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探し者  作者: 藍と蒼
2/5

第二話 屍人

 屍人達は怨嗟に満ちた叫び声を上げ、近寄ってきた。

 ある者は腐敗しかけた脚を引きずり、またある者は眼球を無くした眼窩で私を見つつ、手には剣を携えて。


 「――――――っ。――――――!!」


 聞くに堪えない、苦しみに満ちた絶叫。豪胆な人間でさえ、ともすれば耳を塞ぎたくなるであろう、そんな叫び声だった。

 私は懐に手を伸ばし、玉石を取り出した。月光に照らされて青白く輝くそれは、月長石と呼ばれる物だった。この石には、月光が凝縮して誕生したという逸話があった。その為私と極めて相性が良く、力を込めやすいのだ。


 「―――刻まれし刻印にて、根拠の提示を省略す。刀身、形成」


 呟く。前腕部に刻まれた刻印が輝き、その輝きが手に握った玉石に波及していく。

 玉石が周囲の陰の気を取り込み、その姿(かたち)を変容させた。白銀に輝く刀身に変化した玉石に向かって、周囲の砂が風も無いのに舞い上がり、降り掛かっていく。刀身に纏わりついた砂が鉄に変わり、やがて柄へと変貌していった。

 剣と化したそれを、片手で振ってみる。風を切る音が、心地よく耳に届いた。

 

 屍人達が地面を蹴り、馳せた。剣を振り翳し、獲物(わたし)を喰らおうと奔ってくる。

 地面を蹴り、疾走する。脚に意識を向ける。脚部に刻まれた刻印が光り、衣服越しに浮かび上がった。

 瞬く間に速度が増した。数十歩分の距離を、僅かな時間で駆け抜けた。剣を横に薙ぐ。


 ―――紫電一閃。


 両断した屍人に構う事無く、右方に身体を向ける。僅かに身体を捻り、振り下ろされる斬撃を躱す。剣を振り上げ、股下から屍人を絶った。


 「――――――!」


 屍人達が吼える。剣を、槍を、戟を突き出してくる。


 「――――――っ」


 地面を強く蹴り、跳躍する。高く。高く。更に上へ。

 やがて、ゆっくりと身体が落下し始めた。眼下に向かって左腕を突き出す。


 「―――嫦娥に請い願う。御業の一端を拙に与え給え」


 左腕に刻まれた刻印が光を放ち始めた。

 掌を中心として、虚空(そら)に巨大な刻印が刻まれていく。

 

 ……風が止んだ。天で皓々と輝いていた月や星々が、暗くなっていく。

 一方で、描かれた刻印の輝きはより一層増していった。

 

 ―――まるで、月や星々の輝きがその刻印に吸い寄せられていくかのようだった。


 「咎人よ、虚無に帰れ」


 詠唱が終わる。持っていた剣を、屍人達の中心目掛けて投擲した。


 剣が地面に吸い込まれるように消え、天に在る物と同様の刻印が周辺に描かれていく。


 ……事象の再生。あるいは奇跡の再現か。世界に刻まれた過去の現象、かつて存在した神々の力の痕跡が、詠唱を切っ掛け(トリガー)として起動する。


 ―――虚空(そら)に在る刻印から、光の柱が顕現する。

 まるで月光の如き神々しい、鮮烈な幾条もの光芒。

 

 光芒が、音も無く地表の刻印に向かって降り注いでいく。

 

 ……地を彷徨う罪人を、容赦無く断罪するかのように。


 

 

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