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王妃様の前なので一応は微笑みを浮かべているが、我ながらひきつっている自覚がある。
さすがに王妃様は私が内心で怒り狂っているのに気づいたようでお茶を濁すように当たり障りのない話題を選んでいるが、粗大ゴミ殿下は私に対しての婚約者面を止めない。
「君は明日から毎日王宮へ来るんだぞ! 僕の婚約者なんだから」
「……ですから、私は殿下の婚約者ではありません。私には婚約を前提にお付き合いしている相手がおります」
なんで言葉が通じないのかなぁ。つーか、これもう帰ってもいいよな。
「王妃陛下。他に話題がないのでしたら、私はこれで失礼させていただきたく存じます」
「え、ええ。そうね……」
了承を得たので礼を言って立ち上がったのだが、それを粗大ゴミ殿下が遮る。
「待て! 君の家にグレイ家の四男が泊まり込んでいると聞いたぞ! 僕の婚約者がそんなふしだらな真似をしていいと思ってるのか! すぐに追い出せ!」
ぶちっ
キレた。私の中にある何かとても太いものが。
「何度言ってもおわかりにならないようですがっ、重ねて申し上げます!! 私がっ、望んでっ、婚約者候補となっていただきっ、教育が終わり次第婚約する相手はヒューイット・グレイ様ですっ!! 私はヒューイット様と結婚するのです!! 理解できましたかっ!? ステラ・グリーンヒルはヒューイット・グレイと結婚するのですっ!!」
王妃様が紅茶のカップをひっくり返した。私の大声に驚いたのか、粗大ゴミ殿下はぽかん、としている。
私は「失礼っ!」と言って踵を返した。
はーっ。帰りに神殿に寄って厄払いしていきたいわ!
心の栄養ががっつり減ったわよ!!
私は怒りながら帰宅の途に着いたのだった。
***
ステラが何故か突然怒り出して帰ってしまった。
なんでだろう。僕の隣でにこにことうれしそうにしていたというのに。
まあいい。母上とステラを会わせたのだから、これで婚約話も進むだろう。
そう思ったのに、ステラの姿が見えなくなると母上は深い溜め息を吐いた。
「貴方が「ステラは僕と婚約したがっている」というから、そうなのかと思っていたけれど、まったく違うじゃないの。諦めなさい」
「母上?」
「ステラ嬢は婚約者候補を愛しているのでしょう」
僕は唖然とした。
「そんな訳ないでしょう」
「そうとしか思えなかったわよ。ステラ嬢はこのお茶会に呼ばれて迷惑だったのでしょう。後でお詫びを送らなければ」
なんでだ。母上は僕の味方だと思っていたのに。
ステラが僕と婚約出来ないのは婚約者候補のグレイとかいう奴がいるからだな。
なら、そいつを追っ払ってしまえば解決だ。
ふん。侯爵家の四男など僕の力があればすぐに潰せるさ。