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結局その日お父様は帰ってこず、翌日に沈鬱な表情で帰宅した。
「第一王子殿下と側近候補達が「殴られた」と証言している以上、罰を与えない訳にはいかないそうだ」
「なんですって!?」
側近候補って、あ・い・つ・ら・か。
今すぐあの生ゴミ共を処理しに行きたい。
本当に王族を殴ったのなら投獄は免れないが、ヒューはまだ十歳。王家とて子供を本気で牢に入れる訳がない。
「どんな罰なのです?」
「うむ。ヒューイット殿を辺境伯の預かりとすることが決まった。学園入学前までだ」
辺境送り……私とヒューを引き裂くつもりね。
「心配するな、ステラ。辺境伯の奥方は陛下の従妹だ。社交には出てこないが立派な御仁だよ」
お父様は私を慰めるように言い聞かせるが、私は必死に頭を働かせてヒューを守る方法を考えた。
ヒューの無実を証明したいのは勿論だが、「やっていない」という目撃者がおらず「やった」と言い張る証言者がいるこの状況ではそれは難しい。
それに、無実を証明して辺境行きを食い止めたとしても、あの生ゴミ共がまた別の手を使ってくる可能性もある。
それならば、いっそ辺境へ行ってしまった方が連中の手が届かなくて安全なのではないだろうか。
学園に入学するまでの一年半だ。
「わかりました、お父様。私も辺境へ参ります!」
「何を言うんだ?」
お父様は面食らったが、私は本気だ。
「お父様。ヒューが遠ざけられて私が王都にいては、第一ゴミ殿下に無理矢理婚約を結ばされるかもしれません」
「ううむ……しかし、お前を辺境へ送るなど出来る訳が……」
「私は病弱で高血圧が深刻で糖尿病な上に物忘れがひどいので転地療養ということにしてください」
「う~む……」
お父様は長い間うんうん唸っていたが、やがて諦めたように溜め息を吐いた。
「お前がそんなにもヒューイット殿に惚れ込んでいるというのならば……辺境伯領の隣に、ベルン子爵領がある。ベルン子爵は亡くなっており、今は子爵夫人が幼い息子に代わり領主代理をしているが、わしは亡きベルン子爵とも子爵夫人とも学生時代からの親友だった。お前を預かってもらえないか尋ねてみよう」
「ありがとうございます、お父様!」
隣の領ならば暇をみつけて会いに行くことが可能だ。
「名目は、お前の領主としての勉強のためといえばなんとかなるだろう。もちろん、行く以上は本気で鍛えてもらえるように子爵夫人に頼んでおくからな」
「はい!」
ヒューの近くにいることが出来て、領地経営の勉強も出来る。一石二鳥だわ。
あ、いや、生ゴミ共から遠ざかれるので一石三鳥かしら?