第三話 女
屍人の群れを殲滅し、目的の城郭にたどり着いたユウ。
そこで目にしたものは……。
目指していた城郭に辿り着いた。
屍人の群れとの遭遇から二刻後の事だった。
日の出の時間にはまだ早いにも関わらず、門は開け放たれている。
落胆と諦念を飲み込み、無断で門を通る。当然ながら、それを咎める声は聞こえてこなかった。
緩やかな坂を登っていく。目指すは、城郭の中心部である役所。件の屍人の手がかりを期待しての事だった。
華美な門を潜り、役所に足を踏み入れる。人の気配は全く無く、室内は静寂そのものだった。
「―――やっぱり誰もいない、か」
手がかりを探そうと、私は辺りを見回した。だが、特に目立つ痕跡は見つからない。
強いて上げるなら、床に僅かにこびり付いている犠牲者の血痕ぐらい。
骨等も残っていないところを見ると、件の屍人はよっぽど飢えていたのだろう。
……あるいは、複数の屍人が大挙して押し寄せたか。
不意に、上の階から気配を感じた。
人のようでいて、されど人のものでないような気配。顔を上げ、上を見る。この広間は吹き抜けになっており、ある程度は上の階の様子を見る事が出来るのだった。
女性が立っていた。柵に寄り掛かり、こちらを見ている。
銀の如き髪。涼やかな目元。薄い唇。ゆったりとした道服から伸びる、陶器の如きしなやかな肢体。
身体中の神経という神経が、警鐘を鳴らす。
―――この女は、ヤバい。
この女と一戦交えれば、確実に殺される。
女が、口を開く。
「……同業者か。ま、戦力が増えるに越した事はないかな」
しっとりとした声だった。
女が背を向け、柵の向こうに姿を消した。
罠なのか。しかし、女から敵意は感じなかった。でも、女から感じたあの気配は、間違い無く屍人のものだ。
しばらく逡巡した後、私は上階に至る階段を探す事にした。
敵意が感じられなかったからだろうか。不思議と、取り敢えずあの女を信じても良いという気持ちになっていたのだ。
二階は華美な造りになっており、応接室が多かった。恐らく、視察に来た役人への接待で使っているのだろう。部屋も豪奢な造りで、調度品も上等な物が多かった。
そのうちの、ある一室の扉の前に彼女は立っていた。凛とした佇まいで、こちらの様子を伺っている。
「聞きたい事が幾つかあるんだが」
「それは結界の中に入ってからで良い?もうすぐ日が暮れる。屍人達が活気付く時間帯に、こんな危ない場所で話したくは無いの」
その提案は、言われてみれば当然の話だった。夜になると陰の気は強まり、屍人の生気が増幅する。そんな状態の屍人に集団で襲われたらと考えると、たまったものではない。
私は頷き、彼女の提案に同意した。
女が扉に向かって片手を掲げた。扉に刻印が浮かび上がり、青白く輝き出す。
「さあ、どうぞ」
そう言って、女は微笑する。それに誘われるまま、私は室内に足を踏み入れた。