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「おのれぇ……っ、グレイめっ!」
ジュリアス(注:第一王子)は、膝を抱えたまま悔しげに顔を歪めた。
「ジュリーってば負けちゃったんだって」
「せっかく俺らが鍛えてやったのに」
「情けないオトコー」
「あたしは嫌いじゃないわよ……ふふ……」
ジュリアスを取り囲んだ子供達が口々に言う。
テストが無事終了して冬季休暇に入り、ジュリアスはバーナードとアダムを連れて平民居住区の孤児院を訪れていた。
平民の生活を改善するために幾度も居住区を訪れていた中で、教会を拠点とさせてもらうことも多かったため、隣接する孤児院にも顔を出し子供達の話も聞くようにしていた。
生まれて初めて目にする王子様に怯えていた子供達も、今ではすっかりジュリアス達に懐いている。
「惚れた女の前で負けちゃって泣いてるんだよ」
六歳のトマスが呆れ顔で言う。
「俺のおもちゃ貸してやるから泣くなよ」
四歳のジムは積み木を貸してくれる。
「みっともないわねー。しっかりしなさいよ!」
七歳のポーラはお姉さん肌で気が強い。情けないジュリアスを叱る。
「あら。叶わない恋に泣くオトコってセクシーじゃない? うふふ……」
八歳のマリーは大人びた艶やかな顔で笑う。
もう少し年齢の高い子供達はバーナードに勉強を教えてもらったり、アダムに剣を習ったりしている。小さい子達はジュリアスがお気に入りだ。精神年齢が同レベルなので皆周りに集まってくるのだ。
「ここで鍛えた栗の皮剥きの腕で、グレイに吠え面をかかせてやれると思ったのに……っ!」
部屋の隅っこにうずくまっていじけていたジュリアスは積み木をぎゅっと握ってぐずぐず嘆く。
孤児院では現金収入を得るために子供達に軽作業を割り振っている。栗の皮剥きもその一つだ。皮を剥いた栗は製菓店などに売られる。
ジュリアスは子供達に混じって皮剥きを手伝った。最初は爪を痛くするばかりだったが、子供達に励まされて腕を上げていったのだ。
「そろそろ泣き止んで、手伝えよジュリー」
本日分の軽作業を手伝わせようと、子供達が手招く。木の板の上で葉っぱを刻んでいる子供達に混じり、ジュリアスは首を傾げた。
「この葉っぱを刻んで何に使うんだ?」
「コカナの葉だよ。煮出した汁が風邪薬になるんだよ」
「でも、すっげー硬い葉っぱだから、細かく刻むの大変なんだぜ」
子供達が教えてくれる。
「刻んだ葉っぱは乾燥させておけば何年も保存できるから、時間がある時に刻んでおくんだ」
「そうなのか……」
子供達はジュリアスが知らないことを教えてくれる。ジュリアスはここでいろんなことを学んだ。
「よし! 今度は「葉っぱ刻み勝負」を挑んでやる!」
「がんばれジュリー」
「おう! 首を洗って待っていろグレイ!」
ジュリアスはヒューイットを倒すため、硬い葉っぱを高速で刻む技を身につけようと包丁を握りしめた。




