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学園に入学して二月が経った。
だが、いまだにステラをグレイの奴から救うことが出来ていない。
クソッ、ふがいない僕を許してくれステラ!
君が毎日僕に投げつけてくる黒い炭の塊は助けを求める君の心の叫びなのだろう。すべて大切に籠に入れてとってある。
何故か最近部屋の空気が綺麗になったような気がする。もしや、ステラの僕への愛が込められた黒い塊が僕の周囲の穢れを祓っているのかもしれない。
「嗚呼。ステラ……っ! 必ず君をグレイの魔の手から救って見せるよ!」
「殿下……」
僕が放課後の教室で決意を新たにしていると、悔しげに顔を歪めたバーナードが気絶したアダムを引きずって戻ってきた。
「またやられたのか」
「はい。あの悪魔ども……アダムの片腕を掴んで太股で首を挟んで締め上げるという羨ま……恐ろしい技を……」
「そうか……」
アダムを椅子に座らせると、呻り声を上げて目を覚ました。
「大丈夫か、アダム」
「はい……くっ、あの女……っ!」
屈辱を思い出したのか、アダムは拳を握り締めて歯ぎしりをした。
「力は俺の方が強いのにっ、太股で挟まれたり胸元に腕を抱え込まれたりすると体の力が入らなくなるんです……っ、ふわふわした攻撃しやがって……っ!」
「それは恐ろしいな……」
「卑怯な手を……」
僕とバーナードは悲痛な目でアダムを見た。
普通に戦えばアダムはイベリス・レモニー嬢などに負けはしない。だが、まくれあがるスカートとかふわりと香るいい匂いとかふわふわの太股とかがアダムの邪魔をするのだ。そのせいで、いつも実力を発揮しきれていない。
いったいどうすれば……
はっ! そうだ、いいことを思いついたぞ!
「ズボンだ!」
「殿下?」
「いいか、アダム。お前はいつもスカートがまくれるのに気を取られてその隙に技をかけられているだろう?」
「はい。おのれっ、汚い真似を……っ」
「そこでだ。そもそもスカートがまくれなければいい。つまり、相手がズボンを穿いていれば動揺することなく隙を突かれることもなくなるだろう」
簡単な話だ。これまで学園では男子には制服があったが、女子はドレス着用だった。女子も男子と同じく制服着用を強制してしまえばいいんだ。
「し、しかし、女性は男装してはならないと法で決まっています」
この国では女性が男物の服を身につけることは禁じられている。例外は、健康上或いは職業上、男装をする必要がある場合に限り「男装許可証」を得てズボンを穿くことが出来る。
「なあに、この法律をなくしてしまえばいいんだ。古い法律だから、今の時代に合わないとかなんとか言えば撤廃できるさ! 女性の社会進出を助けるため、とか、理由はなんとでもこじつけられる!」
そうと決まれば、早速父上と議会を納得させられる草案を作ろう。俺とアダムで案を出してバーナードにまとめさせればいいな。よし。
僕達はその日から頭を寄せ合って法案を作成し、バーナードが頭を捻って議会に向けての説明文を用意し、時に議員と議論を交わしながら、一月ほど後に女性の男装を禁ずる法律の撤廃と服装の自由の権利を定めた新法律の制定、学園における男女平等の制服着用義務を成立させたのだった。