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「ねえ、アニー。殿方に贈って喜ばれるものって何かしら?」
「お嬢様……っ、こほん。それはやはり、手作りのものがよろしいのでは? 刺繍したハンカチや手作りのお菓子などです」
刺繍か……前回は刺繍したハンカチをジュリアス殿下に贈っていたわ。無駄なことをしたもんだ。痛恨の極み。
今回は恩人であるヒューイット様に贈るのだから、気合いを入れて練習しよう。
幸い、前回の記憶があるので、刺繍はすいすい上達した。
あれから二回ほどお茶会に参加してみたが、どちらにもヒューイット様はいなかった。
出来れば暴言事件を防ぎたいんだけど、難しいかもしれない。
とにかく、私は何があろうとヒューイット様の味方だ。
仲良くなって召し使いにしてもらうんだ。
そんな風に刺繍に精を出す日々を送っていたら、お父様に呼び出された。
「ステラや。こないだのお茶会は楽しかったかい?」
「はい!」
ヒューイット様に会えたので。
「そうか。ジュリアス殿下のことはどう思ったかね?」
「どうでもいいです」
「どっ……そうか。あまりお話できなかったようだね。それじゃあ、ジュリアス殿下と結婚したいという気持ちは……」
「微塵もありません! 絶対に嫌です! 本当に無理です!」
「そ、そうか……いや、それならいいんだ」
力いっぱい拒絶しておいた。お父様は戸惑っていたけれど、本当に無理なんで。
そうか。我が家の子供は私だけなので、もしも私が王家に嫁ぎたいって望むなら早めに後継を養子に迎える必要があるのよね。
つまり、ド外道一味のクソ従兄弟コリンが私の義弟になるのよ。
考えただけで胸くそ悪いわ。お前に公爵家は渡さない。
***
「ステラは王子様に憧れていたと思ったのだが……」
「あら、あなた。女心は移ろいやすいのよ」
「旦那様、奥様。どうやらお嬢様は意中の殿方がいらっしゃるようです」
「なにっ? まことか!」
「あらあら」
「王宮のお茶会で出会った方のようです。贈り物をしたいとおっしゃりここ数日は刺繍の練習に励んでおられます」
「なんと!?」
「まあまあ」
「お嬢様のご様子から、お相手のことを真剣に想っていらっしゃるようです」
「ふむむ! なるほど。それで殿下との結婚は絶対に嫌などと言ったのだな」
「あなた、王家から打診があった訳ではないのでしょう?」
「うむ。だが、どうやらジュリアス殿下がステラを気に入ってしまったようでな。いずれ打診が来るやもしれぬ」
「うふふ。さすがはステラちゃんね。でも、ステラちゃんに想い人がいるなら王家からの申し込みは受けられないわ」
「それは心配ない。打診が来ても断ることが出来る」
「ブライム家からの婚約申し込みもきちんと断っておいてくださいな」
「もちろんだ。ステラに想い人がいなければ悪くない縁談だと思っていたが、コリンには悪いがステラのことは諦めてもらおう」
「ああ! ステラちゃんの想い人ってどんな方なんでしょう~?」