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「ステラ様、お久しぶりでございます」
「突然、子爵領に行ってしまわれて……心配しましたわ」
休み時間になるとカナリアとマーゴットが寄ってきた。正直、彼女達とは仲良くしたくないんだけど、我が家の派閥の令嬢達を邪険にするわけにはいかない。
適当に相手をしつつヒューのことを考えていればいいか。
うぇへへ。ちゅーされたのよ、ちゅー。
「ステラ! 今週末に王宮で母上も招いてお茶会をしよう!」
「申し訳ありません、第一ゴミ殿下。週末は持病の座骨神経痛が悪化する予定で」
ゴミ殿下を適当にあしらって、私はフアナとイベリスの様子を観察した。二人とも、前回は大人しくて目立たない令嬢だったはずなんだけど……
「フアナ! どうだ! 私はガイナー教授の『古代統一国家における法と支配』を読み通したぞ!」
「あら、寝る前の読み物にちょうどいい本ですわね。私も読みましたわよ。原書で。翻訳は少し削られている部分がありますのよ」
「イベリス! 腕相撲で勝負だ!」
「いやだわ、こんなか弱い女相手にいきり立って……騎士の風上にも置けないわ。軽く捻って差し上げてよ」
二人の態度は前回とまったく違うし、婚約者であるバーナードとアダムとの関係も変わっている。
前回は頭の良さをひけらかすバーナードに、フアナは憧れを抱いていたはずだし、騎士団長の息子のアダムは女は弱いと馬鹿にしていて、イベリスは彼を少し怖がってあまり関わっていなかったように思う。
それなのに、今回のフアナはどうやらバーナードより賢い才女となっているようだし、イベリスはアダムを投げ飛ばす実力を身につけている。
いったい、どういうことなのだろう。
私が生ゴミ達と一緒にいないせいで、周りの関係性も変わったのだろうか。
その後もゴミ殿下の寝言を適当に処理しつつ、ヒューとジュリエットと楽しい昼休みを過ごして教室に戻ってくると、机の中に手紙が入っているのに気づいた。
近寄ってきたゴミ殿下を「急性男性恐怖症で近寄られると蕁麻疹が出るので」と言って遠ざけてから、こっそり手紙を開いてみた。
そこにはこう書かれていた。
『一度目について話したい。』