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ヒューイット・グレイ——ヒューイット様は目を点にして私を見た。
「えっと……つまり、あなたのお役に立ちたいので、何か出来ることがあれば遠慮なく言って下さい!」
「お前……何言ってんだ?」
ヒューイット様は思いきり胡散臭そうに私を睨んだ。
「からかってんのか?」
「本気ですっ!」
「嘘言え。お前、公爵令嬢なら王子のところに行かなくていいのかよ」
「問題ありませんっ! 第一王子殿下には出来れば近寄りたくないので!」
私が正直にそう言うと、ヒューイット様はちょっと片眉を跳ね上げて笑った。
「はっ。マジかよ。女ってああいうのが好きなんじゃねぇの?」
確かに、ジュリアス殿下の見た目は明るい金の髪に空色の瞳という女の子の憧れの王子様そのものだ。見た目だけは。
中身は邪魔な婚約者に冤罪着せて地下牢に放り込んで、余計な助けが来る前にさっさと令嬢として生きていけないようにしてやれっていうド外道なことを考えるド腐れ野郎ですから。
思い出すと腹立つわ。
「これっぽっちも好きじゃありません。私はヒューイット様と仲良くなりたいんです」
さすがにいきなり下僕発言はまずかったか。下僕って下働きの男性のことだしな。「召し使いにして下さい」の方がよかっただろうか。
「お前、俺が周りからなんて言われてるのか知らねぇのかよ。俺は——」
「『侯爵家の出来損ない』『失敗作』『兄達の残り滓』でしょ?」
前回は、誰もが彼をそう呼んで嘲笑っていた。笑いこそしていないが、その会話の中に私もいたのだから私も同罪だ。
もしも、彼が私の名誉を守ってくれなければ、私はあの場で兵士達に嬲られ、たとえ生きて助け出されたとしても死んだも同然の身で、社交界で噂のネタにされ一生笑い者にされただろう。
「周りがなんて言っていようといいんです。ヒューイット様が嫌われ者でも乱暴者でもかまいません。ただ、私はヒューイット様の味方だと覚えておいて下さい」
私は胸の前で手を組んでにっこりと微笑んだ。
ヒューイット様は一瞬面食らったような顔をして、それから「訳わかんねぇ!」と怒鳴って去っていってしまった。
とりあえず、今日のところはこれでいいや。
ヒューイット様と仲良くなって、召し使いにしてもらえる方法を考えよう。そうと決まれば、もうお茶会に用はない。
私は会場へ戻ると、付き添いの母を言いくるめて公爵家へ帰ったのだった。