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「ジュリエット! この実って食べられるかしら?」
「毒はないけど死ぬほど苦いよ。ステラは食べられないものばっかり集めてくるね。才能?」
森で木の実やキノコを籠いっぱいに集めてきたというのに、ジュリエットに呆れ顔をされてしまったわ。むう。
「ジュリエットとヒューは毎日森で遊んだり訓練したりしてるんでしょう! そっちが詳しくて当然じゃない!」
「でも、ジョージはちゃんと食べられるものを集めてくるよ?」
ジュリエットの言葉に私が黙り込むと、ジョージが「ふふーん」と言いたげな顔をした。
「ジョージってば、初めて会った時は天使みたいだったのに……いつから私をそんな得意げに見下すようになってしまったのかしら!」
私は大げさによろめいて見せた。
「僕もステラに初めて会った時は「お姫様が来た!」って思って緊張したんだけどねぇ……」
今度はやれやれと言いたげに小さく首を振るジョージ・ベルン子爵令息(8)。
年上のお姉さんやお兄さんとばかり遊んでいるせいか、この頃やけに大人びた表情を見せたりする。
「あはは。じゃあ今のステラの印象は?」
「ヒュー依存のヒューイットマニアでヒューイット・グレイオタクの「今日もヒューがかっこいい病」の重病者」
ジュリエットに尋ねられたジョージが間髪入れずに答える。
なによなによ! 私が毎日「今日もヒューがかっこいい!」って言うのはヒューが毎日かっこいいから仕方がないのよ!
「おい」
頭の上で声がした。
はらはらっと紅葉した葉が落ちてくる。
「食べられそうなもんみつけたのか?」
枝を華麗に伝って大きな木から降りてくるヒューの姿。
「今日もヒューがかっこいい! 軽やかな身のこなし! ダークブロンドと黒い服が紅葉に映えるぅぅっ!! 今この瞬間が絵画!!」
「本日の発作」
ジョージが溜め息を吐くけれど、私は地面にざしゃっと着地したヒューがかっこよすぎてそれどころじゃなかった。
「ヒューイットの戦利品は?」
「おら」
ヒューが背中に背負っていたウサギをジュリエットに見せる。
「上出来上出来。ヒューも狩りが上手くなったじゃん。私にはかなわないけどね」
「なんだとこら」
ヒューが睨みつけるけれど、ジュリエットはどこ吹く風だ。実際、狩り勝負ではジュリエットが圧倒的に腕が上なので大口叩かれても仕方がない。
「じゃあ今日はウサギ肉とキノコのシチューだね」
「ヒューが狩ったウサギが私の血肉になるのね! ということは、明日の私はヒューに作られたといっても過言ではないわね! つまり、明日のヒューは神ってことよ!」
「もはや狂信者のそれだよ……」
私達は仲良く森を抜けて辺境伯のお屋敷へ帰った。
辺境伯領と子爵領での楽しい毎日。
だけど、それもやがて終わりの時間を迎えようとしていた。