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謎の栗勝負が繰り広げられたものの、収穫祭は無事に終わり、学園は冬季休暇に入る前のテスト期間に入った。
なにせやり直している訳だから、前回よりはいい成績を取らないとね……
「フアナ! 今度こそ必ず貴様に勝つ!!」
「ほほほ! 望むところですわ!」
前回は常に一位だったバーナードは、今回はフアナに負けているのが悔しくてならないらしく敵対心を剥き出しにしている。
「では、次の問題です。ハルゲンロッズの戦いで敵軍に寝返ってモンヴェール将軍の首を取った騎士の名前は?」
「ふぐぅ……ふ、ふえれる・べれぽーろ……すぅはぁ」
「正解は「フェレール・ベレフォード」ですわ! 名前は正確に覚えねばなりませんよ!」
イベリスは脳筋のアダムに技をかけて押さえ込み、身動きできないようにしつつ勉強を教えているようだ。
……精神が大人のイベリスからしたら、十二歳のアダムは子供にしか思えないのかもしれないけれど、そろそろ太股で顔面を挟むのは止めた方がいいのではないかしら?
たまに無関係な男子がちょっと羨ましそうに見ているし、アダム本人もちょっと幸せそうな感じに見えるから。なんか息遣いもあれだし。
私は家ではヒューと一緒に勉強をしている。テスト期間中はさすがに第一栗殿下も忙しいのか絡んでこなくて静かだ。
「テストの点数で勝負だ、とか言い出されたらどうしようかと心配していたんだが、何も言ってこないなぁ」
勉強中にふと、ヒューが呟く。
ヒューがちょっと殿下のこと気になっちゃってるじゃないのよ!
あんな第一マロン殿下のことなんか気にしなくていいわよ! あんな奴より私を見て!
そういえば、なんだかんだで学園の一年目が終わりに近づいているのね。
第一栗マロン殿下が何かと突っかかってくる以外は概ね平和に過ごせたし、何時いかなる時もヒューがかっこいい一年だったわ。来年のヒューも確実にかっこいいわ。
あ。でも、来年はコリンが入学してくるのよね。
第一甘栗殿下に加えてコリンまで突っかかってきたら面倒臭いわ。でも、一応は従兄弟だからなぁ。完全に関わらないのは不可能だわ。
どうやら殿下達のおかげで平民達の環境は良くなっていっているらしいけれど、ルナマリアについてもまだまだ油断は出来ないし……
ううん。来年も気は抜けないわ。
でも、どんな苦難からもヒューだけは守ってみせる!
そして、お父様を「血まみれ公爵」にはさせずに、平和に卒業を迎えるのよ!