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「おはよう、ヒュー」
今日からヒューと一緒に領地経営を学ぶので、私はニコニコしつつ学習室へ入った。既に入室していたヒューは浮かない顔で私を見た。
「どうしたの?」
「……お前もわかっているだろうが、俺は出来が悪いんだよ。グリーンヒル公爵領のことも何も知らないし。グリーンヒル公爵を呆れさせる結果にしかならないだろうと思って」
なるほど。ヒューは勉強に自信がないのね。
確かに、学園での成績も良くはなかったはず。
「そんなに重く考えないで。一緒に学ぶのだから、いつも隣に私がいるのよ」
私はヒューの隣の席に着いて、彼に笑いかけた。
「困ったことがあったら何でも言ってちょうだい。私は隣にヒューがいるから頑張れるわ」
「おう……」
ヒューは少し決まり悪そうにそっぽを向いた。
ヒューは自分のことを出来が悪いと言っていたけれど、授業が始まると意外なほどに真剣だった。先生の話にもちゃんと耳を傾けていた。
お父様が選んでくれた教師は既に息子に爵位を譲っている老子爵で、穏やかで優しい方だったため、授業は滞りなく進んだ。
何事もなく授業が終わりそうになった頃、突然コリンが学習室に怒鳴り込んできた。
「ステラ! どういうことだよ!」
「コリン?」
なんてこと。ヒューと二人の授業を邪魔するだなんて。その罪、万死に値する。
「コリン様、困ります。お嬢様はお勉強中ですと申し上げましたのに」
「うるさいな! 使用人が僕に命令するな!」
止めようとするアニーをコリンが罵倒する。テメェこの。
「コリン。我が家の使用人に貴方がそのような無礼な態度をとる権利はないわ。すぐに出て行きなさい」
私が厳しい声で叱りつけると、コリンは緑の目を潤ませて言った。
「だって! ステラが悪いんだよ! お母様がステラが僕以外の男を婚約者にしようとしてるって教えてくれたんだ! ステラと結婚して公爵になるのは僕なのに!」
はあ?
何ほざいてんだこの小僧。
「コリン。私は貴方と結婚するつもりなんて全くないし、そんな話を聞いたこともないわ」
「嘘だ! だって、お母様がずっと昔から僕に「将来はステラと結婚して公爵になるのよ」って言ってたもん!」
伯母様め。やっぱり公爵家を狙っていやがったな。
「お嬢様。実は何年も前から伯爵家の方から婚約の打診は来ていたのですが、旦那様が断っていたのです。断っても断っても繰り返し持ち込まれておりましたが」
アニーがこそっと耳打ちして教えてくれた。ろくでもないな、まったく。
私は涙目でこっちを睨む小僧に向き合った。