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「さて、本日は入学おめでとう。私は担任のシーファー・サガンだ。どうにも濃い面々がこのクラスに揃っていることは気のせいだと思いたい。では、一人ずつ自己紹介してもらおう」
前回も担任だったサガン先生が変わらずAクラス担任だったわ。
「はい。私はバーナード・ホルムズ。侯爵家です。この学園で懸命に学び、いつの日か奴の鼻を明かしてやりたい……っ。よろしく」
「ほほほ! 身の程知らずの戯れ言ですわ! わたくしはワトソニア伯爵の娘、フアナともうします。どうぞお見知り置きを」
「俺はアダム・モーガン。伯爵家だ。イベリス・レモニー! 俺は必ずお前を倒す!!」
「大口叩くのはおよしになって!? わたくしの巴投げの餌食になりたいのでしたらいつでもどうぞ! レモニー子爵家のイベリスです。よろしくお願いいたしますわ」
「えっと……ザフィリ侯爵家が一女、カナリアと申します。皆様、どうぞよろしく……」
「ま、マーゴット・シャイデン……伯爵家です。よ、よろしく……」
前四人の自己紹介に恐れをなしたのか、カナリアとマーゴットはたじたじになっているわ。
「僕は第一王子のジュリアスだ! 邪悪なる黒魔術師ヒューイット・グレイを倒し、必ずやステラを救い出す!! そのためにありとあらゆる魔導の知識を身につけた!! そしてこれは僕が作った「邪悪な魔力を跳ね返す銀の糸」だ! 初めはアミュレットにしようと思ったが、首飾りや腕輪では第一王子とはいえ婚約者以外の男から贈られたものを女性が身につけるのはよくないだろう。そこで糸に力を込めることにした。これなら自分で好きなように服の裾やハンカチに魔除けを刺繍することが出来るだろう。この学園の生徒全員に配るように手配した。是非、使ってくれ」
ゴミ殿下の挨拶とともにきらきら光る銀の糸が一巻き各自の机に置かれた。
すると、教室の隅の誰も座っていなかった席からすすり泣くような声がした。
『ううああああ……浄化される……糸に込められた魔を祓う力のせいで……おのれぇぇぇぇ』
恨めしげな声と共に、机と椅子から立ち上った黒い煙が溶けるように消えていった。
「おお……三十年前にいじめで自殺した生徒が座っていた窓際の席に座ると怪我や病気など不幸な目に遭うと言われて、誰も座らないように空席にしておくようにしてあったのだが、まさか悪霊が除霊されたのか……?」
サガン先生が呆然と呟く。
そういえば、前回私の在学中も一年Aクラスの窓際の一番後ろの席は誰も座っていなかったわ。
どうして誰も座らない席を置いてあるのか不思議だったんだけど、そんな怪談があったの?
ゴミ殿下の意外なファインプレイで悪霊が退治されたみたいだけど、私は正直、殿下に貰った物を身につけたくないわ。魔除け効果はあるみたいだからお父様に渡しておこう。
「初めまして。公爵家のステラ・グリーンヒルです。Bクラスのヒューイット・グレイの婚約者候補にして下僕志望です。ヒューイットを讃える詩を書くのが日課です。今はまだ婚約者候補ですが、十五になったら正式な婚約者になります。その日のことを思うと……はあはあ。興奮して鼻血出そう……」
「グリーンヒル君、紹介ありがとう。さて、思った以上にヤバい連中が多いような気もするが、基本的に何か問題が起こらない限りは卒業までクラスは固定だ。悪霊もいなくなったことだし、楽しく過ごして貰いたい。以上」
サガン先生の締めの言葉で、自己紹介の時間は終わったのだった。