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「コリン。まず一つ言っておくわ。伯母様が何を言ったにせよ、それは伯母様が勝手に決めただけで我が家で了承はしていない話よ。つまり、ただの伯母様の希望よ」
そういえば、伯母様は妹である私のお母様が公爵夫人となったことをひどく妬んでいると感じることが前回は多々あったわ。
前回のこの年齢の頃は伯母様の企みになんか少しも気づけなかったけれど、今ならわかる。伯母様は私とコリンを結婚させていずれは公爵家の実権を握るつもりだったんだわ。前回は私がド外道殿下の婚約者になったためにごり押しでコリンを養子に押し込んでいたし、伯母様の公爵家への執念は並大抵のものではなさそうだ。
でも、今回は私は誰にも公爵家を譲るつもりはない。
「私はここにいるヒューイット・グレイと共に公爵家を継ぐと決めたの。貴方や伯母様が口出しする権利は一切ないわ」
「なっ……」
コリンがぷるぷる震えだした。
「なんでこんな奴とっ……」
「ああ?」
コリンに指をさされたヒューが不快そうに眉根を寄せた。
「知ってるぞ! お前、「出来損ない」なんだろ? そんな奴、公爵家にふさわしくない!」
ガンッ
大きな音が響いた。
ヒューが机を蹴り上げた音だ。
「なら、勝手に人の家に押し掛けてきて、勝手なこと喚くガキは公爵家にふさわしいのかよ? ああ?」
ヒューが席を立ってコリンに歩み寄り、後ずさる彼を壁際に追いつめた。
コリンが壁に背をつけると、彼の真横の壁をドカッと蹴りつける。
「ステラは俺のものだ。ガキは引っ込んでろ」
コリンがびくっと震えてぼろぼろ涙をこぼし始めた。
「う、うわぁ~んっ!」
コリンは泣いて学習室から逃げ出した。
ヒューは「ふう」と一息吐くと、がりがり頭を掻いて振り向いた。
「つい追っ払っちまったけど、良かったのか?」
「問題ありません! ありがとうございます!」
ヒューがド外道一味の一人をやっつけてくれた! やはりヒューは私の恩人だわ!
それにしても、この頃のコリンがまさか私と結婚するつもりでいただなんて、前回はまったく知らなかったわ。
伯母様もこのくらいで諦めるとは思えないし、今後も注意しておこう。
老教師は机や壁を蹴りつけたヒューの不作法を叱ったけれど、私は「ヒューは私のために怒ってくれたのです!」と訴えて「ヒューがいかに勇敢で素敵な人物であるか」を事細かに説明した。
そのおかげか、最後には老教師もヒューは悪くないと認めてくれたわ。
老教師がちょっとげっそりしていたのは気のせいかしら?