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「ステラや……お茶会の話を聞いたのだが、婚約したいというのは本気かね?」
「はい。お父様」
その夜、お父様に真剣な表情で尋ねられて私は即答した。
「そうか……ヒューイット・グレイの評判は知っているのか?」
「もちろんです」
未来の分まで知っているので、今現在囁かれているより遙かにろくでもない評価がされているのまで知っている。
暴れた殴った暴言を吐いた、そんな噂ばかりだった。
ヒューイット様が口が悪くすぐに頭に血が上り暴力的なのは確かだろう。
けれどそれが何だって言うの。
「お父様、世間の評価がどうあれ、私にとってはヒューイット様は素晴らしい御方なのです」
ヒューイット様が誰かを傷つける発言をするなら私がお諫めするわ。誰かを殴ろうとしたら体を張ってお止めするわ。どうしようもなくて暴れるしかないような状況にヒューイット様を追い込んだりしないわ。
私は胸を張って微笑んだ。
お父様はしばしの間頭を抱えて悩んでいたが、やがてこう提案した。
「ステラの気持ちはわかった。しかし、父様達はまだヒューイット殿のことをよく知らん。なので、いきなり婚約者とすることは出来ない。そこでだ、ヒューイット殿にはまずは婚約者候補として我が家にて教育を受けてもらう」
お父様の話はこうだ。
私と結婚するということは、公爵家に婿入りすることになる。婿として、女公爵となる私を支えることが出来るか否かを見極めるため、我が家で教育を施す。同時に、私も公爵家を継ぐための教育を始める。
前回はこの頃からお妃教育が始まったのだし、公爵家を継ぐ教育ならコリンがやっていたのを見ていたからなんとなく想像はつくわ。
婚約者の家で教育を施すのはよくある話だし、及第点をとれるまでは候補のままにしておくのもよくある話だ。家によっては複数の候補へ教育を施して最も優秀な者を婚約者に選ぶという形を取る場合もある。
「はい。それで構いません」
我が家で教育を施すということは、これからヒューイット様と一緒に勉強できるということだわ。
ヒューイット様は出来が悪いと言われていたし、学園の成績も芳しくなかったのでしょうけれど、今回は私が全力でサポートさせていただくわ。
ああ、楽しみ!
「ありがとうございます、お父様」
こうして、私とヒューイット様は正式に婚約者候補となったのだった。




