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 天の門をくぐって神の御元へ行けたなら、私はヒューイット・グレイへの感謝を天の神へ余すことなく伝えよう。

 どうか彼が、幸せな人生を送れるように。


 安らかな気持ちで、私は目を開けた。


 見慣れた天井が見える。


「お嬢様。おはようございます」


 侍女のアニーの声が聞こえる。


「……え?」


 私は身を起こして周囲を見回した。見慣れた自分の部屋に、目を丸くしているアニーがいる。


「ステラお嬢様。どうかなさいましたか?」

「……アニー?」

「はい?」


 私は自分を見下ろした。ネグリジェを着て、たった今まで寝台に横になっていたようだ。


「ア、アニー? 私、助かったの?」

「はい?」


 首を触ってみるが、包帯も巻かれていなければ傷もない。


「お嬢様。御気分が悪いのですか? 今日はお茶会ですが、大丈夫でしょうか?」


 アニーが顔を覗き込んでくる。

 お茶会……?


「王宮での初めてのお茶会、あんなに楽しみにしていらしたでしょう?」


 私は目を見開いてアニーをみつめた。

 王宮での初めてのお茶会……それって、私が十歳の時に参加したお茶会のこと?


「アニー、私は何歳?」

「お嬢様? 本当に大丈夫ですか? お嬢様は先月十歳になられたでしょう」


 嘘。もしかして、時間が巻き戻ってる?

 いいえ。今までのは夢だったのかしら?……いいや、あれが夢のはずがない。あれは現実に起きたことだ。

 首に当てた冷たい感触を思い出しながら、私は考えた。


 私は死んだはず。それなのに、どうして十歳の頃に戻っているのだろう。


 十歳の時、王宮で行われたお茶会でジュリアス殿下と出会った。それまで出会ったことがなかった同い年の男の子で、人気者の王子様という存在に憧れを抱いて、「王子様と結婚したい」とお父様にねだったのだ。

 それで、婚約者になった。けれど、八年後に婚約を破棄されて地下牢へ放り込まれる。そこで、私は……


「お嬢様。お茶会へ行く仕度をしなければ」


 アニーに促され、私ははっとした。

 お茶会に行きたくない。というか、ジュリアス殿下に会いたくない。

 どうしてかはわからないけれど、婚約前に戻っているのだ。もうあんなことは二度と御免だ。


 お茶会には行かない。

 そう言い掛けた。けれど、同時に思い出した。


 ヒューイット・グレイ。


 グレイ侯爵家の四男で、優秀な兄達と比べられ、荒れた性格で常に嫌われ者だった。確か、婚約者もいなくて、学園を卒業したら侯爵家を出されて平民になると聞いていた。


 そうだ。ヒューイット・グレイもあのお茶会に参加していた。


 ていうことは、お茶会に行けばヒューイット・グレイに会える!


 王太子には二度と会いたくないけれど、ヒューイット・グレイには会いたい。会ってお礼を言いたい。

 いや、ヒューイット・グレイが私のことを覚えているとは限らない。八年前に戻ってしまったのは私だけかもしれない。

 ヒューイット・グレイがただの十歳の子供だったとしても、私は彼には返しきれないぐらいの恩がある。


 どうして時が戻ったのかはわからないけれど、やり直すことが出来るなら、私はヒューイット・グレイへの恩返しのために生きよう。


「アニー! 私、お茶会へ行くわ!」


 ヒューイット・グレイへ会う。そのためだけに、私はお茶会への参加を決意した。




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