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エロゲ世界に転生したので、最推しの攻略不可能キャラをヒロインにしてみせる!~前世の記憶を頼りに、襲いかかる数多のバッドエンドを乗り越えろ~  作者: 紐育静
第一部 帚木大星編『私の願いが叶いますように』

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攻略フラグの喪失



 喫茶店で食事を終えた後、そのまま俺達は解散した。ネブスペ2を何周も周回した俺は、それぞれのキャラが住んでいる家の場所もほぼ正確に記憶している。


 大星と美空は喫茶店から近い海岸通りに建つペンションへ。スピカとムギは月ノ宮町西部にある月見山の麓の別荘地へ。そして俺とレギー先輩は、月ノ宮町の中心市街地である駅方面へ……つまり俺はレギー先輩と一緒の道で帰れるのだ。


 「あいつがいないと思うと、学校に行くのも憂鬱だな」


 帰り道、市街地方向へ向かう通りを歩きながらレギー先輩が言う。田園が広がる一帯を貫く通りは車通りも人通りも少ないが、街灯に照らされた先輩の儚げな姿に思わず見惚れてしまいそうだ。


 まぁ、そんなレギー先輩と一緒に帰れることを素直に喜べない状況ではあるのだが。


 「もうすぐ期末考査なんで、そろそろ夏休みが補習で潰されることを嘆き始める頃だったんですけどね」

 「そう騒いでる割には一向に成績は上がらなかったよな。お前、ちゃんと乙女に勉強教えてたのか?」

 「あいつ、途中でよだれ垂らしながら寝始めるんで無理ですよ」


 一番のムードメーカーだった乙女を失ったクラスは、明日どんな雰囲気になっているだろうか。烏夜朧も作中では乙女と並ぶムードメーカーだったが、それは乙女という相方がいてこそだった。前世の俺はそんな陽キャじゃなかったから、俺一人で背負うには荷が重すぎる。


 それに……乙女の父親で月ノ宮学園の教師でもある秀畝さんがビッグバン事件の犯人という噂が、まだ真実かもわからないのに広まっているかもしれない。


 「なぁ朧。お前も……その、ご両親を亡くしてるんだろ? 八年前に……」


 レギー先輩は段々と歩調を緩めながら、俺に気を遣うような表情で言った。


 「今となっては昔の話ですよ。それに俺の両親は厳しい人だったんで、あまり良い思い出もありませんし」


 作中やファンブックでも明かされることのなかった設定だったが、烏夜朧に転生して彼の記憶を受け継いだ俺は、烏夜朧の家庭環境を初めて知ることとなった。


 烏夜朧の両親は、それはそれは厳しい人……父親はアル中&ギャンブル狂で、再婚相手の母親は育児放棄して宗教にのめり込み、朧は父親から毎日暴力を受け続け、そして母親の代わりにあらゆる家事をこなさなければならなかった。


 前世の自分がどれだけ恵まれた環境にあったのかを。しみじみと感じさせられる境遇だ。作中で烏夜朧が何かと大人を嫌っていた理由がよくわかる。


 とまぁ、烏夜朧自身は両親を失ったことをそれ程悲しんでいるわけではない。勿論一時的とはいえ身寄りを失ったことが怖くもあったが、最悪の環境から手っ取り早く抜け出せたという側面もある。そんな過去をわざわざレギー先輩達に言うつもりはないが。


 しかし隣を歩くレギー先輩は、心配そうな面持ちで悩んでいる様子だった。


 「オレにはわかるんだよ、大星が無理してるの……あいつなりに頑張って克服しようとしてるんだろうが、かといってオレが何をしてやれるのか……」


 俺と乙女、大星と美空の幼馴染コンビは中学に入って初めて知り合い、レギー先輩とはその頃からの付き合いだ。最初は美空と知り合い、美空とよく一緒にいた大星もレギー先輩と知り合ったと。昔は大星もネブラ人であるレギー先輩にあまり近づかなかったが、今はそんな隔たりは見受けられない。


 だから俺は、悩む先輩の背中を押してやる。


 「レギー先輩のその気持ちだけで大星の奴は喜びますよ。あいつ、あぁ見えて結構ちょろいので。例えば、そうですね……あ、膝枕でもしてやったら大星も癒やされるんじゃないですかね」

 

 別にレギー先輩をからかうつもりはなかったのだが、俺がそう言うとレギー先輩は突然沸騰したかのように顔を紅潮させて、慌てた様子で口を開いた。

 

 「ば、バカッ! ひ、膝枕なんて……お、オレがやらなくても、多分美空がいつもやってるだろ。いや、べ、別に興味が無いわけじゃないけどなっ」


 ……。

 ……可愛いっ。

 は? 可愛いんですけどこの人?


 ボーイッシュな女性が突然乙女チックな素振りでギャップを見せてくるのは反則じゃありませんこと?


 大星、お前絶対レギー先輩のこと幸せにしてやれよ……って、あいつが今、レギー先輩を攻略してるとは限らないんだよな。


 俺はもっとレギー先輩をからかいたい衝動に駆られたが、やり過ぎるとシバかれそうだったから好奇心を抑えた。


 大体、あの喫茶店で別れた後は作中では大星視点、つまりプレイヤー視点では大星と一緒に帰る美空との会話しか描写されていない。だから俺はレギー先輩とどう会話しようか割と困っているのだが……幸いにも烏夜朧としての人格も残っているため、いくらか自然に話せているつもりだ。俺、前世じゃこんなキャラじゃなかったはずなのに。



 中心市街地へと入り、明るい大通りの歩道をレギー先輩と歩く。バスやタクシー、帰宅する人々が多く行き交う月ノ宮駅前まで来れば、そこから俺と先輩の家の方向が違うから別れることとなる。


 「なぁ、朧」


 月ノ宮駅前の待ち合わせスポットである太陽系を模したモニュメント前に到着した時、先輩は足を止めて言った。


 「お前も……辛くなったら、オレを頼ってくれて良いんだからな?」


 ……。

 ……いや、ずるいっすよ、そういうの。


 別に、俺に優しくしてくれなくてもいいのに。そんな優しい笑顔を向けなくてもいいのに。

 

 「レギー先輩も、辛い時は僕を頼ってくださいよ?」

 「バカ言え。お前を頼るぐらいなら学校の理事長像にすがる」

 「あの理事長像以下なんですね、僕は」


 そういうところがあるから、前世の俺は最初にメインヒロインの美空ではなく貴方を攻略したんだ、レギー先輩。


 でも……レギー先輩を幸せに出来るのは烏夜朧ではない。俺の親友であり、この物語の主人公である帚木大星なのだ。


 近くにある月ノ宮駅のホームから発車ベルがここまで聞こえてきて、俺は夕方の出来事を思い出しそうになる。


 今日も駅前は多くの人が行き交い、多くのバスが発着して、多くのタクシーが客待ちをしている。そんないつもと変わらない日常の風景なのにも関わらず──今まで明るく見えていた景色から、一つの星が光を失ったように思えた。


 「朧……」


 俺が別れを告げて去ろうとした時、先輩が先に口を開いた。


 「お前は、本当に辛くないのか?」


 ……。

 ……魔が、差しかけた。


 俺は前世でネブスペ2を遊んだから乙女の転校イベントの前後をよく覚えているが、ここで朧とレギー先輩の会話は描写されていない。何があったのかわからず、ここでは前世の俺の知識が役に立たないのだ。


 今、俺はレギー先輩に甘えることも出来るかもしれない。いつもは朧に冷たく当たっているレギー先輩が、本気で心配してくれているのだ。いつも調子に乗ってレギー先輩を困らせてばかりなのに、レギー先輩は俺以上に辛い思いをしてきたはずなのに……。


 俺はネブスペ2を遊んだ一人のプレイヤーとして、レギー先輩が好きだ。今、そのレギー先輩に近づくチャンスが目の前にある。次に俺が放つ一言で大きく運命が変わってしまう。


 だが……俺は、烏夜朧として貫くことを決めた。


 「……大丈夫ですよ、レギー先輩。僕と乙女は腐れ縁だっただけです」


 俺は烏夜朧だ。レギー先輩のファンではなく、彼女のただの後輩なのだ。


 「別に、僕は乙女のことが好きなわけじゃないので」


 そしてレギー先輩と別れた後、一人家路につく俺は不思議と後悔していなかった。


 自分の選択を。

 攻略フラグが折れたかもしれないというのに。

 帚木大星視点では知ることが出来なかった新しい発見も多くあったかもしれないのに。


 だが、俺は前世の記憶を持っているが故に、この世界の未来を──烏夜朧というキャラに待ち受ける残酷な運命を知ってしまっているのだ。


 烏夜朧の人生は、あと半年も続かないということを。



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