネブスペ2でもそんな描写はない。



 俺は改めて、前世でネブスペ2を完全攻略した俺の攻略チャートを読む。第一部も色々と展開は狂ってしまったが、第二部はそれとは比べ物にならないぐらい物語の歯車が狂ってしまっている。もうこの禁断のバイブルも役に立たないぐらいだ。


 アルタは原作にはないキルケルートを進んでいるだろうし、そして俺はカペラとワキアのバッドエンドを迎える寸前だった。順当に行くとおそらくルナのバッドエンド、そして今は疎遠になってしまったベガのバッドエンドを迎える可能性も大いにある。

 ワキアは大分俺に懐いていくれているが、俺かアルタのどちらかを選べと言われたらアルタを選ぶはずだ。元々彼と親交のあったベガやルナもそうだろう。夢那はわからんが付き合うとなったら別の話だろう。


 「夢那ってアルタのこと好きなのかな……」


 同じノザクロで一緒に働いていたキルケがアルタのことを好きになったなら夢那も十分その可能性があるし、ネブスペ2原作でも夢那がアルタを好きになるきっかけはそれだった。

 兄としては妹の恋を応援したい気持ちはあるが、かといってキルケの恋を邪魔したいわけではない。前世の記憶を失っていたとはいえ俺もキルケの背中を押してしまっているし。最終的にはアルタが決めることだが、アルタとキルケが付き合い始めたと知ったヒロイン達の反応がどんなものなのか俺は恐れている──。


 「どうしてボクの好きな人がアルタ君だと思ってるの?」

 「どわーい!?」


 背後から突然声をかけられた俺は、慌てて机の上に開いていた禁断のバイブルを閉じて後ろを振り返った。


 「ゆ、夢那!? どうして僕の部屋に!?」

 「だって一人でブツブツ言ってたから、何か悩んでるのかなぁって思っただけだよ」

 「ノックぐらいして!」

 「ボクはちゃんとノックしたけど、兄さんがうんともすんとも言わなかったんだもん」


 俺は失念していた。

 ここは望さんの家だったが、家主である望さんは滅多に帰ってこないため家には俺しかいないことが多かった。だが今後は夢那と一緒に生活することになるのだ。

 夢那は手を後ろに組んで俺のことを笑顔で覗き込んでいたが、俺は禁断のバイブルを隠しながら弁明する。


 「いやぁ、ちょっと考え事をしていただけだよ。ほら、夢那って結構モテそうだからさ。変な男が寄ってこないか不安でね」

 「ボク、誰とも付き合ったこと無いよ?」

 「それはそれで意外なんだけど。どういう人が好みなの?」

 「なーいしょ」


 夢那はそう言って小悪魔のようにフフフと笑った。

 いや俺は知ってるんだぞ、夢那。お前中性的な見た目で頼りがいもあるけどマゾ気質な奴が好きだろ。それまんまアルタに当てはまるんだぞ。

 まぁそれを知っているのは前世でネブスペ2をプレイしたからであるため、俺は夢那の好きなタイプなんて知らない振りをしておく。


 「ちなみに夢那、アルタ君とかどう? 彼ってああ見えて結構情熱とか持ってるし僕目線でも結構良い奴だと思うけど」

 「う~ん。でもアルタ君ってメチャクチャモテてるじゃん? だってベガちゃんやワキアちゃんみたいな幼馴染がいてさ、あとルナちゃんとかキルケちゃんとか、たくさん女の子抱えてるでしょ? ボクは夏休みにちょっとだけ知り合ったぐらいだし、そこに割って入るのは難しいかなぁって」

 

 第一部の大星もそうだが、アルタも中々ハーレム系主人公極めてるからな。ハーレムなんてクソ羨ましいとか思ってたし、俺も普通に主人公側に転生してたら素直に浮かれていただろうしそれはもう欲望の赴くままに好き勝手やっていただろう。

 何なら俺としては大星やアルタ達にはハーレムルートに進んでほしいぐらいなのだが、ネブスペ2で唯一のハーレムルートであるトゥルーエンドはフラグが折れてるからなぁ……。


 「それにさ、前にキルケちゃんから相談受けたんだ。アルタ君ともっと仲良くなりたいって。だから助言してみたんだけど、林間学校で上手く行ったのかなぁ」

 「え、キルケちゃんから相談されてたの?」

 「うん。でもボクも恋愛なんてフィクションの世界でしか知らないから、役に立ったのかわかんないね」


 ……え? 夢那ってキルケがアルタのこと好きなの知ってたっけ?


 ──次に夢那さんに相談してみたんです。


 あ、そういや言ってたわ。キルケ、夢那に相談してんだった。俺が記憶取り戻す直前でドタバタしてたしすっかり忘れてた。


 ──そしたら『わざと二人で山の中で遭難して、風雨を凌ぐために逃れた洞窟の中で暖を取るために体を密着させて過ごしたらいけるっしょ』と言われたんですけど……。


 いや今思うと夢那の助言中々ぶっ飛んでんな。ていうかこれ、夢那ルートで実際に起きるイベントじゃん。

 

 ネブスペ2第二部におけるターニングポイント、林間学校。第一部で乙女が転校したように、ここで共通ルートから各ヒロインの個別ルートへと切り替わるのだが、林間学校中にアルタがどのヒロインとのイベントをきっかけに記憶を思い出すかでどのルートに入ったかがわかるようになっている。

 同じ月学に通うベガやルナなら林間学校の宿泊先で、病院に入院中のワキアとは病室で、そして別の学校に通っている夢那とは、林間学校先で偶然再会を果たすことになる。


 確か夢那は何かの用事で家族と一緒にアルタ達の林間学校先を訪れていて、夢那はアルタと一緒に二人で自然豊かな山の中で遊ぶのだがなんと遭難してしまう。やがて雨が降り始め、雨を凌いで洞窟の中で一緒に身を寄せ合う中、夢那は月ノ宮でとある男の子と出会った思い出話を語り始める。

 実はそれが幼少期のアルタで、それをきっかけにアルタは記憶を取り戻すのだが……無事救出された後、夢那は事故に遭い両親を失う、というのが原作での流れだ。


 「兄さんはキルケちゃんから何か聞いてないの?」

 「いやぁ、初耳だよ。キルケちゃんが林間学校で遭難したことしか知らないよ」

 「何それウケる」

 「いや人が遭難してるのに笑ってんじゃないよ」

 「だってキルケちゃん、綺麗な蝶々とかを見かけたらそれに夢中になって山の中で遭難してそうだもん」

 

 やっぱ皆キルケに対してそんなポンコツな印象持ってるのか? いや笑い話で済んで良かったよホント。


 「実際ね、キルケちゃんは綺麗な蝶々に夢中になって皆とはぐれちゃったんだけど、岩陰で泣いてたところをアルタ君に助けられたんだって」

 「あ、ホントに遭難してたんだ。そんなのあったらキルケちゃん、ますますアルタ君に惚れてそうだね。何かアルタ君が颯爽と現れるの簡単に想像できるよ」

 「あとアルタ君はフォークダンスがメチャクチャ下手だったらしい」

 「ロケットとか作れるのに変なところで不器用なんだね、彼……」


 ていうか夢那の話を聞く限り、この世界線だと林間学校先でアルタと夢那は出会っていないのか。作中でも夢那ルートのフラグが折れてたら夏休みが終わった後は全然出てこなくなるし、その時点で夢那ルートは存在しないという扱いなのだろうか?

 え、じゃあ夢那バッドエンドもないって思って良い? でも夢那本人に「バッドエンド迎えるつもりある?」みたいなトチ狂ったことを聞くわけにはいかないしなぁ。


 自分の妹でありながら、前世の俺がプレイしたエロゲのヒロインの一人である夢那を目の前にして夢那ルートの流れを考えていた時、ふと疑問に思ったことがあった。


 「そういえば、夢那って昔アルタ君と出会ったことないの?」

 「へ? ボクが? さぁ、多分一緒の学校じゃなかったと思うけど、アルタ君がそんな話でもしてたの?」

 「あぁいや、昔の夢那の知り合いに似た子がいたような気がしただけだよ」


 夢那は兄である俺に会うために月ノ宮に戻ってきたという風に話していたが、ネブスペ2原作だと昔一緒に遊んだことのあるアルタを自分に金イルカのペンダントをプレゼントしてくれた人だと信じて探しに来ていたはずだ。

 なのに夢那がその記憶すら持っていないってことは、もしかして夢那ルートそのものの存在が消えてる?


 え……なんで? なんで俺がサポートとかする前に夢那ルートのフラグが俺が転生したことを思い出す時点より前の段階で折れてるの?

 しかしイレギュラーなイベントも結構起きてるから、俺の考え過ぎだろうか……こりゃマジで夢那の代わりにキルケがヒロインになった説もあるな。

 


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― 新着の感想 ―
[一言] そういえば朧兄妹は2人とも一人称ぼくなんだなぁ… 何気に兄妹揃ってぼくっ子はレア 前世持ち朧君はモノローグでは俺ですが……
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