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第7話 嘘の日常

「救助隊を思い出しましたの、荒んでいく私の心を解きほぐしてくれるような素晴らしい救助隊、そこに素晴らしさがあるのではないでしょうか。なんだか私の心は清く浄化されていくように感じていくのよ。このままでいいかしら」


 ふと自分の屋敷で思いふけっていた。


 来る殿下との楽しみな座談会において、備えている。そしてそれを実現した。


 もうあまり嫌なことは考えないようにした。


 感情を抑えれば日常は変わらないのである。


 そのはずである。


 しかし物事は全くうまくいかないのである。

 



「延期ですって? そんなことが許される筈がないでしょうが!」


 私の怒鳴り声が反響した。こんなのはふざけているに決まっている。延期なんて許されていいわけないのである。


 殿下との約束をやっとのことで取り付けた座談会、私はこの時を一週間待ったのです。それがあの憎たらしいエレメナの奴のせいで延期だなんて、冗談じゃないですわ。


「これは直接言うしかありませんわね」


 私は強い衝動に駆られて殿下との座談会を企画していた貴族の屋敷へ抗議しに行ったのだった。


「バンッ、バンッ、バンッ!」


 扉を強くたたく私、最早周囲の配慮など二の次である。


「ごめんくださいます?」


「あなたはミケレ様、どうしてここに」


「どうしてもこうしてもなぜ殿下と私のせっかく取り付けた座談会が中止になったのですか? そんなことが許されていいはずがないでしょうが」


「その件ですか、実を言いますと殿下の方からキャンセルを申し出てきまして」


「は、はあ? 殿下自らですって。そんなことが信じられるわけ」


「いえいえ、殿下曰く急用ができたとか。ちょうど王城のはずれにある、湖のほとりの小さな屋敷で秘匿事項としてとある人物の歌を聞きに行くと伺って……痛っ」


 私は話をすべて聞く前に目の前の貴族の胸倉をつかんだ。


「湖のほとりの屋敷で歌を聞きにいくですって?」


「痛い、痛いですミケレ様」


 感情の制御が効かなくなるほど、手の力を強めるのはとどまるところを知らない。あの女だ。またしてもあの女が私から殿下を奪い去ろうとしたのである。


「許せないエレメナ」


「バッ」


「ミケレ様? どちらへ」


「あなたに言う必要はない」


 私は即座に湖のほとりの屋敷へ自然と足が動いていた。勢いよく貴族の屋敷の扉を閉めるようたたきつけて外へ走りだした。


「殿下、なぜ私にこんなひどいことを」


 殿下の思惑を振り返るごとに、私の足の速さが遅くなっていることに気付いた。内心気づいていたのかもしれない。殿下はもう私のことなんて全く……。




 気づけば私は走るのをやめて、うずくまっていた。




「懐かしいですわね」


 私が今訪れている場所はかつて殿下とデートをした場所である。目の前には学校があり、生徒が上げた輝かしい実績が掲げられていた。


「実績ですか、そんなもの今の結果につながらなければ何も意味はありませんのに」


 といいつつも私は昔実績を最重要視していた。公爵令嬢としての威厳を保つために周囲へ実績を掲げ気を張る毎日、そもそも殿下にふさわしい人間として行っていた行為だったのだから、殿下に見切られた今としてはそんなことはどうでもよいことである。


「とはいえなつかしい響きですわ……」


 どことなく懐かしい心地を感じた私、冷めきった今の私にとって、昔の情熱を見るのはどこかまぶしいものに見えた。


「少し、ほんの少しだけ、どん欲になってもいいかもしれない」


 実績を掲げるのはかっこ悪い斜に構えている私、でもそれはかっこつけているだけなのかもしれない。もっとどん欲に自分がやってきたことを誇り前面に出していってもいいのではないだろうか。


「笑わせてくれますね」


 それから私は奮起してもう一度訪ねてみた。


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