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入学して三ヶ月が経った頃、突然学園の女子にも男子と同じ制服の導入が決定された。
前回はこんなことなかったわ。いったいどうしたのかしら。
突然ズボンを穿けと言われて多くの女子は戸惑っていたけれど、一部の女子は大喜びしていた。
平民の子や、あまり裕福ではない家の子達だ。
毎日同じドレスを着るわけにもいかず、かといって何着も用意する余裕はない彼女らはシンプルなドレスを用意して襟を付け替えたりフリルを足したりするなどの工夫を凝らして乗り切っていたらしい。そこここで制服導入を歓迎する声が聞こえた。
そして、彼女らと同じくらい大喜びしていたのがジュリエットだ。
「剣の稽古も狩りもスカートでは動きにくくてうんざりだったんだよ!」
殿下達の発案で法律が変えられたそうだ。今後は女性でも自由にズボンを穿けるようになった。
別にいいんだけど、前回の殿下達は女性の男装禁止について何か思い入れがあったようには見えなかったのに、今回はどうしたのかしら。まあ、喜んでいる人も多いみたいだから構わないけれど。
「あ、殿下! ズボン穿けるようにしてくれてありがとう!」
ジュリエットが殿下をみつけて駆け寄っていった。活動的なジュリエットにとってはとても嬉しいことだったようだ。
「まあ、バーナード様。今回のことでは議会に提出する法案を作成したり質問に対する回答文を用意したと聞きましたわ。国王陛下や議員の方々を納得させる文を短期間で作るだなんて素晴らしいですわね。流石ですわ」
フアナがにこにこしながらバーナードに語りかけると、彼は一瞬虚を突かれたような顔をした後で自慢げに胸を張った。
「ふ、ふんっ! まあな! 私にかかれば簡単なことだ!」
「いつから考えていましたの? 私達の父親世代には女性のズボン着用に強い拒否感を持っている方が多いでしょう。それなのに、よくやりましたわ」
「ま、まあ、我々若い世代がよりよい世を作っていかなくてはならないと思ってな。手始めに女性への強制は時代に合わないという考えを……」
普段はこき下ろされているフアナから手放しに褒められて、バーナードは見るからに気分が良さそうだ。
その後、女子の制服着用が始まり、ドレスから解放された女子は動きやすさと気楽さで以前より伸び伸びしていた。
「ドレス選びに悩まなくてよくなったわ」
「私、冷え性だから助かる」
「足が見えないように気を遣う必要がないから楽だわ」
女子からは概ね好印象だったけれど、一部男子から「女子が全員ズボンだと味気ない」という意見が出たらしく、後日、「女子の制服はズボン・スカート両方から自由に選択可」と変更された。
ちなみに、「スカートがまとわりつかなくて足技がかけやすいわ」とアダムに技をかけて押さえ込みながらイベリスが喜んでいた。