19
ヒューイット様……ヒューが私がいると落ち着かないというので、ゆっくりしてもらうために私は離れから出て本邸に戻った。
お父様に向かってごねにごねた甲斐があって、力業で「ヒューが居る日は離れで夕食をとる権利」を勝ち取ったのでまた後でヒューに会えるわ。
「うふふ……」
上機嫌で自室に戻った私は、アニーから差し出されたものを見て一気にテンションが地の底まで下がった。
何故か、ジュリアス殿下から手紙が来ていた。え? 何の用? 嫌なんだけど。
正直、中身も見ずに燃やしたいし、触るのも嫌だ。
でも、曲がりなりにも王子からの手紙を読まずに廃棄する訳にはいかない。
くっそ、面倒くせぇ。
「お嬢様、顔がものすごく嫌そうです」
「だって、嫌なんだもの。何を血迷って私に手紙なんか送ってきたのよ。紙の無駄だわ」
嫌々ながらも、仕方がなく手紙を開いた。
そこに書かれた内容に、私は眉間に深く皺を刻んだ。
要約すると、「私が殿下と結婚したいと思っていることを正直にお父様に伝えて王家に婚約を申し込むこと」というたわ言がくどくどしく書き連ねられていた。
なにこれ。呪いの呪文? わかった、不幸の手紙ね。
「アニー、今すぐこの手紙を神殿へ持って行って清めてもらってちょうだい。この手紙は瘴気にまみれているわ」
「お嬢様……」
「ちっ。わかったわよ。お父様にお願いして陛下へ届けてもらうわ」
ものすごーく優しい目で見れば、私と婚約したいという寝言をほざいていると読みとれる。怖気が走るわ。
婚約の申し込みと取れなくもない以上、お父様から正式にお断りしてもらわねば。ド外道殿下と婚約する気なんか微塵もないし、そもそも、私にはもう婚約者候補がいるんだもんねー!へへーん!
ド外道腐れ殿下なんかより百億倍素敵な婚約者候補がいるんだからね!
「ねえ、アニー。こんな手紙を送ってくるってことは、口にするのもおぞましいけど殿下は私が婚約者になるとでも勘違いしていたのかしら?」
「おぞま……お嬢様は筆頭公爵家のご令嬢でいらっしゃいますから、お妃となるにふさわしい資格と資質を誰よりも備えていらっしゃいます。そのため、殿下はお嬢様を婚約者にと考えていらっしゃったのでしょう」
迷惑だわー。気持ち悪いわー。せっかくヒューが我が家にやってきた記念日だって言うのに、嫌な記憶が残っちゃったじゃない。とんでもない嫌がらせだわ。
「お祓いにでもいこうかしら?」
「お嬢様……」
とにかく、この手紙は可及的速やかに処理してくれるようお父様に頼んでおかなくちゃ。