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ヒューが素敵なまま三日が過ぎ、彼は実家へ帰ってしまった。
涙の別れを乗り越えて、本日の私はベッドリー家のお茶会に招かれていた。
「ステラ様はグレイ侯爵家のヒューイット様を婚約者候補としてお迎えされたとか」
私より二つ年上のベッドリー家のご令嬢、マルチナ様が微笑む。
マルチナ様の他にはタイロン伯爵家のスーザン様、クルーツ子爵家のリリー様が参加している。両者ともベッドリー家の派閥だ。
「ええ。そうなんですの」
「まあ、それはおめでとうございます」
「いずれ、正式な婚約者となられるのが楽しみですわ」
「ありがとうございます」
一頻り言祝がれた後、スーザン様が「ですが」とさりげなさを装って口にする。
「わたくし、ステラ様は第一王子殿下と婚約されるとばかり」
私のこめかみがぴくっと痙攣した。
「いやですわ。私などが第一王子殿下の婚約者だなどと。おぞま……恐れ多いのでそのようなこと口にしないでいただけますか?」
「あら。ごめんなさい。でも、家柄も良く素晴らしい令嬢であるステラ様が王子妃、ひいては王妃となられることを望んでいた貴族は肩を落としていると思いますわ」
肩が落ちようがなんだろうが、もう二度とあのド外道根腐れ汚物殿下と婚約するだなんて御免よ。
あら? でもそうすると、別の令嬢が婚約者になるのよね。
私と同じ目に遭うのは見過ごせないわ。
前回と同じ状況になりそうだったら助けられるようにしておかないと。
「ご存じのことと思いますが、グレイ家の奥方様は我がベッドリー家の親戚ですのよ。これも縁ですし、これからステラ様には私達と仲良くしていただきたいわ」
マルチナ様が本日の本題を切り出す。
「ええ、それは是非」
ヒューのためにも、私の交友関係は広い方がいい。
前回は我が家の派閥の令嬢とばかり親しんでいたけれど、それであのザマですものね。
今回はきちんと自分で付き合う相手を選ぶわ。
私がド外道以下略殿下の婚約者にならないということは、マルチナ様が婚約者に選ばれる可能性は非常に高い。
マルチナ様は前回のぼんやりしていた私と違いしっかりした完璧なご令嬢だけれど、あのド外道共の悪意は半端ないのでこちら側の結束は深めておかないとね。