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ルナマリアの魔女化阻止計画は早速暗礁に乗り上げていた。
だって、病が流行るのを防ぐ方法なんてわからないんだもの。
これは私一人で悩んでいても埒が明かないわ。誰かに聞いてみよう。
「病の流行を防ぐ方法?」
私が尋ねると、ヒューは少し首を傾げた。
傾く角度も完璧だわ! どの方向から見てもカッコいいわ、ヒュー!
「治し方じゃなくて、防ぐ方法か……さあ。考えたことがなかったな」
ヒューの住む離れの一室で、課題を片づけてから二人で話し合った。私は書斎から持ってきた感染症について書かれた本を開いた。
病を引き起こす原因の主たるものは不潔と栄養不足とある。ということは、清潔にして食事をきちんと摂っていれば病にはならないということよね。
平民居住区は馬車で通り過ぎることはあるけれど、降りたことはないわ。
一度行ってみようかしら。見てみないとわからないものね。
「ねえ、ヒュー。私、平民居住区に行ってみようと思うの」
「ええ? なんでまた。公爵令嬢が平民居住区に行ったりしたら目立つだろう」
ヒューは目を丸くするが、質素なワンピースを着れば平民に紛れられると思う。もちろん、一人ではなく護衛についてきてもらうけれど。
一度目の時、病は平民の間だけで流行って、貴族にまでは広がらなかった。
ということは、貴族は病を防ぐ方法をとれたということよね。その方法を探って、平民居住区でも実践できるか確かめたいわ。
「ちょっと見学するだけだから心配しないで」
「何言ってるんだ。お前が行くなら俺も一緒に行くぞ」
「え?」
ヒューが呆れたように眉をひそめた。
「お前を一人で行かせる訳がないだろう。心配で待ってられるか」
ヒュー! はあーっ! やっぱりヒューは素敵!!好き!!
こんなに格好いいヒューが存在して世界は大丈夫なのかしら? ヒューの格好良さに耐えかねて地面がひび割れたり、ヒューの眩しさに照らされて海が干上がったりしないかしら?
ヒューがこんなにも格好いいんだもの、何が起きても不思議じゃないわ。
たとえ何が起きても私のヒューへの想いは変わらない。平民居住区で何があろうと、私はヒューを守ってみせるわ。