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侯爵家の前に何故か第一王子殿下とその取り巻き共がいた。
怪訝に思いつつ挨拶すると、「ステラを解放しろ」と迫られた。
第一王子殿下はステラと婚約したがっているのか。
俺は喉の奥が詰まったように息苦しくなった。俺と第一王子殿下、どこを比べても俺より第一王子殿下の方がステラにふさわしいに決まっている。
本当に、なんでステラが俺にあんなに好意を示してくれるのかわからない。
だけど、俺の方からステラを手放すことは出来ない。
身分が理由であるのも勿論だが、これまであんな風に俺をまっすぐ好意的に見てくれる人間はいなかった。
上に優秀な兄達がいたために、俺は幼い頃から両親にとって居ても居なくても気づかないぐらいの存在だった。両親の目が俺に向くのは、何か問題を起こした時だけ。
誰にも気にされない。期待されない。
そんな俺を、自信満々に素晴らしい人間だと評価してくる変わり者の公爵令嬢。
俺の方から手放すことなんて出来やしない。
第一王子殿下の言い分を黙って聞いていると、急に殿下が悲鳴を上げた。
「殿下に何をする!」
周りの連中が騒ぎ出して、何故か俺が殿下を殴ったことにされていた。
それからは俺の言い分は全く聞いてもらえず、流されるままに家に謹慎になった。
どうやら、俺に問題を起こさせて、ステラとの仲を裂こうというつもりらしい。
なんつう卑劣なやり口だ。第一王子ともあろう者が。
しかし、あの連中の目論見通り、これでステラとの婚約の話はなくなるだろう。
悔しい。けど、俺の立場では何も出来ない。
王子とはいえあんな野郎にステラを奪われるのかと思うと、いっそ決闘でも申し込んでやろうかと思った。
くさくさした気分で引きこもっていると、父様が俺の処分が決まったと言ってきた。
辺境送り。
本気でステラから引き離すつもりらしい。
父様は俺を勘当する勢いだし、母様は俺の顔を見もしない。とうとう完全に見放されたようだ。
まあいいか、もうどうだって。
辺境だろうとどこだろうと好きなところに捨てりゃいいんだ。
何日か過ぎた後、身支度を整えられて説明もなく馬車に放り込まれた。誰も見送りに出てこなかったが、これで俺とこの家との縁は切れたということだろう。
王都から出て、辺境へ向かう街道を走り、何時間かした後馬車が止まった。途中休憩のようだ。
俺は馬車から降りて固まった体を伸ばした。
ガラガラガラ……
こちらへ向かってくる馬車の音が聞こえて、その音が俺の乗ってきた馬車のすぐ後ろで停まる。俺の家の馬車が邪魔で通れないのかと思い、そちらへ目を向けた。
俺の家の馬車よりも遙かに豪華なきらびやかな馬車が停まっていて、扉を開いた少女がキラキラした目で俺に手を振った。
「ヒュー! 追いついた! こっちに一緒に乗りましょう!」
俺は目を丸くして絶句した。




