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一度目。
私の死後に何があったのかを教えられた私は、彼女達の話を聞いてこう考えた。
やり直したいと願った彼女達が戻ったのが、あのパーティーの夜ではなく十歳の頃。しかも、彼女達より先に死んでいる私にも一度目の記憶があった。
ということは、惨劇の未来を防ぐためには、やはり私が第一王子の婚約者になってはいけないんだわ。
「私達はステラ様が第一王子の婚約者になることを防がなければと思いましたが、伯爵家と子爵家の令嬢がどうやって公爵令嬢と王子の婚約に嘴を挟めましょうか。せいぜい、第一王子が変態的な趣味の持ち主だという誹謗中傷が公爵の耳に入るように噂を流すことぐらいしか出来ません」
「しかし、ステラ様の行動が一度目とは違っていました。第一王子の婚約者にならずグレイ様に積極的に近づいていくステラ様を見て、「一度目の記憶があるのでは?」と思いましたの」
お茶会の時点ではヒューには悪い評判しかなかったから、一度目の記憶がなかったら私も近づいてはいなかったものね。
「なんとかステラ様とお話ししなくてはと思案するうちに、ステラ様は子爵領へ旅立たれてしまって……」
「ステラ様が未来を変えるために動いているのなら、私達もそうしなくてはと思い、婚約者との関係を変えるために努力しましたの」
なるほど。婚約者との関係を変えるために努力した結果、前回とはまったく違う感じになっていたのね。
「バーナード様は賢いのがご自慢で私の言うことには耳を貸してくださらなかったので、その鼻っ柱をへし折ってやろうと思いまして。前回の記憶もありますし、懸命に勉強してバーナード様よりいい成績を取ることにしました」
「私は、剣の腕ではいくら鍛えてもアダム様には勝てないと思い、東方の国から柔術の達人をお招きして修行しました。寝技に持ち込めば負けません」
「私は前回とは違い、まだコリン様と婚約していません。ステラ様の状況が以前と違うからでしょう。もしも婚約することになったら、今度は遠慮せず根性を叩き直してやりますわ」
三者三様に婚約者との付き合い方を考えて行動しているのね。
お父様のこととか、ちょっと想像以上のこともあったけれど、前回のことを知っている味方が三人もいるというのは心強いわ。
「私達の目標は「血まみれ公爵」を目覚めさせず、国が滅びるのを防ぐことです」
やっぱりラスボスはルナマリアじゃなくお父様なのね。
あんなに温厚なお父様なのに……
「ステラ様がお幸せであれば、公爵の怒りを呼ぶことはないでしょう」
そうね……私が無惨に死んだことでお父様が変わってしまったのなら、私が無事でいればお父様は温厚なままでいてくれるわ。
「わかったわ。私、この国を守るためにも、殿下には関わらずにヒューと幸せになるわ!」
どうやらヒューは私にとっての救世主というだけではなく、この国にとっても救世主だったらしい。
さすがヒューだわ!




