59
借りた本を返却しに図書館へ行くと、フアナとイベリスが勉強していた。
「来年はエリーナも入学してきますし、わたくし達はより一層努力しなければ」
声をかけると、真剣に勉強していたフアナが顔を上げてそう言った。
フアナもイベリスも完全に婚約者を抑え込んでいるのに、まだ努力するのか。そこまで頑張らなくても、と私は思うのだが、フアナはふっと寂しげに微笑んだ。
「バーナード様は賢い御方ですから。今は前回の知識があるから、わたくしでも勝てていますが、きっとすぐに追い抜かれてしまいますわ」
今だって必死ですのよ、とフアナが自嘲気味に呟いた。
確かに、前回のバーナードは常に首位を取っていた。元々頭がいい上に、今の彼はフアナに勝ちたいと前回以上に努力をしている。きっとこれからめきめきと成績を上げてくることが予想される。
「ルナマリアが現れる時までは、バーナード様に勝っていたいんですの。私の方が成績が良ければ、私の話に耳を貸してくださいますもの」
前回のことを思い出しているのか、フアナは遠い目をした。
前回のバーナードはフアナに冷たく当たっている訳ではなかったが、いつも私達と連んでいたからあんまり交流はしていなかった気がする。
「私も勝てるのは今だけですわ。アダム様はこれから体も大きくなり力も強くなっていくでしょう」
イベリスもそう言って肩をすくめた。
「私達が勝てているのは今だけ。すぐに敵わなくなる時がきますわ」
「その時が来たら、私達は婚約を解消しようと思ってますの」
「え?」
私は驚いて目を丸くした。
「だって、あの二人は自分より頭が悪かったり弱かったりする私達に興味なんてありませんし、話も聞いてくれないでしょうから」
フアナとイベリスは婚約者を見捨てずに付き合っていて偉いなあと思っていた。
けれど、どうやら彼女達は最初から彼らとの関係を諦めていたようだ。
思い返せば、ルナマリアが現れる前も、バーナードとアダムは常に第一マロングラッセ殿下と一緒にいた。婚約者との交流を深めるよりも、男同士でつるんでいる方が楽だったのだろう。
私は第一栗きんとん殿下の婚約者だったから、私には丁重な扱いをしてくれたけれども、二人とも女子に気を遣って優しくするタイプじゃなかったと思う。
ルナマリアが現れてから急に蔑ろにされたのではなく、最初から自分達に興味を持たれていなかったのだとフアナとイベリスは考えているのだ。
「血まみれ公爵の誕生を阻止して平和な世界を見届けたら、また修道院で穏やかに暮らすのもいいわね」
「そうね。アダム様相手に散々技をかけてしまっては、他に嫁の貰い手もないでしょうし」
フアナとイベリスはあっけらかんとそう言って、修道院で過ごした日々を思い返しているようだった。
うーん。バーナードとアダムと婚約を解消するのは本人達が希望しているならそれでいいと思うけれど、彼女達は美しく優秀なんだから修道院に行かなくても幸せになれる道があるはずだわ。
一度目を知っている者同士、今度は幸せになってもらいたい。
私はそう思った。