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公爵令嬢の婚約者候補になった。
意味がわからない。なんで俺が。
我が家は今朝から阿鼻叫喚だ。無理もない。将来性のない凡愚な四男が筆頭公爵家の令嬢に惚れ込まれて婚約者候補になったのだから。
「今は候補だが、うまく運べばグリーンヒル公爵家に婿入り出来るぞ……!」
「まさか、こんなことがあるなんてっ……」
父様は滝のような汗を流しているし、母様はハンカチで目を押さえている。
「ヒューイット! 信じられないような話だが……この幸運を決して逃すんじゃないぞ!」
「そうよ! これは神様が与えてくれた一度きりのチャンスよ!!」
「ステラ様の機嫌を損ねないようにな!!」
「乱暴な口をきいたりするんじゃありませんよ!!」
朝から同じ内容を何十回も繰り返されて、俺はほとほと嫌気がさした。
ようやく解放されたと思ったら、今度は兄貴達が絡んでくる。
「なんで、お前みたいな落ちこぼれがグリーンヒル家に婿入り出来るんだよ!?」
「そうだ! お前なんかふさわしくないって自分でもわかってんだろうが!」
次男ジオールと三男ギャレッドが俺の行く手を阻んでイチャモンをつけてきた。
「辞退しろよ!」
「俺達にまだ婚約者がいないのに、なんで出来損ないのお前に先にこんな美味い話が回ってくるんだよ? 辞退して、代わりに俺達を紹介しろよ」
「……うぜぇ。向こうが俺がいいって言ってんだから諦めろよ」
俺が舌打ちすると、ジオールに胸ぐらを掴まれた。
「調子に乗んじゃねぇぞ!」
「文句があるなら俺じゃなくてグリーンヒル公爵家に言えよ!」
一触即発の雰囲気で睨みあう俺達の間に、パンパンと軽い音が響いた。
「そこまでにしておけ」
長男のビルフォードが手を叩きながら現れ、俺を見てニヤリと笑う。
「どうせ、候補止まりだ。すぐに追い出されて帰って来るさ」
こいつの婚約者は伯爵令嬢だ。おそらく、俺が公爵令嬢の婚約者候補になったのを一番快く思っていないのはこいつだ。
「それもそうだな」
「すぐに見切られるだろ」
ゲラゲラと笑う連中にムカついて、俺は壁を蹴りつけて黙らせた。
「見苦しい嫉妬してんじゃねぇよ」
「なんだとこの……」
「止めとけ。喧嘩して公爵家の婚約者候補様にお怪我なんかさせたら叱られるぞ」
さんざん言いたいことを言って、兄貴達は俺の前から去っていった。
すぐに見切られるなんて、誰より俺がそう思っている。どう考えても、俺は公爵家にふさわしい人間じゃない。
「わかってんだよ……」
俺はポケットからハンカチを取り出して、青紫の花の刺繍をみつめた。




