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十六夜夢那編⑨ ウェルカムホーム



 ワキアにはこの後退院祝いをするためノザクロまで来て欲しいと伝えて、俺は琴ヶ岡家の車に乗っけてもらって帰宅した。

 するとリビングでは、部屋着姿の夢那が自分の荷物の荷解きもせずにソファで項垂れていた。


 「ただいま夢那。いやおかえりと言うべきかな?」

 「ただいま、おかえり兄さん……望さんの部屋、ヤバすぎ……」


 俺と同じように望さんの家に住まわせてもらうことになった夢那は、他に空室もないため家主である望さんの部屋を使うことになったのだが、あのとっ散らかった部屋を片付けるのに苦心しているようだ。


 「兄さん、今までずっとこんなことやってたの?」

 「一応、ある程度は片付けてたよ。途中で諦めるけど」

 「ボクの部屋、いつになったら住めるようになるの……」


 夢那は最低限の私物だけ取り出したという状態で、こりゃ片付けと荷解きが終わるのは結構先になってしまいそうだ。俺も退院したとはいえ足にギプスをつけたままだからあまり力になれない。

 夢那は月ノ宮に戻ってきて早々、望さんの部屋の惨状を見てすっかり疲れてしまった様子だが、これから起きるイベントで主役になってもらわないといけない。


 「夢那、この後ノザクロでワキアちゃんの退院祝いでちょっとしたパーティをする予定なんだ」

 「おっ、そこでボクがサプライズゲストとして颯爽と登場するってわけだね? 誰が来るの?」

 「ワキアちゃんにキルケちゃん、ルナちゃん、カペラちゃんとマスターやレオさんかな」

 「あれ? ベガちゃんやアルタ君は?」

 「あぁ、アルタ君は他のバイトが入ってて、ベガちゃんはヴァイオリンのレッスンがあるらしいんだ」

 「そうなんだぁ……皆で集まりたかったけど、学校でまた会えるし良いよね」


 アルタはノザクロだけでなく他にもいくつかバイトをかけもちしているし、ベガはワキアが誘っても断られてしまった。

 勿論、夢那が参加することは全員に伏せてある。ワキアだけは夢那が月ノ宮に戻ってきていることは知っているが、この後の退院祝いにサプライズ登場することは伝えていない。


 

 夕方になるまで部屋の片付けや荷解きを手伝った後、俺は夢那と一緒にノザクロへと向かった。夏休みにバイトしていた時は自転車で通っていたから割と近場だと思っていたが、松葉杖というのもあるからなんだかすげぇ遠く感じるぜ。


 ゼェゼェ言いながらノザクロの近くまで到着すると、夢那には他の参加者にバレないようにお店の裏に隠れてもらい、ノザクロの営業が終わったタイミングで俺はお店にお邪魔した。


 「こんちわー」

 「お、ボローボーイじゃないか!」


 出迎えてくれたのはノザクロのマスターであるシリウス・トシキ。ノザクロのマスターをやる前の経歴が謎で、なんか美空の父親の霧人さんと見た目のインパクトが被ってんだよなこの人。体格も負けてないし、日焼け具合はこっちが勝ってる。

 

 「トゥディはボローボーイ達のハーピーなセレブレイションだから、ミー達もファイトしていつでもパーリィーもレディゴーだよ!」


 な、なんて?

 そういや喋り方の癖が強かったなぁこの人なんて思いながら俺が愛想笑いしていると、店の奥から黒髪ツーブロックの若い男性が出てきた。


 「久しぶりだな、カラス。お前いつも事故ってんな」

 「いや、僕だって好きで事故ってるわけじゃないですし被害者側ですからね?」

 

 このノザクロに勤務して長いレオさんことレオナルド……じゃなかった、白鳥アルビレオ。ネブスペ2第二部ヒロインの白鳥アルダナの兄であり、そして前作の初代ネブスペの主人公の友人ポジにいた人だ。

 つまり前作の烏夜朧みたいなキャラである。


 「レオさんって彼女出来ました?」

 「お前記憶戻って早々それか? いい加減誰か紹介してくれよ」

 「すいません、先に僕が射止めちゃうんで☆」

 「コノヤロー!」


 ぶっちゃけレオさんに紹介できるほど知り合いに女の子いないっていうか、確かレオさんの好みのタイプって気が強そうな人だったっけ。前作でアクアたそとかにボコボコにされてたような記憶もあるが、それこそ前にノザクロに遊びに来たロザリア先輩あたりが丁度良いんじゃねぇかな。俺がロザリア先輩にレオさんを紹介したら俺がぶっ飛ばされそうな気がするけど。


 その後ワキアを始めとした参加者達が続々と集まってきて、閉店後のノザクロにワキア、ルナ、キルケ、カペラ、マスター、レオさん、そして俺の七人が集結してワキアの退院祝いが始まった。


 

 「んまーい」


 主役のワキアはテーブルに盛られたノザクロ自慢のスイーツ達を美味しそうに頬張っていく。


 「ワキアさんの病気が治ったって本当なんですか?」

 「まだ完治したかどうかはわからないけど、なんだか前より体が軽いんだ~」

 「た、確かにワキアちゃんの血色も良くなったように見えるね」

 「ならワキアちゃんが本当に健康体になったか、是非カメラに収めましょうよ! ぐへへ」

 「いやぐへへ言ってる奴がいるんだけど」


 あのトンチンカンな薬を飲んでからワキアは一度も発作を起こしていないし、前よりも更に笑顔が増えたような気がする。まだ本当に治ったか油断は出来ないが、笑顔でケーキをパクパクと平らげていくワキアの姿を見ているととても病人とは思えなかった。


 「ちなみに朧パイセンの足の調子はいかがなんですか? 骨は繋がりました?」

 「一応繋がってるらしいけど、完治まではあと一ヶ月ぐらいはかかるかなぁって感じだね」

 「こりゃーカペちゃんが責任をとって烏夜先輩の右足代わりになるしかないね」

 「で、では烏夜先輩っ。私を右足にくくりつけてください!」

 「それどういう状況なの?」


 俺が事故から庇ってしまったことによってカペラは多少の責任を感じちゃってみるみたいだが、ワキアがそこら辺を軽く流してくれて助かる。運動が出来るようになるのはまだまだ先だろうが、俺は治る見込みがあるのに対し、カペラの右足が不自由なのは治らないらしいからな……。

 

 「ボローボーイ、試作メニューがあるんだけど食べてみない?」

 「あ、食べます食べます」


 そしてマスターが出したのはなんとたこ焼きだ。まぁまぁサイズの大きい六個セットのたこ焼きの上で鰹節も踊っていて中々美味しそうだ。早速爪楊枝を刺して一個を口の中に放り込む。


 「あぁっつ!」


 焼き立てだからかなり熱々だったが、口の中で段々冷めてきてようやくその味を感じた時──俺の口の中に強烈な刺激が襲いかかる!


 「あおおおおおおおおおおおおおおっ!?」

 「か、烏夜せんぱーい!?」


 和やかな雰囲気でパーティが進んでいた中、俺が突然大きな悲鳴を上げたことによって一堂騒然となっていた。

 俺を襲う強烈な刺激に悶え苦しみキルケ達が俺を心配する中、マスターは一人ガハハと笑っていた。


 「それはロシアンたこ焼きだよ! 一つだけハバネロがインしてるけど、ボローボーイは見事それをチョイスしたというわけだね!」


 成程、俺の口を襲ったこの強烈な刺激の正体はハバネロか。


 「確かにこういうのがあったら友達同士で楽しめそうですね」

 「キルケ、よく今の僕を見てそんなことが言えたね」

 「じゃあ残りは私達で食べよ~」


 まぁキルケが言う通り、こういうのは友達で集まってやると盛り上がるだろう。今度ノザクロでバイトする機会があったらウキウキで作ってやるぜ。

 未だヒリヒリする口の中を冷水で落ち着かせていると、ワイワイとしているワキア達に対してマスターとレオさんは少ししょげた様子だった。


 「二人共、どうかされたんですか?」

 「あぁいや、夢那って辛いものが好きだっただろ? だから激辛メニューでも増やそうかって話になって思いついたのがこれだったんだ」

 「彼女にも食べさせてあげたかったね……」


 このお店で一番辛いジャイアントインパクト担々麺を完食してたからなあいつは。

 マスターとレオさんの発言で場の空気は少し暗くなってしまったが、図らずとも良いバトンが回ってきたぞ。

 俺は手をパンパンと叩いて、皆に注目してもらう。


 「皆、今日はワキアちゃんの退院祝いってことで集まってもらったけれど、実はゲストを呼んでるんだ。ちなみにワキアちゃんは誰だと思う?」

 「えっ、石油王とか?」

 「ハードルを上げすぎでは?」

 「じゃ、じゃあルナちゃんは誰だと思う?」

 「じゃあそこら辺を通りがかった人ですかね」

 「ハードルを下げすぎでは?」

 「カペラちゃんは?」

 「陸上選手?」

 「それは本当にハードルを越える人ですよ」


 全員でボケ倒すのやめろ。でも皆の様子を見るに俺が誰を呼んだのかあまり想像がついていないようだ。


 「キルケちゃんは誰だと思う?」

 「そうですね……えっと、ウサイン・ボ◯トですかね」

 「いや無理にボケなくて良いんだよキルケちゃん。ちなみにキルケちゃんが今、一番会いたい人は?」

 「へ? 私は……夢那さんにお会いしたいです。今でも連絡は取ってますけど、やっぱり一緒に遊んだりしたいですね……」


 と、ここでレオさんは察しがついたのか「お前マジ?」という驚いた表情で俺のことを見ていた。

 夢那、お前本当に良い友人を持ったな。


 「じゃあ出てきてもらおうじゃないか! さぁ、ゲストの登場だよ!」


 俺はその掛け声と同時にスタッフルームへ繋がる扉を開いた。ここから夢那がジャジャーンと登場する予定だったのだが──。



 「イェーイ! ボクと契約して魔法少女にならない?」


 出てきたのは、星型のサングラスをかけてアフロのカツラを被った変人だった。

 あれ? 俺が呼んだゲスト、別人だったか?


 「だ、誰だ……?」

 「誰……?」

 「本当にそこら辺を通りがかった人……?」


 いやこんなのがそこら辺を歩いてたら怖いだろ。

 と、流石にこの雰囲気はまずいと感じ取ったのか、ゲストはグラサンとカツラを取ってようやくその正体を現した。


 「やぁ、皆久しぶり! ボク、月ノ宮に帰ってきたよ!」


 かつてこのノザクロで働いていた夢那の登場に、目を見開いたり口を大きく開けたりと各々が多種多様な驚き方をする中で──夢那に真っ先に抱きついた人物がいた。


 「ぶえべばばばぁ~ん!」


 いやキルケ、泣きすぎて何言ってるか全然わかんねぇ。

 


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