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 公爵家に戻ってきたヒューを出迎えると、彼は少し浮かない顔で目をそらした。

 こころなしか、元気がないように見える。


 はっ。もしかして、一度実家に帰ったことでやはり我が家で過ごすのが嫌になってしまったのでは。


「ヒュー……もしかして、実家から離れたくないの?」


 恐る恐る尋ねてみると、ヒューは目を丸くしてぱちりと瞬いた。


「いや、全然そんなことねぇよ」

「本当?」


 私が不安を抱いているのに気づいたのか、ヒューは安心させるように微笑んでくれた。


「当然だろ。ここに居ればゆっくり勉強できるしな」


 私はほっと安堵した。


 でも、ずっと勉強だけではヒューも息が詰まるだろう。

 私は今日の授業の後に一緒に街へいかないかと提案した。


 二人でおでかけするのは初めてだ。もちろん、少し離れたところに護衛はいるけれども。


「ヒュー、どこか行きたいところはある?」

「別に……強いて言うなら人があまり多くない場所がいいな」

「じゃあ、西の通りの方へ……」

「ヒューイット?」


 人の流れから抜け出そうとした時、ヒューを呼ぶ声がした。

 そちらへ目をやると、十五、六歳くらいの少年がこちらを見ていた。

 こころなしかちょっとヒューに似ている。


「ああ、もしかして、グリーンヒル公爵令嬢でしょうか?」


 少年はヒューの傍らに佇む私を見て、ぱっと破顔した。


「お初にお目にかかります。ヒューイットの兄のビルフォード・グレイと申します。こちらは私の婚約者のエリザベスです」


 ニコニコと人の良さそうな笑みを浮かべる少年が連れていた令嬢を紹介する。

 ヒューのお兄さんとその婚約者か。


「初めまして。ステラと申します」


 ヒューの身内にはにこやかに対応すべし。私は出来る限りの上品な微笑みを浮かべてカーテシーをした。


「いやいや。お会いできて良かった。うちの愚弟が公爵家に迷惑をかけていないか心配していたんですよ」

「迷惑なんて……」

「何せ、不出来な弟なもので。口は悪いし、すぐに手が出るような奴ですからね。公爵家の婿など務まる器じゃないので、いつ家に帰ってきても迎えてやるつもりです。な?ヒューイット」


 ヒューイット様は返事をしなかった。代わりにビルフォードを睨みつけて喉の奥を唸らせた。

 まるで手負いの獣のような雰囲気に、私は思わずヒューの袖を掴んでいた。


「家でもせめて公爵家に迷惑をおかけしないように躾てはいるのですが、先日もすぐ上の兄を殴って暴言を吐きましてね」

「あれはっ……そっちが下んねぇこと抜かしやがったからだろうが!!」

「おい。こんな往来で大きな声を出すな。ステラ嬢に恥をかかせる気か」


 ヒューがぐっと口を噤んだ。拳を握り締めて耐えているのを見て、私は思わず口を開いた。




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― 新着の感想 ―
[一言] いつも楽しく読ませていただいています。続き楽しみにしています
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