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いよいよ学園の入学日。
私はヒューと一緒に馬車に乗って登園した。
ヒューは緊張しているのか、少し表情が硬かった。真剣な顔つきが格好良すぎて眼福だわ。
ああ、今日からヒューと一緒の学園生活が始まるのね。前回は見られなかったヒューのあんな姿やこんな姿が見れるのね。はあはあ。
「そうだ、ステラ。もしかしたら王子はまだお前に気があるかもしれないからな。気を付けろよ」
ヒューが思い出したようにそう言った。
そうよね。汚い手でヒューを辺境送りにした生ゴミ共が、また何かやらかすかもしれないのだわ。気を付けなくちゃ。
ヒューが通う学園にあんな生ゴミ共が存在するだなんて許せないけれど、光あるところに影も生まれるっていうものね。ヒューの輝きが眩すぎて影が濃くなるのよね。仕方がないわ。
ヒューと二人並んで学園の門を潜ると、早速目に飛び込んできた光景があった。
「ほほほほほ! この程度の問題もわからずに「自分は聡明だ」なんて思い上がりも甚だしくてよ!!
「くっ……!!」
「覚悟ぉっ!!」
「甘い!! 背中ががら空きでしてよ!!」
「ぐわあっ!!」
地面に這い蹲ったバーナード・ホルムズ侯爵令息を高笑いしながら見下すフアナ・ワトソニア伯爵令嬢。
陰から襲いかかってきたアダム・モーガン伯爵令息を冷静に返り討ちにして地面に組み伏せ、寝技をかけて押さえ込むイベリス・レモニー子爵令嬢。
……えーっと?
「まあ、フアナ様ったら今日も絶好調ですわね」
「入試の成績が圧倒的一位だったらしいわよ」
「イベリス嬢の技には一段と磨きがかかったようだ!」
「是非、我が格闘技クラブに入会してもらいたいものだな」
周りの生徒達はまるで日常茶飯事みたいに眺めている。
私の記憶が確かなら、前回の入試一位はバーナードだった。頭だけはいい陰険野郎だったもの。自分の賢さを鼻にかけた嫌な奴だったわ。
それに、アダムは騎士団長の息子で剣才のある脳筋だった。
二人とも、自分の能力に自信のある高慢な連中だったはずで、婚約者にいてこまされている姿など見たことがない。
え? 何? 私達が王都にいない間に何があったの?
周りの皆の反応を見る限り、これが当たり前みたいな感じだけど、いつからこの光景が新常識になったの?
「なんか凄ぇな」
ヒューが感心したように呟いた。
そこへ、
「ステラ!!」
聞きたくない雑音が聞こえて、私はヒューの腕にがしりとしがみついた。