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「明日はヒューが帰ってくる日~♪」
ルンルン気分でヒューの帰りを待つ私を眺めて、アニーが呆れた表情を浮かべる。
「お嬢様、少しは落ち着いて下さい」
「だって、昨日は王宮で嫌な思いをさせられたんだもん」
早くヒューに会って嫌な記憶を塗り替えたいわ。
「まったくもう。お茶を持ってきますから、小躍りするのを止めて座っていて下さい」
「は~い」
アニーに叱られ、私はくるくる回るのを止めて窓際の椅子に座った。
昨日あれだけ言ったのだし、王妃様からお茶会に誘われることはもうないわね。
粗大ゴミ殿下はわかっていなさそうだったけれど、王妃様は私が望んでヒューを婚約者候補へ迎えたのがわかったようだし。
とりあえず、これで一安心かな。
そう思っていたのに、
「お嬢様! 大変ですっ!」
アニーが血相を変えて走り込んできた。
「どうしたの?」
「それがっ……ヒューイット様が捕らえられたそうですっ!」
椅子を蹴倒して立ち上がった私は、愕然としてその場に立ち尽くした。
***
お父様が帰宅するなり、私は食ってかかった。
「お父様! どういうことですの? 何故ヒューがっ」
「落ち着きなさい。ヒューイット殿は事情聴取が終わって侯爵家へ帰されたよ」
それを聞いて少しはほっとしたが、そもそもヒューがどうして捕まえられたのかがわからない。
「なんの罪なのですか?」
「それがな。第一王子殿下を殴ったらしい」
それのどこが罪なのですか。
思わずそう言いそうになった。
いや、私的には第一王子殿下など殴られようが蹴られようがどうでもいい、むしろいいぞもっとやれと思うけれど、あれでも一応は王族なのだった。
「どうして、そんなことに?」
「わからんが、殿下が言うには侯爵家の前で偶然会って挨拶をしたら、いきなり殴りかかられたと……」
胡散臭ぇー。冤罪の香りがぷんぷんするわ。
「殿下は殴られたと言っているが、ヒューイット殿は否定している。だが、殿下と一緒にいた者達が殿下が殴られたところを見たと証言していてな」
そんなもん捏造に決まってますよ! あいつらはやる! そういう連中だ!
「ヒューは殴っていないと言っているのでしょう?」
「うむ。……しかし、ヒューイット殿は元から喧嘩っ早いと言われていたし、印象は悪いぞ」
そんな馬鹿な。
私は唇を噛んだ。
これは絶対にヒューを貶める罠だ。
前回の、私に一方的に冤罪をかけてきた連中の薄汚いニヤツいた顔を思い出す。
冗談じゃない。ヒューをあの連中から守ってみせる。今度は、私がヒューを助ける。