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ステラが平民の心配をしているらしい。
さすがはステラだ。やはり君は王妃となるにふさわしい。
「バーナード! 知恵を貸せ!」
僕は早速バーナードとアダムを集めて「平民の間で病が流行るのを防ぐ方法」について話し合った。
「清潔と栄養が肝心らしいんだ」
「確かに……平民では満足に体も洗えませんからね」
「なに? そうなのか?」
僕は平民の暮らしなど全く知らないが、バーナードとアダムは少しは知っているようだ。
平民の家には風呂がなく、公衆浴場は存在するが貧しい平民は滅多に利用しないらしい。
「では、三日に一回は必ず浴場に行かなければ罰を与えるとお触れを出せばよいのか」
「いいえ、殿下。それでは解決しません。明日食べるものの心配をしている平民にそんなお触れを出せば恨まれてしまいます」
「では、浴場を無料にすればいいだろう」
「それでは浴場を運営出来ないでしょう。水代だって馬鹿にならない」
そうなのか。
公衆浴場がどういうものなのか、想像が出来ないな。城の風呂はバスタブに一人でつかるものだが、大人数が入る風呂とはどんなものだろう。
「よし。視察に行くぞ。実際に見てみなければわからん」
善は急げだ。僕はバーナードとアダムの他に数名の護衛を引き連れて、平民居住区の公衆浴場を訪れた。
目にした浴場はひどいものだった。掃除が行き届いていないのか、あちこち黴びているし、浴槽の湯はいつ入れ替えるのか濁っている。暗いしじめじめしているし、これでは金を払って来ようという気にならない。
「まずは公衆浴場の衛生状態を改善しなければ……何かいい方法はないか……」
城の自室で公衆衛生について書かれた書物を漁っていた僕は、ある記述を見つけて愕然とした。
それから三ヶ月後、僕達のアイディアで公衆浴場は生まれ変わっていた。
まず、開店直後から二時間は普通の料金、その後の二時間は普通料金の半額、その後から閉店まではさらにその半額という時間帯ごとに違う料金を設定した。
こうすると、当然金がもったいないから安い時間帯に人が殺到する。だが、人が多すぎて辟易した者は少し多めの金を払っても空いている時間に入ろうと考える。生活に余裕のある平民は普通料金を払って空いていて湯が綺麗な時間に来るようになる。
客単価は下がっても、今まで金がなくて来なかった層が閉店間際に押し寄せるようになれば、客の数は増えるので大きな損にはならない。どころか、やりようによっては利益も出る。
それから、湯の中に活性炭を詰めた袋を沈めてある。
ある書物に書いてあった。活性炭は臭気や色素を吸着する力が大きく、脱臭・脱色・浄水に用いられると。
湯の浄化に使う以外にも、石鹸に砕いた炭を混ぜてみたところ、汚れがとてもよく落ちることが判明した。
そうか。ステラが僕に活性炭を投げつけてきたのはこのためだったんだな。彼女は僕に「平民達を救ってくれ」と訴えていたんだ。
気づくのが遅れてごめんよステラ。でも、君が気づかせてくれた活性炭の力で平民達の衛生状態を改善することが出来たよ。
さあ、次は栄養状態の改善だ!