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イベリスが話を続ける。
「捕らえられそうになったルナマリアは、魔女の正体を明かしてこう言いました。ここにいる貴族の子供達には呪いがかかっている。自分に手を出せば子供達は全員死ぬ、と」
「呪い?」
「はい。ルナマリアに操られていたのは殿下達だけでしたが、ルナマリアは学園にいる間に主要な貴族の子女達に呪いをかけていたのです。ルナマリアに逆らうと命を落とす呪いです」
「呪いのせいで、子供達を人質に取られた貴族達も王もルナマリアに手出しできなかったのです。実際に、逃げだそうとしたりルナマリアを取り押さえようとした生徒達は突然、倒れて苦しみ始めました。皆、恐ろしくなって、ルナマリアに従うしかありませんでした」
「ただ、中にはルナマリアの呪いが効かない体質の方もいました。その一人がヒューイット・グレイ様です」
ヒューが?
「グレイ様は城から抜け出して、グリーンヒル公爵の元へ駆けつけました。子供達を人質にされているため誰もルナマリアに手出しできない中、グリーンヒル公爵は単身で城に乗り込み、ルナマリアの操る兵達を蹴散らしてルナマリアを討ち取りました」
「お父様が!?」
ちょっと待って。ルナマリアって魔女なのよね?
「ルナマリアは殿下達の心を操ったり、学園の生徒達に呪いをかけるくらい恐ろしい魔女なのよね?」
「ええ。でも、ルナマリアなんてどうでもいいんですのよ、あんな小物」
「大事なのはここからなのです」
「ええ!?」
魔女って伝説の存在よね!?
どうでもいいの?
大事なのはここからって、ここまでの出来事が序章だとでも? 私って序章で死んでたの?
「ルナマリアが処刑された後、第一王子とその側近達は当然ながら罪に問われました。操られていたとはいえ、ステラ様はそのせいで命を落とされたのですから」
「国中の貴族の子供達の命を脅かした罪もありますから、貴族達も許しません。第一王子はルナマリア同様、死罪となりました。側近達は身分剥奪の上強制労働を課され、ザフィリ嬢とシャイデン嬢も貴族籍を抜かれ修道院行きとなりました」
「ステラ様の死を知った王妃様は毒を呷ってご自害され、国王様は自ら退位し、第二王子の命を助けるのを条件に北の塔に幽閉されました。第二王子は辺境の地で監視付きの生活となりましたわ」
三人は代わる代わる説明してくれる。
「国を治めるため、王位継承権のあるグリーンヒル公爵に王となってもらいたいのが貴族の総意でしたが、養子のコリンが魔女に操られていたことを理由に固辞され、ベッドリー公爵が王位につきました」
ベッドリー公爵か……王弟や王妹が婿入りや嫁入りしている由緒正しい家柄だから順当と言えるだろう。
私がサクッと自害した後で王国は大変だったようだ。
お父様があっさり魔女を倒した部分は後でもうちょっと詳しく聞かせてもらおう。