34
子爵領での暮らしは充実していた。
サリーナ様は気さくな方だし、使用人達も皆素朴な人柄で私に対しても好意的に接してくれた。最初は近寄ってこなかったジョージ様も、二週間ほど経つと慣れてきてくれたようで「遊んで遊んで」と私にまとわりついてきてはサリーナ様に叱られている。
私は基本的にサリーナ様にくっついてお仕事を見学したり教わったり手伝ったりの毎日だ。
「ヒューはどうしているかなぁ」
辺境伯の元で頑張っているであろうヒューのことを思い浮かべて自分の心を慰め、いつ頃なら会いにいってもいいか手紙で尋ねてみようかと思っていた矢先、辺境伯からの手紙が届いた。
ヒューの様子を見がてら我が家のお茶会へ来ませんか? という手紙で私はもちろん即座にお返事の手紙を書いたわ。
そして、サリーナ様に見送られ、ジョージ様を連れて辺境伯のお屋敷を訪ねた。
「ようこそいらっしゃいました。グリーンヒル公爵令嬢にベルン子爵令息」
出迎えてくれたフィスラー辺境伯は猛々しい外見とは裏腹に優しい目をした好漢だった。奥様の辺境伯夫人もおっとりとした雰囲気で、夫婦仲が良さそうだ。
「お招きありがとうございます、辺境伯閣下」
「いやはや、このような辺境に公爵令嬢をお招きする日が来るとは。ヒューイット殿に感謝せねばな」
ヒューは辺境伯のとなりで居心地悪そうに佇んでいた。私は飛びつきたいのを抑えてヒューに笑顔を向けた。ヒューは照れくさそうに頭を掻いた。尊い。
「さて、グリーンヒル公爵令嬢。申し訳ない。我が娘を紹介するつもりだったのですが……」
「父上ーっ!」
辺境伯閣下の言葉を遮って、明るい声が響いた。
「公爵令嬢もう来ちゃったの? 見たい見たい!」
明るい赤毛をぼさぼさにして、平民が着るような質素なワンピース姿の少女が走り込んできた。
「こら、ジュリエット。公爵令嬢の前でなんという格好だ」
「すいません! あっ、あなたがグリーンヒル公爵令嬢?」
駆け寄ってきた少女が私の手をぎゅっと握った。
「ヒューイットを追いかけて来たんだって? 情熱的! 話を聞いてすっごく会いたかったんだよ!」
「これっ、ジュリエット」
「あ、ごめんなさい! でも、来てくれて嬉しいよ!」
夫人が慌てて制止するが、ジュリエット様は明るくニコニコ笑っている。
辺境伯令嬢ジュリエット様は確か私と同じ年齢だ。ただし、前回は学園に通っていなかったので人となりがわからなかったのだけれど、こんなに感じのよい方だったとは。
「初めまして。ステラと申します」
「ステラ様! 私のことはジュリエットと呼んで!」
「では、私のこともステラとお呼びください」
「さあ、こっちでお茶しましょう! お父様、何をぼーっと突っ立っているのよ! どいてどいて!」
ジュリエットにしっしっと追い払われて、辺境伯閣下は苦笑いで身を引いた。ご家族仲がよろしいのね。よかった。皆、いい人達だ。ヒューはきっと楽しく過ごせているに違いない。
その後、一緒にあれこれお話をして、私はジュリエットととても仲良くなることが出来た。
ジュリエットは私がいない間のヒューのことも教えてくれたわ! ヒュー情報を補充できて満足です!